アーティスト尾花賢一さんが渋谷の変遷を掘り下げ巨大作品として描いた壁面アート「ナウ渋谷」が5月4日から、渋谷ヒカリエ(渋谷区渋谷2)の歩行者デッキ「ヒカリエデッキ」の壁面に掲出されている。(シブヤ経済新聞)
植栽に立てられた漫画作品
展示場所は、ヒカリエデッキの中間地点の壁面。明治時代に新聞社が編さんした渋谷駅周辺の地図を大きく引き伸ばしたものを下絵にして、現地で「ナウ渋谷」と力強く描いた。その横に見出しのように添えた「足元に広がる『時層』」という言葉も目を引く。
「今回の作品は、渋谷の川がテーマ。駅の中心の場所では今は暗渠(あんきょ)になっていて、なかなか見えなくなっているものを作品で可視化したいと考えた。渋谷の『現在地』を知るために、僕たちが立っている土の下に何があるんだろうかと考えてもらえたら。よく見てもらうと、地図には当時周辺にあった小学校など、今はないものも描かれていて、それだけ見てもらっても楽しめると思う」と話す。
「ナウ渋谷」の言葉は、尾花さんが作品制作に当たり、さまざまな資料に目を通す中、「1970年代の渋谷をまとめた資料の中で何気なく使われていた言葉がキャッチーで胸に響いた」と言い、タイトルに付けた。今回、ヒカリエデッキでの壁面アートプロジェクトで初めて、デッキの反対側にある植栽にも展示範囲を広げた。
1981(昭和56)年、群馬県生まれの尾花さんは現在、秋田県を拠点に活動。人々の営みや伝承、土地の風景などから生成したドローイングや彫刻を制作し、現実と虚構の世界を往来しながら体感できる、ストーリー性のある漫画形式のドローイング作品も発表している。今回、劇画調で描いた漫画を約60枚にわたる「看板」にしてそれぞれ間隔を置きながら植栽に立てた。
「秋田に住んでいても、意識しないと今の風景がどんどん風化して記憶からなくなっていってしまう。特に今はデジタルで全てが残せてしまう感覚になる。渋谷のまちがどんどん変わっていくことは一見悲しいことにも思われるが、その前からいろいろな積み重ねがあり、今のまちができた。いろいろな変遷を積み重ねて、今があることを表現できたらと考えた」と明かす。
漫画は、主人公のイモリの語りの中で話が進んでいく。「博物館の展示ではできないこと。それができるのがアートの可能性。展示期間が長いので、通勤や通学で通る人やフラッと来た人にもちょっとずつ見てもらい、まちの見方が変わって『未来』を考えることにつながれば」と話す。
展示期間は9月末までを予定。