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地域活性化から1次産業の支援まで。コミュニケーションをデザインする株式会社STORYの取り組みとは

  • 2024年5月16日
  • Walkerplus

コロナ禍を経てリモートワークやオンライン会議が一般的になり、ECサイト市場が伸長するなど、オンラインの世界が一気に拡大した。一方で、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行されたことを契機に、リアルな世界にも人は戻ってきている。

「人が集まる場所を作っていくことは、地域力創出につながる」と話すのは株式会社STORYの代表取締役の潮政彦さんだ。潮さんは、1992年に株式会社エムズプランニングを設立。数多くの新規事業の立ち上げや、商業施設の運営管理、国際会議や大規模屋外イベントのオーガナイザー業務を手掛けてきた。エムズプランニングを退いたあと、2016年に株式会社STORYを立ち上げ、プロモーション事業からエリアマネジメント事業まで幅広い分野で活動している。なかでも一番力を入れているのは「江戸東京野菜とジビエ」なんだそう。潮さんがなぜSTORYを立ち上げ、「江戸東京野菜とジビエ」に行き着いたのか話を聞いた。

■経験・ノウハウを次世代に引き継ぐためにセミリタイアからの復帰
潮さんがエムズプランニングを立ち上げたのは33歳のとき。そこから25年間、代表取締役としてプロモーション事業の第一線に立っていた。

「25年間やってきたので、きりがいいところで一旦休んで後輩に譲ろうということで、エムズプランニングを退く決断をしました。その後6カ月ほどあくせくせずにフリーでイベントのプロデュースをしていたのですが、エムズプランニング時代、広告代理店を通さずにクライアントから直接仕事を受けていたということもあって、継続してプロモーションをしてほしいというオーダーがありました。ただ、クライアントである大手企業とやりとりをするとなると、個人での受注はできない、法人である必要があるということで、STORYを立ち上げました。そしてもうひとつ大事なこととして、25年間で培った経験や知見、ノウハウを次世代につないでいきたいという想いがありました。自分の持つネットワークを次世代に受け渡すことが社会貢献にもなるだろうと考えたのです」

次世代の継承を意識することになったのは、エムズプランニング時代のパートナー企業「CO-WAKU(コワク)」という会社との出会いも大きかったという。

「UR都市機構の案件で知り合った当時、26歳という若い2人がやっていた会社でした。ここをバックアップしていける体制にしていきたいと思い、一緒にジョイントして会社をやり始めました」

長年、イベントや大型施設などの人が集まる場所のプロモーション事業に携わってきて「現代はリアルなコミュニケーションが縮小している」と潮さんは感じている。

「ネットの普及やSNSの発達に伴って、今、この瞬間でもウェブを使えば地球の裏側にいる人と話をすることもできて、タイムレス、ボーダレスになってきていますし、エリアも拡大している。一方で、リアルなコミュニケーションは縮小してきていると思います。では、どうやったらエリアの拡大とコミュニケーションの拡大が両立できるのか。そこでキーとなるのがコミュニティの“場作り”。商業施設、文化・公共施設、企業のショールーム、コワーキングスペース、研究施設などさまざまな形態がありますが、そうした拠点を作ることが大事だと考えています。魅力的な拠点があると周辺にも公園などの公的空間が整備されて、次第に集客の要になっていきます。地域としての魅力が高まることで、定住化や観光化が進んで、個性を持った地域として成立していきます」

具体的にはどんな事業があるのだろうか?

「現在、STORYでは4つの事業を展開しています。まずはプロモーション事業。式典やイベントの企画演出プロデュースや、セミナーや国際会議の企画運営プロデュースですね。具体的には、1970年代、多摩ニュータウンをはじめとした団地が各地で作られました。団地が立つと人の出入りが激しくなります。引越しの際に畳の張り替えがあったりしたことから、ニュータウン内には畳や襖のショールームがありました。しかし、高齢化が進み、空き部屋が増え、団地の住人が少なくなると、こうしたショールームはお役御免となりました。そして、居住者の高齢化が進み、遠出が少なくなり、身近にちょっと出かけたりするようなコミュニティ空間がないという問題がありました。そこで、ショールームをコミュニティ施設に代わり、人が集まる空間づくりをしようということで、ベトナムランタンを飾る“多摩ランタンフェスティバル”を企画しました。ただランタンを飾るだけではなく、キッチンカーを呼んだり、アーティストにライブパフォーマンスをしてもらったりと、空間全部をデザインすることで、コミュニケーションの場所を構築しています」

ランタンフェスティバル以外にもクリスマスのイルミネーションなど、SNS映えスポットにもなるようなイベントをやることで、「居住者の方が孫を呼んだりするような機会にもなっています」と潮さん。

「ほかにも、神田明神(東京都千代田区)の文化交流館『EDOCCO』のオープニングイベントも手掛けています。神田明神にお参りにくる方以外にも、若者を集めたいということで、ホールが作られました。秋葉原にも近いですから、アニメ関連のイベントを仕掛けています。アニメイベント目当てで来たのだけど、せっかくだからお参りもしようという気持ちを醸成し、若者と神社のコミュニティゾーンを作って展開しています。それから、栃木県佐野市にある佐野市国際クリケット場のこけら落としイベントにも関わりました。日本ではマイナーなクリケットですが、イギリス、オーストラリア、インドで人気の競技で、競技人口は世界第2位といわれ、2028年のロサンゼルスオリンピックでは正式競技になることが決まっています。佐野市に日本クリケット協会の本部が移転してきたことをきっかけに、佐野市ではクリケットが街を活性化させると考え、廃校のグラウンドを日本初の国際基準を満たしたクリケットグラウンドにしたんです。こけら落としではクリケットが盛んな国の大使館を招いて、対抗戦を開催しました」

潮さんが話していたように、コミュニティの拠点を整えることによって、人が集まり、街・地域が賑わっていく好例なのだろう。

「2つ目は知的対流施設の企画・運営事業。商業、文化、公共施設の企画運営管理やショールームシェアオフィスの企画運営管理です。具体的には、大手町にある会員制コワーキングスペースの『3×3Lab Future(さんさんラボフューチャー)』のビジネス交流促進業務があります。異業種の人が交流することで、新しいビジネスを生む場所になっています。3×3Lab Futureはスタートアップ企業も含めて多種多様な方が集まっています。ほかに、トヨタショールーム『メガウェブ』の施設運営管理やパナソニックのショウルームの管理運営などもしていました。3つ目がエリアマネジメント業務。公園や広場などの公的空間の企画運営プロデュースや地方創生の企画運営プロデュースがあります。こちらで代表的なのは大手町・丸の内・有楽町エリアで開催している『エコ結び』でしょうか。対象エリアの参加店での支払いをSuica・PASMOにすることで、環境活動支援の基金になるという取り組みです」

■農業や地場産業を盛り立てる「レビュージャパン事業」に注力
さまざまな分野の事業を展開しているSTORYだが、潮さんが特に注力していると語る「江戸東京野菜とジビエ」はどういったところから出てきた事業なのだろうか?

「自分たちの街に定住してもらうためにはどうしたらいいのか、どうしたら地場産業が盛り上がるのか、そんな悩みを持つ地方に呼ばれることが多くなりました。そして、STORYを立ち上げた2016年は、内閣府がSDGsを推進するためにSDGs推進本部を立ち上げた年でもあります。各地方自治体でもSDGsの17項目のうちのどれかを達成することが課題になったんです。それで、自分たちが地方に呼ばれて、解決策を提案することが求められるようになりました」

江戸東京野菜はJA東京中央会からの要請で普及に向けたプロモショーンに携わるようになったという。日本の各地方で古くから栽培されてきた伝統野菜というと、京野菜、加賀野菜、鎌倉野菜が知られているが、江戸東京野菜はどんなものなのだろうか?

「江戸東京野菜の起源は、江戸時代の参勤交代にあるそうです。参勤交代で地方から武士が江戸に住むことになると、地元の野菜を食べたいということで、種を江戸に持ち寄って栽培させたのが今につながっています。練馬ダイコンやのらぼう菜、谷中ショウガなど50種類以上が認証されています。一般に流通している野菜は、安定した品質で効率よく栽培できるように品種改良されているのですが、江戸東京野菜は昔のままですから、苦味やえぐみ、独特の香りがあるのですが、栄養価は流通野菜よりも高いのです。栽培にも手間がかかるので大量生産はできないけども、継続的に作っていきたいというJA東京中央会の想いがあり、それを我々のプロモーションで支援しようということで、2022年から都内高校生を対象に料理コンテストの開催を始めました」

2023年度は寺島ナスをテーマに16校282チームがエントリー、大きな盛り上がりを見せたところだ。2024年度のエントリーも5月13日よりスタートしたところで、「馬込三寸ニンジン」をテーマに高校生によるオリジナル料理を募集している。

「ジビエは2023年4月に一般社団法人日本ジビエ振興協会の広報PR担当として自分が動くことになりました。ジビエは現代の私たちの生活に馴染みのあるものではありません。しかし、江戸時代は猪肉をぼたん、鹿肉をもみじと呼んで野生鳥獣を食べてきていました。現在、農業における鳥獣被害が深刻化していて、農林水産省によれば、2022年度は全国で年間156億円もの農作物が野生鳥獣の被害を受けています。では、これをなんとかしようということで鹿や猪の駆除をするわけですが、そうして獲った命はきちんと食そう、流通させようということを日本ジビエ振興協会では取り組んでいます。ただ、野生の生き物ですから、食べるにあたってはきちんとした処理が必要です。調理方法も国から厳しいルールが決められています。生食すると肝炎になったり、寄生虫に感染したりする恐れがあります。しかし、全国に800ある食肉の処理施設のうち、野生鳥獣を国の基準で処理できるのはわずか36施設。ハンターはいるから駆除できても、処理ができないから埋めるしかない。そこで、移動式解体処理車ジビエカーを活用することになりました」

ジビエカー自体は2018年に開発されたが、改良を重ねた新型車両が2023年11月にデビュー。実用化に向けて本格的に動き出しているという。

「江戸東京野菜もジビエも、江戸から食されてきたもの。これから日本の食に対して影響をもたらすものだと感じています。こうした第1次産業を中心に日本の魅力を再構築したり、日本各地の伝統技術と現代デザインをマッチングしたりと、日本の伝統を広げ、つなげていく事業を4つ目の事業『レビュージャパン事業』と位置付け、注力しているところです」と潮さん。

いずれの事業も大事にしているのは「発想の基点は“人”」であること。人の尺度、感覚、感性に寄り添うことで、コミュニティの持つ空気をどうデザインするかというのを念頭に考えているという。コミュニティが広がることで、新しい出会いが生まれ、そこから新しいビジネスや文化が生まれるきっかけにもなるだろう。STORYが蒔いた種が、どんなふうに芽吹くのか今後ますます楽しみだ。

取材・文=西連寺くらら

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