ポルトガル統治時代、カジノタウン、ヒストリカルな街並みの世界遺産登録、そして埋め立て地区の大開発によるホテル建築ラッシュ……と、歴史とともに大変貌を遂げてきたマカオ。近年は、新エリアにホテルや巨大ショッピングモール、最新鋭のシアターなどが誕生し、エンターテイメント都市としての地位を確立している。
もはや日本から一番近いエンターテイメントリゾートといっても過言ではないマカオで、長らく伝説を築いてきたのが、「リスボア」。1970年に誕生して以来、マカオのシンボルだったカジノホテルの「リスボア」と、2007年にオープンした地上44階建ての「グランドリスボア」で知られるブランドだ。
そんな老舗が刻んだ新たな伝説が、3つのホテルが集結するIR(統合型リゾート)、「グランド・リスボア・パレス・リゾート・マカオ」。
「フォーブス・トラベルガイド」で5つ星を獲得している「グランド・リスボア・パレス・マカオ」と「ザ・カール・ラガーフェルド・マカオ」、2024年3月にグランドオープンしたばかりの「ラッツォ・ヴェルサーチェ・マカオ」から成る。
広大な全貌は、パレスと冠するとおり、宮殿のごとく中庭を挟んだシンメトリーの景観。その中央に構えるのが、フラッグシップの「グランド・リスボア・パレス・マカオ」だ。エントランスを入ると、西洋の建築様式に龍や蓮などの中国的アイコンがのぞき、シノワズリが香る。
部屋に向かうまでの長い廊下を楽しませてくれるのは、マカオ在住の気鋭アーティストが手掛ける作品の数々。東西が入り混じる街をモチーフにしたアートや、オーナーファミリーのアンティーク・コレクションが惜しみなく飾られ、さながら美術館のよう。
ゲストルームの扉を開くと、そこは淡い色を基調にした柔らかな空間が。地域の文化遺産をリスペクトしたユニークな絵画が目を楽しませる。
おすすめの部屋はガーデンビュー。まさに秘密の花園のように佇む中庭の緑濃い景色は、かつてあったマカオ=カジノのイメージを完全に覆す。
そのホテル名を聞いて胸が高鳴る人は少なくないだろう。カール・ラガーフェルドは、ココ・シャネル亡き後、低迷したブランドを再び輝かせたファッション界のアイコン的存在だ。
ラガーフェルドがインテリアを監修し、自身もその構想に情熱を傾けたのが、2023年6月にオープンしたこのホテル。準備期間には10年以上を要し、2019年に亡くなったラガーフェルドにとって最大規模のプロジェクトにして、“最後の仕事”とも言われている。
建物は「グランド・リスボア・パレス・マカオ」と連結しているものの、一歩足を踏み入れると、雰囲気は一変。モノトーンを基調にしつつ、中国の伝統と西洋のアールデコ、現代アートが自然に溶け合う独創的な家具やインテリアが、別世界へと誘う。
全271室のホテルは、リネン類からバスローブ、オーダーメイドの家具、内装に至るまで、すべてラガーフェルドが手掛けたもの。そのインテリアは、大胆にして伝統的。職人技が光る中国の伝統的なあしらいを、ふとしたところに見つけるのも楽しい。
彼の美意識を通したシノワズリの美しさは、シャネルやカール・ラガーフェルドに詳しくなくても、思わず見惚れてしまうはずだ。
チェックイン時に目を奪われるのが、カウンターの背景を飾る1,000本以上の鍵で作られたカメオ・アートと、巨大な景徳鎮。これこそ、このホテルの世界観そのもの。
ロビーから続く「ザ・ブック・ラウンジ」は、パリにある彼のアトリエからインスピレーションを得ている。一面を飾る数千冊の書籍は、彼が愛した書棚にあったものを、並べ方まで再現したのだそう。
ここでティータイムを過ごせば、ラガーフェルドが愛したパリでの時間を追体験できるかもしれない。
「パラッツォ・ヴェルサーチ・マカオ」はその名のとおり、イタリアのハイブランド「ヴェルサーチ」のカラーを体現したホテル。同ブランドを冠したホテルは、オーストラリアのゴールドコースト、ドバイに次いで世界で3軒目となる。
コンセプトは、ヴェルサーチの本拠地、ミラノの宮殿。同じくファッションを軸にして部屋数も同じ「ザ・カール・ラガーエフェルド・マカオ」とはまた違った、クラシックでゴージャスな雰囲気に迎えられる。
いたるところを飾る美しいモザイクは、すべて手作業で敷き詰められたもの。スマートに迎えてくれるスタッフのユニフォームはもちろん、ヴェルサーチのオーダーメイドだ。
ともすれば、全館にわたって眩しいほどの豪華絢爛な空間が広がっているかと思いきや、ゲストルームはエレガントで落ち着いた雰囲気。リネンや食器類にヴェルサーチの優雅さを味わいながら、リラックスして過ごすことができる。
イタリア風トルコ式ハマムやミストサウナを擁するスパは、スパ天国ともいえるマカオにあって、オリジナリティーあり。
シグネチャートリートメントの「ハマム」は、大理石のスチームルームで温まりながらクレンジング効果のあるスクラブで全身を磨き、オイルマッサージで深いリラグゼーションに導く贅沢なメニューだ。
トリートメントを終えた後は、中国ハーブティーの菊茶を飲んでクールダウン。エネルギーもチャージされ、ロマネスク様式のプールにグルメにと、まだまだリゾートを楽しめそうだ。
リスボアというキーワードを聞いて、マカオ好きや食通の人なら、すぐさま美食を思い浮かべるかもしれない。ミシュラン星付きや世界のグランメゾンのアジア拠点を擁するリスボアのこと、ここでも期待は大!
カジュアルなカフェからファイダイニングまで、リゾート内の食スポットは16軒。迷ったら、訪れるべきは異国情緒を味わえる3つのファインダイニングだ。
甘美な夢の世界に迷い込んだような気分を味わえる広東料理レストラン。入口から続く廊下の壁を彩るのは、中国の歴史ロマン小説「紅楼夢」を模した装飾。メインダイニングに入れば、壁一面に中国の伝統的な両面刺繍を施した美しい空間に、壮麗な中国宮廷の世界へと誘いこまれる。
独特な雰囲気もさることながら、料理もただ豪華なだけにあらず。限られた料理人だけが継承する技、「太史菜」の腕を持つ莊嘉輝シェフが生み出す料理は、複雑なプロセスを経て、惜しみなく手間をかけて完成する究極の逸品だ。
透明なスープの滋味深さ、繊細な食感に昇華した野菜や肉。一口食べれば、この一皿を目的にマカオを目指す美食家の気持ちが分かるはず。
広東料理もあればポルトガル料理も本場を誇るマカオ。ポルトガルとの関係を長く築いた街中には、多くのポルトガル料理店がある。だが、ここは、他とは一線を画す。
ポルトガル・リスボンの2つ星シェフ、ホセ・アヴィレス氏とコラボレーションした料理は独創的にして、ポルトガル風情たっぷり。
鳥かごやアズレージョをモチーフにした古今東西融合のインテリアは、マカオらしさがいっぱい。歴史背景や世界遺産をモチーフにしたカクテルは、見た目の美しさだけでなく、思わずそのストーリーに引き込まれてしまう。
そして、知る人ぞ知るのが、こちら。南イタリアにある同名の老舗店が展開するアジア唯一のファインダイニングだ。アルフォンソ家が受け継ぐ味を、ヴェルサーチのグラマラスなインテリアや食器とともに味わえる。
メインディッシュとデザートの間には、イタリア流に、ワゴンでチーズをサーブ。フルコースなら、ゆっくり味わって約4時間。ボリューム満点な料理を楽しむべく、しっかりお腹を空かせて訪ねたい。
Grand Lisboa Palace Resort Macau
所在地 Rua do Tiro, Cotai, Macau
電話番号 (853) 8881 8000
料金(1室) グランド・リスボア・パレス・マカオ 1,279マカオパタカ〜
ザ・カールラガーフェルド・マカオ 1,919マカオパタカ〜
ラッツォ・ヴェルサーチェ・マカオ 1,919マカオパタカ〜
(2024年5月現在)
https://www.grandlisboapalace.com/en
文=芹澤和美
写真=Lina Shigemitsu