「世の中の目盛すべてを読みやすくしたい」、ユーザーファーストを目指した新潟精機の“階段状で見やすい”定規「快段目盛」がすごい

  • 2025年3月19日
  • Walkerplus

長さを測るために使われる定規。ごく身近なアイテムだが、新潟県三条市に本社を構える新潟精機株式会社が作る定規は一味違う。
目盛の形が階段状になっているため、読みやすい!
目盛の形が階段状になっているため、読みやすい! / 【撮影=三佐和隆士】

新潟精機株式会社が手がける「快段目盛」シリーズの定規たち。用途に合わせた豊富なラインナップも魅力
新潟精機株式会社が手がける「快段目盛」シリーズの定規たち。用途に合わせた豊富なラインナップも魅力 / 【撮影=三佐和隆士】


1センチの部分を見たときに、5ミリの部分が長く、間の1ミリ単位の線は同じ長さの短い線で表現されているのが一般的だ。これに対し、新潟精機の定規は1ミリ単位の線の長さが階段状になっている。新潟精機ではこのオリジナルの目盛を「快段目盛」と名付け、さまざまなタイプの定規を製造・販売している。「快段目盛」は従来品と比べて見やすいとさまざまな場所で評判だという。ステレオタイプにとらわれない、斬新な発想の商品はどのようにして生まれたのだろうか?新潟精機代表取締役社長の五十嵐利行さんに話を聞いた。
新潟精機株式会社代表取締役社長の五十嵐利行さん。「お客様が楽になったと感じられるもの作りをしたい」と語る
新潟精機株式会社代表取締役社長の五十嵐利行さん。「お客様が楽になったと感じられるもの作りをしたい」と語る / 【撮影=三佐和隆士】


■定規の役割とは何か?原点に立ち戻って生まれた「快段目盛」
1960年に創業した新潟精機。創業当時から一貫して精密測定工具の製造・販売を生業としており、主力商品はPT(Precision Tool、精密測定工具)製品だ。

「PT製品もいろいろとありますが、穴の直径を測るための『ピンゲージ』がわかりやすいでしょうか。直径の異なる棒で、これを穴に刺してぴったりハマるかどうかで穴の直径を測ることができるというものです。ピンゲージのサイズは2.998ミリ、2.997ミリというように、ミリよりも小さい1マイクロメートル単位で異なるものを用意していて、肉眼では差がわからないようなものも測ることができます。自動車、ロケット、航空機といった精密さが求められる製造現場で使用されるプロ仕様の測定機器を私たちは作ってきました。ただ、今から40年くらい前でしょうか。新潟県三条市はもの作り産業の町としても知られていて、その当時は一般で使われる定規を作る会社も数多くありました。それで、私たちも地元産業を盛り立てようということで、一般向けの定規も手がけるようになりました」

階段状の目盛の“快段定規”を販売するようになったのは2012年のこと。

「私は便利だな、楽だなって感じるものが好きなんです。定規はなんのためにあるのか?長さを測るためですよね。それなのに、ミリ単位の目盛を見ていると読みづらいと感じることがある。特に老眼が入ってくると細かい部分が見づらい。定規を使う仕事だと、1日に何回も、何十回も測ったりするので余計疲れてしまいます。では、目盛自体を変えていくことで、もっとわかりやすくできないかな、と考えていろいろなパターンの目盛を作ってみたんです。そしたら階段状の目盛が一番しっくりきたので、これでやってみようということで快段目盛の製品が生まれました」

目盛を変えるという思い切った発想。社内で反対意見は出なかったのだろうか?

快段目盛の第1弾はアルミ製の30センチ定規。現在も販売されている
快段目盛の第1弾はアルミ製の30センチ定規。現在も販売されている / 【撮影=三佐和隆士】

「賛否両論ありましたね。社内で年代別にアンケートをとってみて、それで見やすいという意見が多かったのでならやってみようということになりました。それで工業系の現場でも一般でも使いやすいアルミ製の30センチ定規をリリースしました。ホームセンターなどに販路があったので持って行くと、反応が良く、これはいける!となりました」

■発達障害の子を持つ親からのメールでスタートした学童向け商品
開発当初はどちらかというと高齢者向けに作られていた快段目盛の定規。好感触を受けて、工業系の現場で使われる製品は次々に快段目盛に切り替えていった。そこにあるメールが届いたそう。

「私たちではECサイトでの直販も行っているんですが、ある日メールが届きました。発達障害のあるお子さんを持つお母さんからで、そこには『集中力が続かない子どもは普通の定規では目盛を読むことに苦労していた。作業療法士の方から快段目盛の定規がいいと聞いたので、ECサイトで購入したところ、子どもが目盛を読めるようになって自信につながった、ありがとうございます』ということが書かれていました。障害の影響で目盛を読むことが困難な人がいる、ということをそれまで知らなかったので、非常に大きな発見でした」

メールをもらった当時、新潟精機ではアルミ製やステンレス製の定規の販売が主流だった。そこで、子どもでも使いやすいアクリル製定規の製造・販売にも注力していったという。

厚みに段差をつけることで、拾い上げることを簡単にした製品もある
厚みに段差をつけることで、拾い上げることを簡単にした製品もある / 【撮影=三佐和隆士】

「発達障害に限らず、さまざまな属性を持つ人が使いやすいように工夫を凝らしています。たとえば、薄い定規を拾い上げにくい人のために、厚さに段差をつけることで押して持ち上げられるようにしたものがあります。ほかには、0の位置を内側に下げることで、スタートの位置を当てやすくした『0基点定規』も開発しました」

目盛自体も“2mm点目盛”と名付けた進化版を制作。ミリ単位の目盛の先端に黒い丸を施こしたものだ。

快段目盛(上)と、2、4、6、8のミリの線に点描を打った2mm点目盛のキャッチアップスケール(下)
快段目盛(上)と、2、4、6、8のミリの線に点描を打った2mm点目盛のキャッチアップスケール(下) / 【撮影=三佐和隆士】

「快段目盛をさらに読みやすくしたい、ということで考えた目盛です。日本人って『に、し、ろー、やー、とう』と偶数で数えますよね。なら、ここに点描を打ってみようということで考案しました」

通常の快段目盛と点描のついた2mm点目盛の両方を作っているのはなぜだろうか?

ステンレス定規は熱変化にも強く、精密に測ることができる。通常の快段目盛のステンレス製定規には、0.5mm単位の目盛がついたものもあり、プロの要求に応えた仕上がりになっている
ステンレス定規は熱変化にも強く、精密に測ることができる。通常の快段目盛のステンレス製定規には、0.5mm単位の目盛がついたものもあり、プロの要求に応えた仕上がりになっている / 【撮影=三佐和隆士】

「より読みやすくなった!という声があったので最初は全部2mm点目盛にしようとしたんです。そしたら、工業系の現場からは点描がないほうがいいという意見も出てきました。点描があると情報が多くなって読みにくいと。使い方や使う人の属性によって見やすいと感じるものが異なる。そこに対応できるようにどちらも作っていこうということで現在の商品ラインナップになっています」

「商売をやっている以上、社会貢献もしていきたい」と語る五十嵐さん。なにがしかの困難さを持つ人でも使いやすい商品を出したい、という姿勢も社会貢献だが、2020年からは小中学校向けに快段目盛の定規を寄贈している。

特別支援学級に通う子供たちのために作られたプラスチック製の15センチ定規は非売品
特別支援学級に通う子供たちのために作られたプラスチック製の15センチ定規は非売品 / 【撮影=三佐和隆士】

「当時の三条市の市長と快段目盛の話をする中で、ぜひとも小中学生に使ってもらいたいということで、寄贈が決まりました。三条市内の小中学校と特別支援学級に計1200本の定規を贈りました。その後、三条市内だけではなくて全国の特別支援学級に向けて寄贈をしていこうということで毎年1万本の寄贈に取り組んでいます」

2020年には大成建設と共同開発した「スパイラルメジャー」もリリース。軽く、シンプルで使いやすい新感覚の金巻き尺はグッドデザイン賞も受賞した。

大成建設と共同開発して生まれた「スパイラルメジャー」。既存の金巻き尺はケースなどがあり、重たい作りになっていたが、一番よく使用される長さに限定し、ケースをなくすことで軽量化に成功した。1.1メートルと2.1メートル、標尺目盛1.6m、尺相当兼用目盛1.1m、2.1mの5種類がある
大成建設と共同開発して生まれた「スパイラルメジャー」。既存の金巻き尺はケースなどがあり、重たい作りになっていたが、一番よく使用される長さに限定し、ケースをなくすことで軽量化に成功した。1.1メートルと2.1メートル、標尺目盛1.6m、尺相当兼用目盛1.1m、2.1mの5種類がある / 【撮影=三佐和隆士】

「スパイラルメジャー」は、引っ張るとピンとまっすぐになる優れもの。ケースがなくても潰れたりしない頑丈な作り
「スパイラルメジャー」は、引っ張るとピンとまっすぐになる優れもの。ケースがなくても潰れたりしない頑丈な作り / 【撮影=三佐和隆士】

さまざまな人を助ける快段目盛だが、課題はあるのだろうか?

「どうやってより多くの人に快段目盛を知ってもらうか、というのがありますね。定規は100円ショップでも売っていて、安価に手に入れることもできます。そんな中で、快段目盛はどうしても少しお値段がしてしまいます。直販もしてはいますが、やはり文具店などに置いてもらいたいと持ち込んでも、『高いと売れない』と言われてしまうこともあって、なかなか売り場の確保ができていません。定規というアイテムも地味なので、お客様に目盛のよさを気づいてもらうには売り場に相応の工夫が必要になってくるので、なかなかその点が難しいですね」

課題は感じつつも、五十嵐さんの目標は高い。

2025年4月に発売がスタートする快段目盛シリーズの両面分度器1320円。360度測れる両面全円分度器1980円も同時発売
2025年4月に発売がスタートする快段目盛シリーズの両面分度器1320円。360度測れる両面全円分度器1980円も同時発売 / 【画像提供=新潟精機株式会社】

段差があることで、基線(0度)と角の辺が合わせやすくなっている
段差があることで、基線(0度)と角の辺が合わせやすくなっている / 【画像提供=新潟精機株式会社】

「世の中の目盛すべてを読みやすくしたいですね。全部快段目盛にしたいです。その一歩として、2025年4月に快段目盛シリーズの分度器をリリースすることになりました。『分度器は数字が多くて使いづらい』という子どもたちの声を受けて開発したのですが、単純に目盛を階段状にすればいいというものではなかったので、完成に行き着くまで苦労しましたが、担当者の熱意もあり、納得いくものに仕上がりました。目盛を階段状にした上で、2度ごとに点描を、5度ごとに赤のマーキングを施しています。数字は一方向のみで書いているので、読み間違いが防げて、両面印刷にすることでどちらの向きからも測定できるようにしました。定規などをうまく使えないというだけで授業につまづくことなく、楽しく学習に向き合っていただけたらと思います。今後もお客様が使った時に『こんなに楽になるんだ』と感じていただけるようなもの作りをしていきたいです」

新潟・三条市から新たなスタンダードが生まれる日が楽しみだ。

取材・文=西連寺くらら

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