2025/05/17 05:00 ウェザーニュース
初夏の風物詩のひとつ、蛍(ほたる)の出現(飛び始め)が4月後半の南九州を皮切りに報告が相次ぎ、5月中旬から6月中旬にかけて西日本や東日本でも淡い光の交差がピークを迎える見通しです。
ウェザーニュースでユーザーから報告された蛍が飛び始めた日のデータを分析したところ、全国的に早まっている傾向が見られました。
地球温暖化がさまざまな生物の生態に影響を与えていることは、しばしば報告されています。蛍の出現時期の早まりにも温暖化が関係しているのかなどについて、東京ゲンジボタル研究所代表の古河義仁(ふるかわ・よしひと)さんに解説して頂きました。
今年も蛍の出現報告が九州から西日本にかけて、数多く寄せられるようになってきました。関東地方の状況はいかがでしょうか。
「私自身も5月上旬に東京都あきる野市の観察地点で、ゲンジボタルの上陸を確認しました。6月20日頃までにはたくさんの飛び回りが確認できると思います」(古河さん)
ウェザーニュースの調べでは、蛍の出現時期が早まっている傾向が見られました。これには温暖化が影響しているとみてよいのでしょうか。
「日本には蛍が52種類いますが、ゲンジボタルに関していえば、10年ほど前に取りまとめた観察状況に比べて、近年、蛍の出現、飛び始めの時期が早まっているのは事実です。
ただし、上陸の時期はほとんど変わっていません。なぜかといいますと、蛍が上陸するための条件は非常に厳しく、日照時間がおおむね12〜13時間になること、水温と気温の差があまりないか、気温が水温より高くなる13〜14℃ほどになること、さらに雨が降らないと蛍は上陸しません。
上陸の時期は九州から北海道までそれぞれ違いますが、それらの諸条件が合致しないといけませんので、温暖化によって3〜4月の気温が平年値と比べて極めて高くなったとしても、上陸の時期には、ほぼ影響しないのです」(古河さん)
上陸には温暖化が影響していないのに、出現が早まっているのはどんな理由からなのでしょうか。
「蛍が上陸してから蛹(さなぎ)になるまでの期間が、短くなっているからです。
他の昆虫でも同様ですが、幼虫から蛹になる、そして羽化するまでの期間は気温と、特に土の温度の上昇によって早まります。3〜5月の平均気温の推移を見ても、温暖化による気温の上昇が確認できますので、それが蛹の生育を促し、羽化による出現の早まりに影響していると思われます。
ですから、『温暖化によって蛍の出現時期が早まっているか』という問いについては、『イエス』と答えていいでしょう」(古河さん)
「全国各地の観察・研究者の話を聞くと、ここ10年ほどで蛍の出現時期は2〜3日は早まっているようです。ただし、桜の開花と同じで、年によるばらつきはあります」(古河さん)
このまま温暖化が進行すると、蛍の“将来”にどのような影響が考えられるでしょうか。
「上陸から蛹、羽化までの期間が短くなっていくことは間違いないと思いますが、それがどのくらいの日数になっていくかは想像がつきません。
また、生育期間の短さが原因で、羽化の不全や奇形など、蛍の生体そのものに直接的な悪影響が生じることはないと思われます。
ただし、温暖化と直接関係するかどうかは別として、蛍のエサである貝などの成長が極端に悪くなったり、大雨で幼虫が流されてしまったり、せっかく上陸した蛹が棲(す)む土壌が流されてしまったり。
逆に雨が降らないため、上陸できなくなるといった可能性はあるかもしれません」(古河さん)
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。