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「いつか銭の力で仕返しをしてやる」天涯孤独の若者が金貸し稼業でのし上がる!爽快すぎる“倍返し”時代小説

  • 2024年3月1日
  • Walkerplus

負けてなるものか。愚直に努力を積み重ねていけば、いつかその頑張りが報われる日は来る。天は味方してくれる。知恵と根性を武器に、札差の世界でのし上がっていく青年の出世奮闘記「成り上がり弐吉札差帖」(KADOKAWA)を読むと、そんな確信がひたひたと心に満ちる。この作品は「入り婿侍商い帖」(KADOKAWA)で知られる千野隆司氏による新シリーズ。どんな理不尽な目にあってもめげず、ただただ目標に邁進する青年の姿は爽快。とにかく読み心地のよい、2023年最高の“倍返し”時代小説なのだ。
※2023年12月2日掲載、ダ・ヴィンチWebの転載記事です。

時は江戸。直参の侍の狼藉がもとで両親を亡くした青年・弐吉がこの物語の主人公だ。弐吉は浅草森田町の札差・笠倉屋で小僧奉公をしている。札差とは、これから先に支給される禄米を担保に、直参に金を貸す商い。両親を殺した憎き武家を金の力で圧倒するその仕事に魅せられた弐吉は「早く一人前になりたい」と懸命に働いてきた。そんなある時、笠倉屋からの貸金がある札旦那が、辻斬りの嫌疑をかけられ、御家断絶の危機に陥る。そうなると貸金は一文の回収もできない。商人としては一文の銭さえ無駄にしたくない。番頭から「冤罪を晴らせ」と命じられた弐吉は、手代の猪作とともに札旦那の身辺を探るのだが……。

笠倉屋の中での弐吉はあまりに冷遇されている。先輩であるはずの手代からはいびられ、足を引っ張られてばかり。帰りが遅くなれば、弐吉の飯や汁は当たり前のように食われてなくなっている。特に手代の中でも猪作はどういう訳か特に弐吉に強い敵愾心(てきがいしん)を抱いている。ただでさえ札旦那の冤罪を晴らすのは難儀なのに、反りの合わない猪作とともに調べに当たるのはどれほど大変なことだろう。

だが、弐吉はめげない。それに弐吉ほど実直な人間は他にはいないのではないだろうか。猪作が自分を出し抜いて手柄を独り占めしようとしていることを察しながらも、弐吉は決してズルはしない。猪作の態度に腹は立てつつも、地道に調べに当たる。そんな弐吉の真っ直ぐさには思わず心打たれてしまう。それに、細かな疑問をつないで真相に迫っていくその姿をみるにつれ、弐吉がいかに賢く、いかに度胸が据わっているかということにも気づかされる。不遇な扱いを受けながらも、あきらかに弐吉にはキラリと光るものがある。そんな人物のことをどうして応援せずにはいられようか。読者がそう思うのと同じように、弐吉の能力を認める者がいない訳がない。弐吉は少しずつ味方を増やし、札旦那の冤罪を晴らそうと奮闘する。そして、一人前の札差になる夢をただひたむきに追い続けるのだ。

あたかもいない人物かのように扱われていた青年が、卑劣な手ではなく、実力だけで、名をあげていく。いなくてはならない存在になっていく。その過程は読む者に込み上げるような興奮を与える。……ああ、絶対に誰かは見ていてくれるのだ。やはり勝つのはひたむきさなのだ。私も腐らずに地道に努力を重ねなくては……。爽やかな風が駆け抜けていくような弐吉の姿に、奮起させられる人は多いはず。明日を真っ直ぐ生きる力を与えてくれるこの時代小説は、これからますます、大きな話題を呼ぶに違いないだろう。

文=アサトーミナミ

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