コーヒーで旅する日本/九州編|知識を蓄え、理解した上で自分サイズにフィットさせる。「STELLIUM COFFEE」に生き方のヒントも見る

  • 2025年4月21日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

カウンター、ベンチはもちろん、壁のメニューもすべてデミアさんの手作り
カウンター、ベンチはもちろん、壁のメニューもすべてデミアさんの手作り

九州編の第115回は大分県大分市にある「STELLIUM COFFEE」。JR大分駅がある市街中心部から北に車を走らせていくこと約10分。マンションやアパート、戸建て、さらに会社なども多い場所に小さく掲げられた「COFFEE」のサイン。手作り感あふれる雰囲気で、ファサードから温かみを感じる。DIYしたというカウンター越しにコーヒーを注文し、ドリンク片手にベンチに座って憩うひととき。これが「STELLIUM COFFEE」の日常の風景だ。

STELLIUMは占星術に由来する言葉で、幸運を意味するそう。「グッドラックに近い」とデミアさん
STELLIUMは占星術に由来する言葉で、幸運を意味するそう。「グッドラックに近い」とデミアさん

店を営むのはスウェーデン出身のデミア・ベドランさん。日本語はとても堪能で、人当たりも柔らかく、なにより明るい。「彼と話すと不思議と元気をもらえるんですよ」という評判通りのステキな人柄。コーヒーがとてもよく似合うデミアさんが、「STELLIUM COFFEE」を開業するにいたるまでの物語を聞いてみたい。

オーナー兼ロースターのデミア・ベドランさん
オーナー兼ロースターのデミア・ベドランさん

Profile|デミア・ベドランさん
スウェーデン出身。オーストラリア、ノルウェー、カナダなど世界各国を巡り、現地に滞在するライフスタイルを送る。日本に初めて訪れたのは17歳のとき。その後、いろいろな国で暮らすも日本に強く惹かれたこと、パートナーが日本人だったことから、2017年から本格的に日本に移り住む。結婚を機に奥さんの実家がある大分市へ。貿易関係の仕事を経て、コーヒーの移動販売をスタート。2024年7月に実店舗「STELLIUM COFFEE」をオープン。

■“好き”を入口に
店ではエスプレッソ系メニューも人気。ラテアートも独学
店ではエスプレッソ系メニューも人気。ラテアートも独学

オタク、ナード、ギーク…、これらはなにかに熱中・没頭している人を指す言葉。一昔前はややネガティブな意味合いで使われることがあったが、今は違う。むしろ、その呼称は褒め言葉に近いとさえ感じる。そう前置きしたうえで、「STELLIUM COFFEE」のデミア・ベドランさんは“コーヒーオタク”だ。そして、付け加えるととってもオープンマインドなオタク。

ハンドドリップコーヒーは豆がセレクトできる。各豆に書かれたフレーバーを参考にしてみるのもおすすめ
ハンドドリップコーヒーは豆がセレクトできる。各豆に書かれたフレーバーを参考にしてみるのもおすすめ

「STELLIUM COFFEE」をレコメンドしてくれたCreate Coffee Labの椎原さんは「英語や北欧の言語を理解できるため私たちが知らないようなマニアックなコーヒーの情報に精通していて、しかもそれを惜しみなく教えてくれる。デミアさんから、ワールドワイドな最新のコーヒー事情を得ることはよくあるんです」と話す。
これはデミアさんの性格によるものだ。ハマったらとにかく突き詰める。日本語もその典型の一つだったそうで、日常会話はペラペラ。あまり聞き馴染みのない難しい日本語でさえ、理解しているからすごい。
「ゲームやサブカルチャーから日本という国に興味を抱き、日本語は何度も繰り返し聞いて覚えました。一度興味が湧くと、とことん学んで、やり尽くさないと気がすまないんです」と笑うデミアさん。

■興味を持ったらとことん追求
グラインダーもエスプレッソマシンもコストパフォーマンスを重視してセレクト
グラインダーもエスプレッソマシンもコストパフォーマンスを重視してセレクト

コーヒーもそうだったと続ける。デミアさんにとってコーヒーは基本的にカフェやコーヒーショップで楽しむ飲み物だったのが、コロナ禍で外出できない、店も閉まっている。でもおいしいコーヒーを飲みたい。じゃあ、豆を購入して、自宅で淹れよう。そんな流れで自分でコーヒーを淹れ始めたデミアさん。

実店舗での営業に加え、移動販売も定期的に行っている
実店舗での営業に加え、移動販売も定期的に行っている

「残念なことにそれが、全然おいしくなくて。なんとなく見よう見まねで淹れていたので、当たり前ですよね。そこから理由を突き詰めていくに従って、どんどんコーヒーの世界のおもしろさ、奥深さにハマっていきました。ただ、私はハマったからといってそこにお金をかけるというやり方は好きではなくて。身の回りにある最低限の道具でなんとかおいしいコーヒーを淹れたいと考えました。グラインダーもカフェなどで使われている、実績のあるマシンを選べば簡単なのかもしれませんが、そうなると費用がかかる。自分自身の予算内で購入できるベストなマシンを探すのは楽しいもの。しっかり調べて、信頼できるレビューを読み込んでいけば、あまり知られていないメーカーだけれど、素晴らしいスペックのマシンと出会える。こういったリサーチ・研究を突き詰めていくのが私の性に合っています」
■身の丈に合ったベストを
ドリップコーヒー(500円)。丸みのあるカップで香りを強く感じる
ドリップコーヒー(500円)。丸みのあるカップで香りを強く感じる

デミアさんの行動原理とその流れはこうだ。体験を機にもっと知りたい・学びたいと考える。インターネットや動画サイトなどを活用し、さらに実際に学びを得るためにその場所に行き、情報に触れる。正しい情報と、誤った情報を精査し、必要な知識を身に着けていく。ここまでは基本的にほぼお金はかかっていない。そして、その知識をもとに自身にとって必要なマシン、道具を選んでいく。その際にこれまで行ってきたことが生きてくる。そして、ものや場所など、なにかを選ぶ際には確固たるポリシーがあるのも大きい。

 100円ショップで買ったサインを光る看板に
100円ショップで買ったサインを光る看板に

「私はなにかを始める際にローンを抱えたくないという人間です。たとえ少額だとしても借金があれば、返済しないといけないわけで、もしかしたら自分がやりたくないと思っていることも、場合によってはやらなくちゃいけない状況になるかもしれない。純粋にやりたいという気持ちで始めたことにお金という問題が関わってくると、私はきっと楽しめない。だから常に考えているのは、その選択が“自分サイズ”なのかということです」

カフェ営業日は手作りの焼き菓子などデザートも用意
カフェ営業日は手作りの焼き菓子などデザートも用意

自身が今置かれている状況でベストを尽くすために、知識や技術を身に着け、それを最大限活かしていく。つい近道をしようとしたり、「みんながこうしているから。これを選んでいるから」といった固定観念に流されがちだが、そうじゃない。デミアさんの考え方はコーヒーだけじゃなく、なにかを始めようと考える際に、非常に参考になると感じた。

■次のステップは自分なりの焙煎
【写真】自作の焙煎機について、おもしろおかしく教えてくれたデミアさん
【写真】自作の焙煎機について、おもしろおかしく教えてくれたデミアさん

驚かされたのは抽出の次のステップとしてコーヒー豆の焙煎に興味を抱き、自家焙煎に挑戦するにあたり、焙煎機まで自ら作ったというエピソード。インターネットや動画サイトで焙煎の仕組みは理解した。ただ、実際にできるかはやってみないとわからない。そんな不確定な要素が多い段階で高価な焙煎機を購入するのはリスクだ。そこで身の回りにある道具を活用して焙煎機を作り、実際に焙煎を始めたというからすごい。

豆売りは150グラムから。基本的にスペシャルティコーヒーを取り扱う
豆売りは150グラムから。基本的にスペシャルティコーヒーを取り扱う

「ヒートガンを熱源に、100円ショップで買ってきたザルをチャフのストレーナーに代用したり、できる限り安価に焙煎機を自作しました。それで焙煎したコーヒーも普通においしかったですし、移動販売ではそのコーヒーを使っていました。ただ焙煎量が増えてくると、なかなかの労力ですし、大変で。そこで思い切ってIHを熱源としたAillio Bullet R1 V2を導入しました。私が今も使っている道具の中で、唯一ちょっと背伸びして手に入れたものかな?」とデミアさんは笑う。

焙煎機はAillio Bullet R1 V2。細かく設定を変えて、よりよい焙煎のロジックを構築しているところだ
焙煎機はAillio Bullet R1 V2。細かく設定を変えて、よりよい焙煎のロジックを構築しているところだ

そんなスタイルで実店舗を開いた「STELLIUM COFFEE」は、カフェ利用もできるがメインは豆売り。浅煎り〜中煎り程度の焙煎度合いを用意し、常時シングルオリジンを4種ラインナップ。産地や生産処理には特に強いこだわりはないが、できる限り日常的に飲める価格帯の生豆を厳選。どの豆も個性が主張しすぎない、すっきりと飲める焙煎を心がけているそうで、浅煎りの豆は明るくて優しい酸、やや深めの中煎りの豆は余韻の甘みと、幅広い人にフィットする印象を受けた。

古いアパートの1階部分を活用。駐車場は建物の隣に2台分用意している
古いアパートの1階部分を活用。駐車場は建物の隣に2台分用意している

店があるのは大分市中心部から若干離れており、一帯は会社や住宅が多いエリア。逆にその穴場感が魅力的で、家の近くにこんなコーヒーショップがあったら使い勝手がよさそうだと感じた。デミアさんは明るく、考え方も柔軟なので、彼とおしゃべりするのが楽しみだと通う常連も多い。外国人らしい視野の広さ、視点の違いも楽しみながら、同店のコーヒーを味わってみてほしい。

コーヒーの香り、甘み、酸質の明るさも感じられるラテ(600円)
コーヒーの香り、甘み、酸質の明るさも感じられるラテ(600円)


■デミアさんレコメンドのコーヒーショップは「日曜日の昼さがり」
「大分県別府市にある『日曜日の昼さがり』さん。店長の丁子さんは移動販売しているときに知り合い、それから親交があります。とても人当たりのいい好青年で、コーヒーはもちろん、彼が手作りするケーキも人気があります。大きな木のテーブルなど、店内のインテリア、雰囲気もステキですよ」(デミアさん)

【STELLIUM COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/Aillio Bullet R1 V2
●抽出/V60(HARIO)
●焙煎度合い/浅煎り〜中煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム1300円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=坂元俊満(To.Do:Photo)

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