緑のgooは2007年より、利用していただいて発生した収益の一部を環境保護を目的とする団体へ寄付してまいりました。
2018年度は、日本自然保護協会へ寄付させていただきます。
日本自然保護協会(NACS-J)の活動や自然環境保護に関する情報をお届けします。
私たちの生活に欠かせない電気。人が安心して暮らせるよう、家の中も、外も照明に照らされた環境が今では普通になっています。しかし、生きものにとってはどうでしょうか?これまであまり考えてこられなかった「光害」という問題について解説します。
一枚の写真から話を始めよう(写真1)。トビズムカデがツノトンボを捕食している。現場は栃木県の山の中、白いシーツの上である。周囲でゴミのように写っているのは小さな虫たちだ。東京農工大学農学部の学生が「夜間の屋外照明が昆虫群集に及ぼす影響」という修士論文研究のため、屋外照明の影響を受けない山中で、ライトトラップの調査をしていた際の出来事である。光に誘引された昆虫の中には10種の絶滅危惧種が確認された。
環境庁(現:環境省)は平成10年に光害対策ガイドラインを策定して公表した。私はこの時の検討会委員の唯一の生物研究者として参加していた。光害はそれまでの大気汚染、水質汚濁、騒音、振動などの典型7公害に加えて8番目の公害にすることを期待していたが、いまだに公害としての意識は定着していないようである。この検討会の際に、人工衛星で撮影された夜の地球の写真を用意していただいた。夜間照明で日本列島がライトアップされて、国土の形が明確にされているのを見たときには、日本の夜は明るすぎる、と愕然とした。その後、環境省は平成18年と令和3年に光害対策ガイドラインの改訂版を策定している(※1)。
光害は英語では「light pollution」と呼ばれることが多い。pollutionは公害の分野では大気汚染などの汚染に相当する用語であり、light pollutionは光による汚染の意味で使われる。欧米ではlight pollutionに関する図書は数多く刊行されて おり(写真2)、学術論文も数多く発表されている。わが国の現状とは大きく異なる。
光害は、生きもの以外の影響も考えねばならない。平成10年の光害対策ガイドラインの会議には多くの天文学者が参加していた。そのときの議論で星空のランキングが話題にされた。これは、夜空の暗い順に、見える星のランクがあるという考え方である。
①最も暗い夜空は、空に砂を敷き詰めたように星がある状態で、星降る里、と言えるものである。星座も何も区別がつかない星空である。
②やや明るい夜空となると、天の川が明確になる。
③さらに明るくなり星の数がずっと少なくなると、北斗七星が手に取るように分かるようになる。
④最後は宵の明星と明けの明星だけが見られる大都会の夜空である。
自分が住む町の夜空が、現在、この中のどのランクになるのか、将来、どのランクになりたいのか。星空の理想を求める議論は、夜空の自然保護の議論として後世の歴史に残るものとなるであろう。
レイチェルカーソンは、『Silent spring』の冒頭で、春が来ても鳥の声が聞かれない、沈黙の春、を述べているが、このままではヒトだけが賑やかで、生きものがいない静かな夜 「silent night」が訪れることが危惧される。
著:亀山 章(NACS-J理事長。平成10年度環境庁「光害対策手法検討会」委員)
(注釈)
※1:環境省の光害対策の関連資料:
http://www.env.go.jp/air/life/hikarigaitaisaku.html
※2:照明機器から照射される光で、その目的とする照明対象範囲外に照射される光