6.有田ポーセリンパーク
有田焼と食を巡る旅もいよいよ終盤。自らの手で有田焼を作って、今まで見てきた職人たちの凄さを感じてみよう。ということで訪れたのは有田ポーセリンパーク。 園内にはバロック建築の華、ドイツ、ツヴィンガー宮殿をそのまま再現されているほか、有田焼の体験工房や様々なショップが立ち並んだ、有田焼とお酒のテーマパークです。
園内の有田焼工房では、自分オリジナルの有田焼を作ることができます。素焼きの器に、染付で絵を描く短時間で体験できるコースから、ろくろを使った本格的な陶芸まで様々なコースが用意され、予算や時間に応じて選ぶことができます。
今回体験したのは、「はじき絵付け」と呼ばれるもの。特殊な薬液で絵を描くと、釉薬をかけた際、描いた部分だけが釉薬をはじき、素地の模様として浮かび上がります。 線がつぶれないように、なるべく大きく、太く、大胆なデザインでお願いしますとレクチャーを受けて、いざスタート。
描いてみると、自由に筆を走らせる楽しさと、思い通りに描くことの難しさ。両方を感じます。 まっすぐの線を均一な太さで描くことは難しく、今まで見てきたようなお皿の細かい文様を描くには、どれだけ高い技術が必要なのか痛感させられます。 やってみて初めて分かる職人技のすごさ。薬液で手を真っ青にしつつ、大胆に筆を走らせていきます。
タベアルキストらしく、ナイフとフォークをモチーフにしたデザインを施してみました。洗練された有田の文様のようには到底行きませんが、自分だけのオリジナルデザインはなかなかの達成感。焼き上がりは約1か月後。出来上がりが楽しみです。
■有田ポーセリンパーク 有田焼工房
佐賀県西松浦郡有田町戸矢乙 340-28
TEL: 0955-41-0030
営業時間 平日 10:00~16:00 土日祝 10:00~17:00
http://www.nonnoko.com/app/
7.宗政酒造
器を作ったら、飲むお酒もそろえなければ!ということで向かったのは、有田ポーセリンパークにある、宗政酒造「有田蔵」。
宗政酒造は、日本酒、焼酎、ビールと複数のお酒を一社で製造する、数少ない酒蔵です。 「みやげ屋 蔵」のショップに並ぶ、多種多様なお酒は壮観の一言。看板商品の麦焼酎「のんのこ」、日本酒「宗政」をはじめ、様々なお酒を試飲して、自分好みの一本を探すことができます。
ショップから少し離れたところには、醸造蔵があり、見学をすることができます。所要時間は約30分ほど。宗政酒造の酒造りでは、品質を大きく左右する水は、水源の森百選にも選ばれている黒髪山の水系のものを使用。麦焼酎の原料である二条麦や、日本酒の原料である酒米は全て佐賀県産のものを使用しています。厳しい品質検査も行われ、「The SAGA認定酒」として認定を受けた後、出荷されています。
昔から受け継がれた技術などは残しつつ、製造工程には最新の技術も導入。歴史を重ねながら酒造りもどんどん進化しているそうです。見学専用の通路から、様々なお酒造りの方法を学びつつ、醸造タンクやパッケージングマシンが動く様子などをみることができます。
今回購入したのは、秋限定のひやおろし原酒宗政。ひと夏を超し、頃合いよく熟成されたお酒は、どっしりとした飲み口と、ふくよかな香り。お米の味がぎゅっと詰まった、お酒本来の濃厚な味わいが楽しめます。
■宗政酒造 有田蔵
佐賀県西松浦郡有田町戸矢乙 340-28
TEL: 0955-41-0020
営業時間 平日 8:30~17:30
http://www.nonnoko.com/index.html
8.柿右衛門窯
今年2016年は有田焼創業400年。この有田焼の400年の歴史を語る上で欠かせないのが「柿右衛門窯」です。 17世紀初頭に有田泉山で陶石が発見され、磁器産業が始まりました。当時は有田で作られた焼き物を伊万里港から積み出しされていたため、「伊万里焼」と呼ばれたそうです。
この頃作られていた「初期伊万里」は厚みがあり、「染付」のみの単色の磁器でした。 そこへ、初代・酒井田柿右衛門が1640年代に「色絵(上絵付け)」という釉薬の上に彩色を施す技術に成功したことで、多色彩の作品が作られるようになりました。
1650年代に入ると有田焼がヨーロッパやアジア諸国に輸出されるようになり、1670年頃には「柿右衛門様式」として確立され、ヨーロッパの王侯貴族の間では磁器を持つことがステータスシンボルとなるほど価値を見出されました。ドイツのマイセン窯などにも影響を与えたことは有名です。
柿右衛門窯には、この17世紀の初代から現在の15代に至るまでの柿右衛門窯の歴史や、柿右衛門様式の作品を展示した「柿右衛門古陶磁参考館」を併設しています。
「柿右衛門様式」の特徴である、余白を残して描かれる絵画のような構図はとても美しいです。
第15代酒井田柿右衛門作品 「濁手野罌粟文花瓶」
柿右衛門窯独自の特徴であるのが、「濁手」。
暖かみのある乳白色が特徴の色絵磁器で、「色絵」が生きる素地として1670年代にその製法が完成したといわれています。このやわらかな色の素地が「柿右衛門様式」の余白となるため、作品に独特の暖かみが出てきます。江戸中期にオランダ東インド会社による輸出が減少したことで、一時生産が途絶えてしまいましたが、第12代と第13代の酒井田柿右衛門が古文書より製法を復元し、その陶製技術が認められ、「濁手」は1971年に国の重要無形文化財の総合指定を受けました。
中央が「濁手」作品、左右はそれぞれ天草陶石と泉山陶石を中心にした作品だそうです。 並べてみると「濁手」独特のやわらかな乳白色の素地がよくわかります。
牡丹鳥紋
現在の柿右衛門窯では「濁手」の他にも「染付」・「錦手」・「染錦」と様々な磁器を作っていますが、図案は昔からの型をそのまま使用しているとのこと。
下絵は男性が、色絵は女性がという絵付け作業の分業も昔のまま引き継がれていて、描くにも花びら一枚、葉一枚と制作手順がすべて決まっています。作業を完全分業制にし、アレンジなく同じものを作り上げることがスペシャリストを育て、また伝統を守ることにも繋がっています。
かわいらしい鳥と華やかな花が描かれた「牡丹鳥紋」は代表的なデザインのひとつ。
ティーカップなどの洋食器になっても違和感なく素敵なのは、普遍的なものとして確立された美しいデザインだからこそでしょう。
■柿右衛門窯
佐賀県西松浦郡有田町南山丁352
TEL:0955-43-2267
営業時間 9:00〜17:00 年中無休(年末年始除く)
http://kakiemon.co.jp/
9.明治夢庵
「明治夢庵」は有田の陶器市のメインストリートである「内山重要伝統的建造物群保存地区」の中ほどに位置します。江戸時代から昭和前期までに建てられたという古い街並みの一角で、「明治夢庵」の建物もレトロな雰囲気の造りです。
店名に「明治」と付いていますが、明治時代の建物ではなく、先代社長の北川明治さんの名前にちなんだものだそうです。
店に入ると目に飛び込んでくるのは、動物のミニチュア。犬や猫、魚、干支など様々なモチーフのアイテムがあります。 これらは「ミクロス」と呼ばれ、先代社長の父上が昭和26年に創業された「北川陶藝」の作るれっきとした有田焼。輸出品として人気を博したことから、海外にも多くのコレクターがいるそうです。
この「ミクロス」を愛する人と語らう憩いの場を作りたいという先代の思いを継いで、「明治夢庵」は作られました。「ミクロス」ショップの奥がカフェスペースとなっています。
立ち寄ったらぜひデザートプレート(550円)を。
お好みのケーキと選べる自家製のジェラート、焼き菓子がセットになったプレートで、お値段からは考えられないほどの本格的なクオリティー。なんでも店主の奥様はフランスの製菓学校の出身の元パティシエなんだとか。
有田のみどころでもある「トンバイ塀」をモチーフにしたケーキ「トンバイ」は、ピスタチオのムースとフランボワーズをチョコレートクリームで包んだケーキ。 軽い口当たりのムースと口溶けの良いチョコレートクリームがフランボワーズの酸味とマッチします。 焼き菓子も保存料などは無添加。サクサクで抹茶の香るクッキーや、しっとりとしながらも空気を含んだ軽さのあるきめの細かいシフォンケーキは、しっかりとしたフランス菓子作りの技術を感じられます。自家製のいちごのジェラートにいたっては4日間かけて作る手の込みよう。
デザートプレートにあわせていただきたいのがオリジナルブレンドのコーヒー。水質の良い有田の水を生かすようにブレンドされていて、軽い酸味とコクが感じられるバランスの良いコーヒーです。店主がじっくりとハンドドリップで淹れてくれます。あでやかな模様のカップもとても素敵です。
デザートプレートのお皿や、コーヒーのカップが有田焼なのはもちろんのこと、カトラリーまでもが有田焼。手に持ったときの感触が金属とは違う磁器の滑らかさが感じられ、他の食器にも合わせやすいアクセントになりそうなデザインがとても気に入りました。「ミクロス」もそうですが、小さいものの細部まで美しく作るセンスは日本人ならではですね。
■明治夢庵
佐賀県西松浦郡有田町大樽1-5-3
TEL : 0955-41-1505
営業時間 10:00〜日暮れまで 火・水定休
http://www.geocities.jp/meijiyumean/index.html
10. souRce
有田焼のお皿でイタリアンがいただけるお店が、有田のおとなりである武雄の駅の近くにありました。シェフの梶原大輔氏は、この5月に行われた「世界料理学会 in ARITA」でもスピーカとして登壇されており、佐賀の食材と器を使った料理で佐賀の魅力を発信し続けている、佐賀を代表するレストランです。
外観からしてワクワクしてしまう一軒家レストランです。
ディナーコースは3500円から4種類の価格帯。いずれも地元佐賀や近海の食材を中心に使っているそうです。今回は全10品の「特選イタリアンコース」(5000円)にしました。 アミューズから一番海苔やオキアミ、さらに貝や昆布などを使ったガスパチョなど、イタリアンの枠を超えた創造的な料理でワクワクさせられます。
前菜のひと皿目は<ホタテのストゥファート>。
イカスミで炊いたクスクスをのせ、ソースはヤリイカのソースに、ジャガイモとモロヘイヤのソースを重ねています。 器は、先の有田で行われた料理学会の際に、「やま平窯」に水滴の波紋のようなイメージを伝えて制作依頼したもの。 生命の根源となる水の表現で食をスタートするという意味合いがあるそうです。 包み込むようなやわらかな帆立のテクスチャーとイカと帆立の旨味に、命の源である母なる海を感じます。
リゾットは、秋の始まりの食材である和栗を使ったリゾット。
新栗らしいあっさりとした味わい。 シーズンも終わりのサマートリュフをたっぷりとあしらい、春のモチーフである奥のサクラ模様から中央の夏のサマートリュフを経て、手前の紅葉の模様へと、お皿の上に季節の移ろいが見事に表現されています。
この黒いお皿も有田焼です。1865年創業の徳幸窯の作品で、鉄を混ぜた釉薬により赤味を帯びた模様のあるメタリックな黒になるのだそうです。黒いお皿はメインとなる肉の色がとても映えます。SouRceではA5等級の佐賀牛を一頭買いしていて、この日はランプ肉。猪のリエットやシャンピニオンが添えられ、鮮やかなひと皿となっていました。
全10品のお料理のお皿はすべて有田焼を使用しており、そのひと皿ひと皿にストーリーが感じられるものでした。
有田焼のもつ多様性が、和食に限らず様々な料理に寄り添う器として選ばれる理由なのかも知れません。
■souRce(ソース)
佐賀県武雄市武雄町大字昭和204
TEL:0954-23-6788
営業時間 11:30~14:00、18:00~21:00 月曜定休
https://www.facebook.com/source1997/