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(Boulder)vol.13 牛は牧草でなくトウモロコシを食べる動物?

  • 2010年7月1日

ボールダーの牧草飼育の牛
ボールダーの牧草飼育の牛
 牛はトウモロコシではなく牧草を食べる動物だ。牛の胃はルーメンと呼ばれ セルロース(繊維素)をプロテイン(たんぱく質)に変換するバクテリアを有し発酵タンクのような役割を果たす。しかしアメリカでは廉価であること、短期間で太らすことができるという理由から牛にトウモロコシを飼料として与え飼育することが有益とされている。本来は田舎で牧草を食んで育つように創造された動物であるにも関わらず、人間は彼らにトウモロコシのような穀物を与え、そして思わぬ現象を引き起こしてしまった。


トウモロコシを食べて育つ牛

CAFOsで飼育される牛
CAFOsで飼育される牛 Photo:www.epa.gov
スーパーに並ぶトウモロコシ飼育の牛肉
スーパーに並ぶトウモロコシ飼育の牛肉
 その現象の一つ目は、トウモロコシに含まれる高でんぷん質が牛のルーメン中に泡沫状の粘膜層を形成させ、ガスが体外に放出されるのを阻害するという現象だ。このガスはルーメンを風船のように膨らませ肺を押し上げ牛を窒息させる。時折、牛の食道にホースを無理やり押し込み溜まったガスを抜かなくてはならないほどだ。
 二つ目の思わぬ現象は、トウモロコシ飼料がルーメン内のpHレベル(水素イオン指数)を上昇させ牛の病気の原因になってしまったことだ。これが牛の腸の中のpHレベルまで増加させ、大腸菌や人間をも死に至らしめるその他の病原体を増殖させることになった。
 トウモロコシ飼育の牛はしばしばCAFOs(Concentrated Animal Feeding Operations)と呼ばれる大規模で工業的な肥育場で育てられる。この肥育場では身動きがとれないわずかな空間に閉じ込められた牛にたっぷりと飼料が与えられ同じ場所で糞尿を垂れ流し続けるため、深刻な衛生上の問題と環境汚染を引き起こしている。そしてこの牛を生き長らえさせるために、抗生物質、ステロイド、成長ホルモンがトウモロコシ飼料に混ぜられ投与される。

 これらの思わぬ現象を引き起こしてもなお、そしてそれらの問題を克服するべく対策がとられ始めてもなお、アメリカではトウモロコシ飼料で飼育されたものがもっとも商業的にポピュラーで入手しやすい牛肉なのである。
 なぜだろう?答えは「より美味しいから」だろう。でもそれは真実なのだろうか。
それを確かめるためにボールダーのファーマーズ・マーケットに行って来た。地元ボールダーっ子が「ナチュラル、ローカル、ケミカルフリー 」の牧草で飼育させた牛肉を求めてここを訪れる。私の個人的な牛肉の味比べチャレンジ談をご紹介する前に、 今日のアメリカでトウモロコシがほとんどの食品に使用されるに至った経緯について興味深いサイドストーリーに触れておきたい。


世紀の発明がもたらしたもの

一面のコーン畑
一面のコーン畑 Photo by Jimmedia
 20世紀初め、ドイツ人化学者フリッツ・ハーバーが窒素分子からのアンモニア合成法を発明した。この発明は空気中から窒素を固定して取り出し、重要なエネルギー源として人工的に窒素を多方面で利用することを可能にした。
 植物の光合成には窒素が必要不可欠であるが、多くの植物は空気中の窒素をそのままでは摂取できない。元来ファーマーが作物に窒素を摂取させる唯一の方法は、アルファルファやクローバーなどのマメ科植物を作物と作物の間に植えてやることだった 。これらマメ科の特別な植物は根に魔法のようなバクテリアを持ち、空気中から窒素を吸収してそれを土に注入するというトリックをやってのけるからだ。この自然の生物学的プロセスは食物の生産量を厳格に支配し、それゆえに人類の繁栄をも左右してきた。
 しかしフリッツ・ハーバーの発明以後、全てが劇的に変化した。皮肉にもこの世紀の発明は第二次世界大戦でドイツの爆弾製造のために使用され、戦後アメリカではトウモロコシ栽培に最大の恩恵をもたらした。窒素入りの化学肥料が誕生したためだ。窒素を扱っていた爆弾工場は素早く化学肥料工場に転身し、当時既にハイブリット種の開発によって(極端に接近して苗を植えても同規格に育つよう)進化していたトウモロコシはこの化学肥料を使用して栽培するとその他のどんな作物よりも1エーカー当たりの生産量に優れているということがわかった。


消え行く牧草地

トマトケチャップの成分表示にもコーンシロップが
トマトケチャップの成分表示にもコーンシロップが
 従来は1エーカー当たり80ブッシェル(1ブッシェル=約35リットル)のトウモロコシの収穫が出来ていた土地は、今や窒素化学肥料を使用することで1エーカー当たり200ブッシェル以上の収穫が見込める。もはやマメ科植物を使って土へ窒素を混ぜてやらずに済むため、輪作する必要もなくなった。一年中、何年も続けて同じ畑でトウモロコシを栽培することが可能になった。もはや彼らの畑には自然の肥やしを供給してくれていた動物たちの存在も不要になり、それどころかその動物たちが生活していた場所自体も金儲けになるトウモロコシの栽培スペースにあてられた。1950年代までにアメリカ中の農家がこぞってトウモロコシ栽培に依存するようになった。これらの農家を保護するため、 合衆国政府は市場でトウモロコシの供給価格が栽培コストを下回るような事態が発生した場合は補助金を支給して損害差額を補償している。

 今日、トウモロコシはアメリカ人が口にするありとあらゆる食品の中に使われている。コーラなどの炭酸飲料に使われている甘味料、チキンナゲットなどのファストフード、家庭で使われるトマトケチャップなどの調味料にもコーンシロップというかたちで使われている。そしてもちろんトウモロコシ飼育の牛肉にも。ここでようやく私のステーキ味比べの話に戻る。

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