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コーヒーで旅する日本/九州編|1号店開業から福岡市東エリアで愛されて36年。「香椎参道Nanの木」が目指すのは“まちのオアシス”

  • 2023年12月11日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第85回は福岡市東区にある「香椎参道Nanの木」。1987年(昭和62年)に無店舗で「珈琲豆屋」を開業し、オフィスをメインターゲットとした宅配販売からコーヒーの商いをスタート。その後、東区若宮に店舗を構え、コーヒー豆の一般家庭への小売りを始めたが、その当時は自家焙煎ではなく、仕入れたコーヒーが商材だった。

「せっかくコーヒーを売るなら自家焙煎に挑戦してみよう。そんな軽い気持ちで焙煎に着手しました」と話す創業者の芹口健二さん。これが「Nanの木」が生まれるきっかけ、芹口さんのロースターとしての第一歩となる。たくさん苦労もしながら、それでもより多くの人の暮らしに根付くコーヒーを発信し続け、福岡の自家焙煎店の先駆け的な一店として歴史を刻んできた「Nanの木」。どうやってファンを増やし、規模を拡大してきたのか。純喫茶とも、専門店とも違う、“まちのオアシス”を目指す「Nanの木」の魅力を探る。

Profile|芹口健二(せりぐち・けんじ)さん
1953年(昭和28年)、熊本県・高森町出身。商店を営む両親のもとに生まれるが、父親を早くに亡くし、15歳から農業、牛乳配達などさまざまな仕事を経験。高校卒業後、かつて九州一円に店舗を展開していた大手スーパーマーケットに入社し、部門担当、マネージャー、バイヤー、店長と着実にキャリアを重ねる。もともと30歳になったら自分で商売をしたいと考えていたこと、子どもの誕生・成長、転勤のタイミングなど、さまざまな要素が重なり、1986年(昭和61年)に退職し、1987年(昭和62年)1月、コーヒー豆の卸値販売を主体とする「珈琲豆屋」を創業。1992年(平成4年)に自家焙煎に切り替える。2002年(平成14年)、「香椎参道Nanの木」を開業。現在は会長職に就き、焙煎をメインに行う。

■「珈琲豆屋」「Nanの木」ともに地域の暮らしに根付いて
「Nanの木」といえば、福岡市内、特に東エリアでは知られた自家焙煎店。その理由は東区若宮の「珈琲豆屋」から数えると35年以上という店の長い歴史はもちろん、ブレンドとストレート合わせて常時およそ50種という多彩なコーヒー豆を用意していることが大きい。しかも最も手ごろなものだと、2023年12月時点でも100グラム500円台の商品を展開していたり、日常的に買い求めやすい価格で地域に根ざす。

「スペシャルティコーヒー、有機栽培コーヒーなど質の高い生豆を仕入れ、日々少しずつ焙煎するのは当然。創業当時から鮮度の良さを大切に店を営んできました」と話す芹口さん。今では広く知られた自家焙煎店になっているが開業当時、客足は鈍く、芹口さんらが香椎駅付近にチラシ配りに足を運んでいたそうだ。

「今でこそわざわざ足を運んでいただけるようになりましたが、開業した当時、このあたりは人通りもほぼなく、集客に苦労しました。今よりも小さな店舗でしたが、カフェ併設のスタイルとし、コーヒーとケーキのセットをワンコインといった手ごろな価格で販売。そうやって少しずつ当店のコーヒーの味わいを知っていただくことでファンを増やしていきました」

今ではコーヒーはもちろん、焼き菓子、パンまで店で手作りし、ホットサンドやフレッシュトマトのピザ、サンドイッチ、鶏肉とトマトのスパイスカレー、特製ハンバーグといったフード、季節の果物を使うスイーツも充実。もしかすると自家焙煎コーヒー店としてではなく、カフェというイメージが強いという人も多いかもしれない。

■多彩な選択肢と気軽さが愛されて
同連載でここ最近取り上げてきた、福岡市南区の伽楽、小郡市のMorrow珈琲、佐賀市のいづみや珈琲に共通しているのは、豆の種類が30種以上と多彩で、しかも日常的に購入しやすい手ごろな商品を展開していること。「Nanの木」もまさにそのスタイルの先駆的な一店で、多くのファンがつき、地域の日常にうまく溶け込んでいる。

このスタイルを一貫できているのは経営努力によるところがもちろん大きいが、根本には芹口さんの経歴が大きく関係していると感じる。芹口さんの商売人の礎は14年ほど勤めた庶民の味方・スーパーマーケット。

「どれだけ良い商品でも値段が高ければ、売れ行きは芳しくない。これは流通の世界ではどんな商材でも言えることで、最終的に選んでもらうためにはどれだけ多くの人が手に取りやすい価格にできるかという点が重要になってきます。私たちの時代はそこさえ見誤らなければ、大きく失敗することはありませんでしたが、これからもそのやり方をただ継続していけば良いかというと違う。これからはお客様にとって“おいしい”“手に取りやすい”という魅力以外の、プラスアルファの価値を付加する必要があると私は考えています。今は『Nanの木』でしかできない体験、味わえないものだったり、オリジナリティを磨いていく時代です」
付加価値をどう生み出していくか。おそらくこれはコーヒーや商売以外のどんなジャンルにも言えることだろう。

■井の中の蛙にならぬよう
開業20周年を迎えた2022年、芹口さんは経営を2代目に譲り、自身は焙煎を主とした関わり方にシフトした。「私が社長職を退いたことで、会社が目指すべき方向性がまた違う形で見えてきたと感じています。特に大切だと強く思うのが後進の育成です。今まではある程度自分が無理すればなんとかなるといった考え方を持っていたのですが、そうじゃないな、と。誰か一人が頑張るのではなく、スタッフにとってどれだけ働きやすい環境を作ることができるかという点が一番重要。一人でできることには物理的に限りがあります。それよりも当店の理念に共感いただき、信頼できる仲間を一人でも多く増やした方がいい。時には任せることもやっぱり必要なんです」と芹口さん。

「おかげさまで多くのお客様にごひいきにしていただき、感謝しかありません。長く愛していただいているお客様の期待に沿うことはもちろんですが、さらに新たなファン作りに励む必要があります。ここ最近、浅煎りのコーヒーが人気の店も増えていることから、私たちもよりクオリティの高い浅煎りのコーヒー作りをしたいといろいろ挑戦中。焙煎はもちろんコーヒーの探求に終わりはないし、正解はずっと見つからないんだろうなと思っています。井の中の蛙にならぬよう、常にアンテナを張って、進化を続けていきたいですね」と力を込めた。
■芹口さんレコメンドのコーヒーショップは「木家珈琲倶楽部」
「熊本県宇城市にある『木家珈琲倶楽部』の店主兼ロースターの井上さんは脱サラされて自家焙煎店を開いた方。開業前に焙煎やコーヒー店の経営について聞きたいと当店に来られ、それからの縁です。すごく真面目な方で、地域に愛される店を営まれていますよ」(芹口さん)

【香椎参道Nanの木のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式5キロ2台、10キロ
●抽出/バッチブリュー
●焙煎度合い/浅煎り〜極深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム518円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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