人間の心の正体、いつもサカナに聞いてます〈後編〉 まず生きる。強く生きる。よく生きる。|生物学的心理学 吉田将之先生

  • 2023年9月10日
  • 暮らしニスタ

「人間の心」を理解するために、サカナの脳の仕組みを研究している広島大学の吉田将之先生。〈前編〉では「人間とサカナに大きな違いはない」というお話を聞きましたが、今回はさらに深掘り。心が生まれる仕組みや、サカナや他の生き物から学んだことなどを教えてもらいました。

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足や目のように、心も生物の機能の一つ

ー「人間の心」に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょう

そもそもは若い頃からの、「人間が人間でいるとはどういうことか」という漠然とした考えに端を発しています。高校生の頃は、思想や哲学、宗教(宗教も思想の一つですね)などが好きで、この手の本もよく読んでいました。

さらに子どもの頃から生き物が好きだったので、「生物学の研究をしたいな」とも思っていたんです。この二つが合わさって、今の「生物学的心理学」という形になりました。

「心」というと、特別な、ぼんやりした、近づくことのできないもののような気がしますが、足が走るためにあり、目が見るためにあるのと同じように、心も生物の機能の一つとしてあるのだと私は思います。

脳が心を作り出す仕組みを持っていて、その仕組みによって心ができている。なぜ形のあるものから、形のないものができるのか。この間を少しでも埋めるのが目標。そのために、人間と同じような心を持つ「サカナ」の脳を研究しているというわけです。

ーサカナの脳は、人間の脳の縮小版で、研究に適しているということですか?

縮小版かもしれませんし、もしかしたら、部分拡張版かもしれませんよ?水の中で生活するということは、私たちにはわからないわけで、この部分の脳の仕組みや心は、サカナのほうがずっと拡張している可能性が高いです。

脳についても心についても、人間が上、サカナが下ということはありません。

心を理解して、生き物の世界を知る

ー心を理解することで、「一番知りたいこと」というのは何でしょうか

その生き物の世界、興味のある世界を知りたいのです。脳の仕組みから、生き物が何を考えているのかが理解できてくれば、考えていることが心を作っていくので、その生き物の心の全体像が何となく見えてきます。このサカナは目は見えていないけど、音はよく聞いてるらしい、とかですね。

人間でも、この人は何に興味があるんだろうと見ていくと、その人の様子がなんとなく見えてきますよね。それと同じです。

人間であれば「対話」というのも理解につながる一つの方法かもしれませんが、対話だと、仕組みがわかりません。本当に理解するということは、自分が理解したことを、他の人も同じように理解したとわかったときに成立するのであって、あくまでも客観的に、データとして示すと決めています。

何となくの雰囲気で、このサカナは今、うれしそうだね、悲しそうだね、ではなく、共有するためのデータをとり、相手にもわかってもらう努力をしないとダメなのです。

▲日本で唯一のサカナの実物脳標本。いろいろなサカナの脳を、手に取って触れる。

人間はどう生きる?

ーサカナから学んだことはありますか?

サカナや他の多くの生き物から学んだことは、「人間の思い上がり」ですね。自分も含めてですが、昔よりも増幅されているように思います。まあ、思い上がりだということ自体も、上から目線で思い上がりな気もしますね(笑)。

ー難しいですね…(笑)

難しいんですよ。よく「先生はいつも好きなことをやって楽しそうですね!」と言われるんですが、あらゆることはうまくいきませんし、進みません。でも、そこから始めるんです。

お互いを理解しようと努力し続けること。個人のレベルでよく生きること。これが人間がやるべきことだと思っています。

吉田将之(よしだ・まさゆき)●広島大学大学院統合生命科学研究科 准教授。専門は生物学的心理学。生き物の心を生物学的な機能の一つとし、脳という形のあるものから、心という形のないものがどのようにして生まれるのかを研究している。

写真・文/石橋紘子(暮らしニスタ編集部)

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