【怪談】女子大生が田舎のファミレス深夜バイトで耳にした奇妙な噂……廃病院での肝試しが呼び込む影とは

  • 2025年5月4日
  • CREA WEB

画像はイメージです。提供:アフロ

 生配信サービス「TwitCasting」で2016年から放送されてきた怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。多彩な恐怖が矢継ぎ早に飛び出すその内容が2019年頃からホラーマニアたちの心を掴み、放送で語られた話をWEB上で書き起こす“リライトブーム”を引き起こしたことでも知られています。

 北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさん、そしてその後輩であり映画ライターの加藤よしきさんが語る不気味な怪談たちから、今回は“深夜のファミレス”で起きた恐怖の一夜をご紹介――。


深夜のファミレスは“何かからの避難所”


画像はイメージです。写真:yuuumi/イメージマート

 コロナ禍を経た今ではめっきり見なくなってしまいましたが、以前は24時間開いているファミレスが結構あったのを覚えているでしょうか。

 家族連れや友達連れが多く足を運び、ボックス席でワイワイと日々の出来事を話しながら食事を楽しむ。ファミレスといえばそんな和やかな空間というイメージが強いですが、一度深夜帯のファミレスに足を運んだことのある人ならば、日中とは少し異なる独特の空気感があることをご存知のことでしょう。

 夜に家いられない事情を持ったさまざまな人をぽつりぽつりと引き寄せる真夜中の明かり。深夜のファミレスには“何かからの避難所”としての役割もあるように思えます。

 この話はそんな役割を担ったとあるファミレスでの出来事です。

◆◆◆

 当時、奨学金で大学に通っていた女子大生のTさんは、実家があまり裕福ではなかったこともあり、普段遊ぶためのお金や生活費は家族に迷惑をかけずに手に入れようと、アルバイトをすることにしました。

 ゆったりとできそうな家庭教師やおしゃれなカフェでのバイトを夢見ていたそうですが、人付き合いがあまり得意ではなかったことや、そもそも彼女の通っている地方の大学にはそういったおしゃれなカフェがなかったこともあって、結局は学生寮から自転車で20分くらいのところにある、ロードサイドのファミレスに落ち着いたそうです。

 初めの頃はうまくできるか緊張していたTさんでしたが、やってみると作業はそこまで複雑ではなく、先輩の男性・Oさんとも飄々とした性格で波長が合いました。なにより、人と関わる機会の少ない深夜帯を選んでシフトを入れていたことが、自分のリズムと合っていたようです。

 その日も深夜にシフトを入れていたTさん。

「大学生なのにこんな深夜によく働けるよねぇ」

「翌日に朝早い講義がない日にシフト入れているだけですよ。あと夜間手当もつきますし」

「親から仕送りあんまもらってないんでしょ? マジで偉いよ。今時珍しいちゃんとした大学生だよ、本当。それに比べて、俺なんて社会人にもなってフリーターで、このままここで社員になっちゃおうか迷っているくらいボーッと生きていて……」

「勝手に落ち込まないでくださいよ」

 ポツポツと居たお客さんも全てはけ、店にはキッチン担当の社員さん、ホールにはTさんと先輩のOさんしかいなかったそうです。

深夜に訪れた大学生たちの会話


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 30分ほどOさんと客席で雑談をしていると、店の大きなガラス窓の向こうに一台の乗用車が停まるのが見えて、2人は立ち上がりました。

 車の中から男女4人組が何やら話し込みながら降りてきました。

「いらっしゃいませ。おタバコはお吸いになられますか?」

「あー、いや、大丈夫です。お前は?」

「俺もいい」

「え、先輩、吸わないんですか?」

「うん、いいや気分的に……Iちゃんたちは?」

「私たちはタバコ吸わないので」

「じゃあ、禁煙席で大丈夫です」

「かしこまりました」

 Tさんがボックス席に案内したお客さん4人は、見た目や雰囲気から察するに自分と同じ大学生のようでした。

「何飲む?」

「ドリンクバーでいいっしょ」

「いやぁ……疲れたわ」

「だから、やめようって言ったんですよ、あんな病院行くの……」

「でも、結構盛り上がったじゃん。先輩から聞いていた噂関連のものは何にもなかったけどさ」

「Hちゃん、お供えの菊の花とか千羽鶴とか見てめちゃめちゃ叫んでいたよね」

「何回イジるんですかもう〜。でも、絶対変ですよ、あの枯れてない菊の花」

「確かに、あれはビビったなぁ」

「ドリンクバーを4人分でよろしかったですか?」

「あ、はい」

「では、お食事のご注文がお決まりになりましたら、備え付けのボタンでお呼びください」

 メニューを眺めてはいるものの、盛り上がってなかなか注文してくれない4人にしびれを切らしたTさんは、そう告げるとそそくさとレジ前の待機場所に引き上げたそうです。

聴こえてきた「廃病院」「千羽鶴」……


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「大学生?」

「はい、とりあえずドリンクバー4人分です。……もしかしたらウチの大学の学生かもしれないですね」

「なに、知り合いとかいたの?」

「いえ。でも、この辺りに大学ほかにないですし。まあ、学部違うと思いますけど。なんか肝試し帰りみたいでしたよ」

「肝試しねぇ〜……じゃあ、あの山の向こうの病院かな」

「知っている場所なんですか?」

「長くここにいるとたまーに肝試し帰りの人が来るんだよ」

 Oさんが教えてくれたのは、ファミレスから車で10分ほど行ったところにあるという廃病院の話でした。

 そこは10年以上前に廃業した病院だそうで、なかなか解体が進んでいないことをいいことに、時たま学生たちが心霊スポットとして肝試しに訪れるのだそうです。


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「心霊スポット……」

 Tさんは客席の4人組を横目で眺めました。来店時は緊張気味でしたが、今はホッとしたのか思い出話に花を咲かせながら笑顔で盛り上がっているようでした。

「じゃあ、廃業するほどの事件とかがあったんですか?」

「全然、何にもない。ただの廃病院だよ」

「でも、枯れていない菊の花とか千羽鶴があったとか言っていましたけど……」

「病院だから千羽鶴くらいあるんじゃない。菊の花もきっと噂を信じた人が置いたんだよ。ああいう廃墟って、雰囲気があれば怖い事実がなかったとしても皆寄って来るし、いつの間にか怖い噂ができちゃうものなんだよ」

 その場では何も思わずに受け取ったこの言葉。

 けれどTさんは、この直後に起きた出来事を思い返す度に、このOさんの言葉について何度も、何度も考えてしまうのだそうです。

(後篇に続く)

文=むくろ幽介

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