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自分の親が恥ずかしい…。両親の迷惑な言動に悩む女性の葛藤を描いた『わたしの親が老害なんて』著者インタビュー

  • 2025年1月19日
  • レタスクラブニュース
 こんな店早く潰れちまえ!
こんな店早く潰れちまえ! / (C)西野みや子/KADOKAWA

最近よく聞かれるようになった「老害」という言葉。
一般的には、高齢者が周囲の意見を聞かず自分勝手な行動をして迷惑をかけたり、古い価値観で若い人の自由な活動を妨げたりすることを指すようです。
これらの特徴を聞いて、自分の周りに当てはまる人が…と思った人も少なくないのでは?

そんな、誰にとっても身近な問題である「老害」をテーマにしたコミックエッセイ作品『わたしの親が老害なんて』が今、「リアル」「身につまされる」と注目を集めています。この作品は、思いもよらない困難に直面する人々を描くセミフィクション『立ち行かないわたしたち』シリーズの作品として発表されました。まずはそのあらすじをご紹介しましょう。

「老害」化する両親への苦悩と葛藤を描く


主人公は、パートタイマーとして働く54歳の栄子。娘が巣立ち、定年退職間近の夫と2人で暮らしています。
パート先のスーパーで、突然聞こえてきた怒鳴り声
パート先のスーパーで、突然聞こえてきた怒鳴り声 / (C)西野みや子/KADOKAWA

お前のところはどういう教育をしているんだ!
お前のところはどういう教育をしているんだ! / (C)西野みや子/KADOKAWA

ある日、栄子が勤めるスーパーで高齢のお客さんがアルバイトの店員に理不尽に怒鳴り散らすというトラブルが発生します。それを見たお客さんや他の店員から出てきたのは、「老害」という言葉。それを聞いて、栄子は複雑な気持ちになります。

 …本当に困っちゃうよね
…本当に困っちゃうよね / (C)西野みや子/KADOKAWA

というのも栄子自身、近くに住む80代の両親の言動や行動に頭を悩ませていたのです。それは家庭内だけの問題ではなくて、他人にも迷惑をかけるようになってきていて…。
父たちがすみませんでした
父たちがすみませんでした / (C)西野みや子/KADOKAWA

帰ってからよく言ってきかせます
帰ってからよく言ってきかせます / (C)西野みや子/KADOKAWA

「自分がなんとかしないと」と思いつつ、両親を煩わしく感じてしまう栄子。自分の両親に対して「老害」という言葉が頭をちらつくことにも、罪悪感を抱いています。

そんな一人の女性の、両親に対する苦悩と、割り切れない人生の葛藤を描いたセミフィクション作品。
著者の西野みや子さんに、本作を描いた理由・きっかけなどを伺いました。



特別なものではないから、テーマにしたかった


――西野さんは、普段SNSやブログでご自身の育児漫画を投稿されていますね。漫画を描き始めたのはいつからですか?そのきっかけも教えてください。

西野みや子さん:出産前に1年だけ漫画の背景アシスタントをしていたことがあるのですが、初めて自分自身で漫画を描いたのは子どもが生まれた2020年です。当時は赤ちゃんのお世話をしていたら1日があっという間に終わってしまって…。たまに夫から休みをもらっても自分は何がしたかったか、何が好きだったか、全然思い出せなかったんです。
そこで、子どものことや家族のこと、私の目の前で起きてることを、日記代わりに記録し始めたのがきっかけです。私が私であるためにアイデンティティとして漫画を描き続けているところがあります。

ああいうのを老害って言うんだろうな…
ああいうのを老害って言うんだろうな… / (C)西野みや子/KADOKAWA

――本作は「老害」と言われる周囲に迷惑をかける高齢者や、世代間の価値観の違いによる衝突がテーマとなっていますね。このテーマを選んだきっかけ・理由を教えてください。

西野みや子さん:最初は担当編集さんが企画してくれたテーマでした。というのも、実は私は30代で母は50代。本格的に親の面倒をみた経験はないし、私は母や祖父母を「老害」とラベリングしてはいません。でも、私は限界集落(地域人口の半数以上が65歳以上を占める集落)の出身で、子どもの頃から男尊女卑や古めかしい考えに触れることが多く、単身での都会暮らしをした経験も相まって、その異質さを理解しているつもりです。

私は、「老害」は異文化の押し付けや受け入れ拒否が主な原因だと考えていて、特別なものではなく、身近で誰にでも起こりうるものだと思っています。そのため、ぜひこのテーマで漫画を描いてみたいと思いました。
先生は昔と変わっていませんね
先生は昔と変わっていませんね / (C)西野みや子/KADOKAWA


――普段描いている漫画とは、作風も異なるようですね。

西野みや子さん:いつもはギャグテイストの漫画を描くことが多く、コマ割りも自分で決めているので、最初はかなり戸惑いました。『立ち行かないわたしたち』シリーズの作品もいくつか読んだのですが、描写がとても丁寧な印象を受けたので、そのあたりを意識しています。一方で、登場人物の表情など限定的な表現はなるべく避け、読者が自分と重ねてじっくり味わう余地をつくることにも気をつけました。



日常の延長線上にあるリアルな展開


――西野さんは、実際に「老害」を身近に感じた経験はありますか?

西野みや子さん:以前、「子どもの安全第一ハーネス」という商品をクラウドファンディングで作りました。これは、一目見ただけで安全対策と分かるデザインの子ども用ハーネスです。

従来の子ども用ハーネスは、特に年配の方から「ペットみたい」「最近の親は楽をしている」といった心無い言葉をかけられることもあり、SNSでも定期的に話題になっていました。しかし、デザインを工夫しただけで出会った方々が笑顔で褒めてくださるようになり、お孫さんへのプレゼントとして購入してくださる年配の方も増え、受け入れられる商品になったのです。小さなきっかけが年配の方の偏見をなくすということを、実際に経験しました。

この経験があったこそ「老害」というのは身近で、誰しもその要素を持っているけど、小さなきっかけで良くも悪くも変わるということを忘れないようにしたいと思いました。
 お父さんたちどうなるんだろう
お父さんたちどうなるんだろう / (C)西野みや子/KADOKAWA


――「老害」と言われてしまうかどうかは、些細なきっかけで変わるかもしれないのですね。他に、西野さんが経験したエピソードは反映されているのでしょうか?

西野みや子さん:私と世話焼きな祖母が言い合いになった後、母から「喧嘩別れになると辛くなるよ」と言われたことがしあります。当時は「そんなのずるい!こっちは何も言えない!」と反発したのですが、大人になってからは、後悔して生きていくのは辛いことかもしれないと思うようになりました。作中にも栄子が「両親とどういった結末を迎えるか」と考えるシーンがありますが、その時の母の言葉を思い出しながら自分なりの解釈で描きました。
結末…ですか?
結末…ですか? / (C)西野みや子/KADOKAWA

 いい関係で最後を迎えることが、私のいい結末なの
いい関係で最後を迎えることが、私のいい結末なの / (C)西野みや子/KADOKAWA


――本作を読んだ読者からは、どのような反響がありましたか? その反響を受けてのお気持ちも教えてください。

西野みや子さん:とてもリアルな話だと色んな方に言ってもらえたのが嬉しかったです。本作のエピソードは全て日常の延長上の話で、そこまでドラマチックな展開はありませんが、誰もが見たことある、体験したことがある現実を描いています。

また、最後の結末に驚かれる方が多かったのも印象的です。実は「わたしの親が老害なんて」というタイトルは、主人公の栄子だけのセリフではないんです。

   *      *      *

高齢化が進む現代社会において、本作のテーマは決して特別なものではありません。自分の日常生活と照らし合わせて、既視感のあるエピソードに共感を覚える人も多いのではないでしょうか。

取材・文=松田支信


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