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第28回 女性狂言師/三宅藤九郎さん
「日本の笑いの心」で、世界の架け橋に

  • 2013年4月18日

お稽古・伝承

狂言のお稽古はどのようなことをするのですか?

父・和泉流19世宗家和泉元秀氏を師匠に狂言の修行に励む幼少時代
父・和泉流19世宗家和泉元秀氏を師匠に狂言の修行に励む幼少時代
 狂言の稽古方法は、昔から変わっていません。「口伝」という方法です。まさに口伝えで、師匠が言ったことを真似をしてそれを繰り返して覚えていきます。セリフだけでなく所作も、同じように師匠の真似をして覚えます。テキストや映像などは、一切使いません。長い歴史の中では書いたものが残っていることもあります。いわゆる伝書(六義)と言われるものですが、見たこともなく、ましてやそれがあることすら知らなかった頃は、自分が忘れてしまったらどうなるのだろう?と怖くなったものです。中学生くらいの時に、書物があることを知ったのですが、だからと言って稽古で使うわけでもなく、師匠は「本を読むのは間違いの始まりだ」と言っていましたし、そもそも稽古をしたこともない人が読んでもわからない、できないようにしか書かれていなかったりします(笑)。

 立ち居振る舞いという言葉がありますが、姿勢、身体の使い方や発声の一つひとつをとっても、自分のやる気がなければ美しく保つことはできません。常に自分がその時できる最上のことをやると決めれば、どんな小さな言葉、小さな動きにも心が宿るのです。

 

究極のポジティブシンキング?

狂言の魅力はどんなところにありますか?

インドでのワークショップで演劇専攻の学生たちと
インドでのワークショップで演劇専攻の学生たちと
 狂言の魅力について、最近よくお話しするのが「究極のポジティブシンキング」だということです。もちろん伝統芸能であり、歴史や技、芸能としての素晴らしさは言うまでもないのですが、今の時代だからこそ、狂言的な考え方はより一層魅力的にうつるんじゃないかと思うのです。

 和泉流には254曲の現行曲がレパートリーとして伝えられています。その中には本当に多種多様なストーリーがあり、単純に面白いものから、ふっと心が温かくなるもの、おめでたい儀式を表現したもの。一見してどこが面白いのかわからないものもあります。けれどもよーく見ていくと、物事の捉え方次第でとても幸せな事に気づいたり、すべてがハッピーエンドだし喜劇なんだ、と気づくことができます。

 人間が生きる毎日も同じことで、辛いことや面倒くさいことに出会ったときに、どんな風に感じどう対処するかで世界はがらりと変わります。

 狂言の中にも、困った状況にいる人や、怠け者にずるい人、盗人や詐欺師だって登場します。もちろん悪いことは罰せられ、怠けていれば叱られるし、悪巧みが成功することはまずないのが狂言の世界です。それでも登場人物はみな元気で生き生きとしています。いろんな人がいて、いろんな事が起こるこの世界。よりよく楽しく生きる力を、狂言から感じていただければ嬉しいです。

 

世界の架け橋

日本だけでなく海外でも公演されていますが、海外公演について少しお話しください。

インド公演の記者会見に英語で応じる
インド公演の記者会見に英語で応じる
 昭和63年、日中国交正常化15周年記念の文化交流団で中国公演を行なったのが、最初の海外公演です。それ以降、マレーシア、イギリス、フランス、アメリカ、タイ、シンガポール、ドイツ、イタリア、フィリピン、デンマーク、ベトナム、インド・・・13か国30以上の都市で狂言をご覧いただいてきました。

 海外での公演でも、基本的に狂言は室町時代の日常語、そのままの台詞で上演します。日本語が通じない現地の方がほとんどでも、客席からは日本で演じた時と同じところで笑い声がかえってきます。言葉が通じなくても、目の色、顔の色、文化、様々な違いを越えて狂言が通じることを実感する瞬間です。

 シンガポール公演では楽屋に息せき切って訪ねてこられ、「狂言はグローバル・ヒューマニティを持った芸術ですね!」と満面の笑顔で言ってくださったお客様がありました。そんな素晴らしい芸術が600年も昔から、なくならずに変わらずに残ってきた日本の文化、残してきた日本人を誇りに思います。

 

 先日はインドのバンガロールで公演がありました。バンガロールは「インドのシリコンバレー」と呼ばれ、最も西洋化が進んでいる都市でもあります。また南インドの日印交流のひとつの拠点でもあり、バンガロール大学には南インドで唯一の日本語高等教育機関、日本語学科の修士コースがあるのです。将来、日本語教師になられる学生さんたちは、学生といっても社会人や主婦の方がほとんど。忙しい時間の中で、日本語だけでなく日本文化、文学、日本語の教授法などを学びます。皆さん本当に好奇心旺盛で、子どものようにキラキラとした目が印象的でした。

 そして何より、日本が大好き!なかには狂言を習いたいという方もいて、なんとも嬉しい驚きでした。これからどんどん発展していく、そんなエネルギーにあふれたバンガロールですが、変化の真っただ中にあっても成人女性のほとんどはインドの民族衣装、サリーを身にまとっています。変わるものと変わらないもの、古いものと新しいものがあちこちに混在しているバランスが面白くもありました。また、日本に比べれば不便に思われることもたくさんありそうですが、出会う人だけでなく道行く人もみんなとても楽しそうに笑っているので、こちらまで幸せな気分になります。

 インドの人は映画や音楽・ダンスが大好き。「踊るマハラジャ」やボリウッドダンスの極彩色のイメージそのままです。そこで引き算の文化、日本の伝統芸能の狂言はどのように受け止められるのだろうと思いましたが、終わってみれば会場は日本とインド両国のお客様の笑い声に包まれていました。「自分の後ろに座っていたインドの人も、大きな声で笑っていて嬉しかった」と教えてくださる方もあり、同じ空間で一緒に笑いあえることの素晴らしさを、改めて実感しました。

 

 

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