東京都渋谷区のこども科学センター・ハチラボでは、珍しい図形を使った数学アート・パズル作品で遊べる企画展「テセレーション展 あそんでたんきゅう！しきつめアート・パズル」を2024年4月23日(火)から6月30日(日)まで開催。敷きつめ図形を通じて子どもたちに“数学×アート”の探究教育活動を提供する日本テセレーションデザイン協会が主催する。
■近年注目の「探究学習」とは？教育現場における負担増
今、教育界で注目されている探究学習とは、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析、周囲の人と意見交換・協働しながら進めていく学習活動のこと。2022年4月から全国の高校で新科目「総合的な探究の時間」が始まっており、渋谷区では24年度から区内の全小中学校で毎日の午後の授業を探究の時間にあてるなど、この数年で教育現場では探究学習の取り組みが本格化してきた。
しかし、協会の活動を通して聞こえてくるのは、教育関係者の間では探究学習の必要性は感じながらも、準備を含め教師の負担が大きく、テーマの進め方が難しいという声だ。中学・高校の教師を対象にした調査によると、6割が「教師の負担が大きい」ことを課題に挙げており教育現場への導入はまだ簡単ではないように見受けられる。
■「テセレーション」とは？「探究学習」に敷き詰め図形がいい理由
展示作品に共通するテーマは、企画展の名称でもある「テセレーション」。テセレーションとは、長方形や正方形、平行四辺形、台形、たこ型、ひし形、三角形などの図形で平面をピッタリ敷き詰めることをいう。敷き詰め図形は小学校の算数で学習するが、発展的な話題が豊富であり、現代数学においても未解決問題が多数存在する研究分野でもある。
見た目のわかりやすさもあり、アマチュアを含む多くの研究者がテセレーションの探究を行ってきた。図形の形状や敷き詰め模様に着目すると多様な探究テーマを設定が可能。美術の世界での探究者としてだまし絵作家のM.C.エッシャーが有名だ。エッシャーは規則正しい繰り返し模様ができる動物の姿の敷き詰め図形を見つけるために、独自の分類法を探究した。数学的思考と模様やデザインづくりの美術的要素を掛け合わせたテセレーションは、探究学習に適していると言える。企画展では、協会が探究学習の出張授業やワークショップなどで利用している9種類の作品に触れることができる。
協会が2014年に開発した「T3(ティースリー)パズル」は1種類の正三角形のピースの向きや表裏を好きなように組み合わせて模様を作る。最初はひたすら並べているだけだが、そのうちに動物や文字など思いもよらないパターンが現れてくると子どもたちは歓声をあげることも。すると、次はどんな形を作ろうか自分で考え、それに向けてひたすら並べることに集中する。自然な形で自ら課題を設定し、小さな子どもでもそのゴールに向けて努力することができるという。
■新種図形の恐竜パズルも展示
最新の数学アート・パズルとして展示するのは、2023年5月に発見された新種の図形をもとにした「非周期恐竜パズル」。この新種の図形は、長年の数学上の未解決問題の答えとして、世界的に話題となっており、ニューヨーク・タイムズでも紹介された。アマチュアを中心とした研究チームによる協働的な探究の事例としても注目を浴びている。従来の図形と異なり、1種類の複雑な形状にも関わらず、その敷き詰めには繰り返しが現れず多様な並べ方ができるのが特徴だ。
今回のイベントについて担当者に話を聞いてみた。
ーー今回のイベントの狙いは？
パズルで遊ぶのが好きな人はもちろん、探究学習に興味がある教育関係者や保護者を対象に、探究学習のテーマとしてテセレーションの活用を増やすことが狙いです。探究学習のテーマを見つける場として企画展を活用していただきたいです。
ーー今回のイベントのイチオシは？
「非周期恐竜パズル」は、2023年5月に発見されたばかりの新種の敷き詰め図形をもとにしたパズルです。従来の図形と異なり、どのように並べても繰り返しが現れず、驚くほど多様な組み合わせができます。ニューヨークタイムズでも、アマチュア研究者を中心としたチームによる探究が長年の数学上の難問を解決したとして紹介されました。本展示では、この「非周期恐竜パズル」を実際に触り、最先端の数学の成果を体験できます。
ーーユーザーへのメッセージは？
遊ぶことが探究学習の始まりです。頭で考えすぎず、無心でピースを敷き詰めて、不思議な並びの法則を自分なりに発見してほしいです。
本展で敷き詰めアート・パズルを遊びながら、子どもたちと一緒に探究活動のよさやおもしろさを体験してみよう！
