サイト内
ウェブ

「風の道」 詳細解説

読み:
かぜのみち
英名:
Wind Passage

東京などの都市部では、地表面における熱の収支が、道路舗装や建築物の増加、冷暖房などの人工的な熱の増加によって変化し、都市中心部の気温が郊外に比べて高くなる「ヒートアイランド現象」が激しくなっている。風の道は、建物の配置を工夫するなど都市計画を見直して、郊外から都市部へ風を誘導する風の通り道をつくることで、ヒートアイランド現象に代表される都市の気温上昇を緩和するとともに、地球温暖化大気汚染などの環境対策を実現しようという考え方や手法のことだ。

環境省は早くから風の道を国内に紹介している。1998年版の環境白書では、ドイツ・シュツットガルト市の「風の道計画」を取り上げている。自動車産業が立地する工業都市である同市では、都心と郊外の温度差が激しいため、大気汚染対策の推進と同時にヒートアイランド現象を解消させるために、気温、湿度を調節する風に着目した「風の道計画」を策定。郊外から都心への風の流れを誘導するように公園や緑地などを連続して配置したほか、建物の高さ制限など一部の建築行為を規制するなど、都市部の気温上昇を抑える対策を行った。また、環境省は2000年に公表したヒートアイランド現象への対策手法報告書の中で、建物の配置など都市形態を改善し、風の道を積極的に利用すべきであるとしている。さらに、2006年版の環境白書では、緑地や水面からの「風の通り道」を確保することが必要であるとしている。

風の道に気温を抑制する効果があることは、実測値からも明らかだ。環境省によると、東京都内の大規模な緑地である新宿御苑の冷熱効果(クールアイランド効果)を測定した結果、市街地に比べて平均的に1℃以上気温が低く、その気温低減効果は周囲100mの範囲に及ぶ。そして、こうした測定結果を踏まえ、大規模な緑地の周辺にある街では、緑地からの通風性を確保し、建物などを緑化することによってクールアイランド効果を最大限引き出すように設計すれば、地表面から大気に放出される熱を、全面が芝地であった場合と同じ程度まで抑えることができる。このほか、東京・大手町に2007年4月にできた新丸ビルの周辺では、皇居や日比谷公園などの大規模な緑地に近い立地を活かして、建物の配置などを工夫することによって風の道をつくるなど、街全体を冷やすための都市デザインが行われていく予定だ。

国土交通省は、都市環境基盤を再生する手法として風の道に注目。同省が、都市の緑を増やすための公園緑地整備の一環として地方自治体向けに行っている「緑化重点地区総合整備事業」は、東京・名古屋・大阪の3大都市圏にある都市などで、ヒートアイランド現象を緩和するため、クールアイランドや風の道の形成に対して補助を行うものだ。一方、ドイツで先行している風の道は大気汚染対策が主眼であることや、山や谷から平面的に吹く風を利用しているドイツに比べて、東京などの湾岸の都市部では海から吹く涼しい風である海風の影響が大きいことが指摘されている。このため、国土交通省は、ヒートアイランド対策の総合的評価手法を開発するために、2004年から2006年度まで行った「都市空間の熱環境評価・対策技術の開発」で、東京都心・臨海部の街路や河川、ビル屋上など190カ所に及ぶ気象観測を実施。ヒートアイランド現象への対策としての風の道の性状を分析した結果、海風を都心部に誘導することは気温上昇の緩和に効果があるという結果を得た。

こうした調査結果を踏まえて、東京都は、品川駅周辺のまちづくりを整備する基本計画で、建築物の形状や配置を工夫して風の道を確保するよう誘導を図る方針を打ち出している。同地区は、2005年に都市再生本部から「地球温暖化対策・ヒートアイランド対策モデル地域」に選ばれており、風の道を含む新たな環境共生モデルの検討が行われている。また、民間の開発事業者が環境対策を盛り込んだ地域開発に高い関心を寄せているほか、風の道を実現しようとするNPOや研究者もいる。さらに、風の道は大気汚染などの環境対策としても有効であることがわかっている。このように、まちづくりにあたって風の道を確保しようとする取り組みが、民・学・官のそれぞれの努力によって進められている。

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。