
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
九州編の第81回は福岡市西新にある「Coffee Beans GO STRAIGHT」。西新エリアに暮らしたことがあり、コーヒー好きなら「旧おもしろ21通りにある自家焙煎コーヒー店」といえば、「あのお店」と思い当たる人も多いだろう。一方で2001年(平成13年)オープンと20年以上前からあるが、店の存在を知らないという人もまた多いかもしれない。それもそのはず、店は開業した時から現在も、喫茶やカフェ営業は行っていない豆売り専門。明確にコーヒー豆を買うという目的を持っていないと足を運ぶことはなかなかないからだ。しかも、店構えも目立つことはなく、どちらかというと控えめな印象。それでも老舗のコーヒー店や喫茶店が多い西新エリアにおいて20年以上愛されているのはなぜか。その理由は店主、山領一弘さんの丁寧な仕事にあった。
Profile|山領一弘(やまりょう・かずひろ)
1965年(昭和40年)生まれ。もともとサラリーマンをしていたが、おいしいコーヒーとの出合いを通じ、徐々にコーヒー好きになる。福岡市内の自家焙煎店や喫茶店を巡り、手網焙煎の道具を購入したことで、さらにコーヒーのおもしろさを実感。子供の誕生など、さまざまなタイミングが重なった時期にサラリーマンを辞め、2001年(平成13年)に豆売り専門店「Coffee Beans GO STRAIGHT」を開業。
■“もっとおいしく”という探究の連続
山領さんが「Coffee Beans GO STRAIGHT」を開いたのは36歳の時。20代前半から会社員として働く中で、少しずつコーヒーに魅了されていった。最初は挽いたコーヒー粉を買って家で淹れてみる。次はグラインダーを手に入れ、挽きたてのコーヒーを自宅で楽しむ。ドリッパーもいろいろ試して、道具によって味わいが変わることを知る。趣味として喫茶店や自家焙煎店を巡る中で、湯の温度や湯を注ぐ速さなども味わいに影響することを学ぶ。そうやってコーヒーという飲み物にハマっていった山領さん。最終的には手網焙煎の道具を手に入れ、生豆を買って自分で焙煎。これが「Coffee Beans GO STRAIGHT」開業へと繋がっていく。
「特別なにかにハマりやすい性格ではないと思うのですが、コーヒーだけは知れば知るほどおもしろくて。手網焙煎に挑戦しながら常に考えていたのは、焙煎のやり方次第でもっとおいしいコーヒーを作れるかもしれないということ。その思いを強くして、自家焙煎店を開くことを決めました。“もっとおいしいコーヒーを”という考えは今もまったく変わっていませんね」と山領さん。
手網焙煎は経験していたが、焙煎機を扱うのは初めてだった山領さんは試行錯誤しながら独自の焙煎のやり方を構築。ただ、今もまだ理想的な焙煎の完成形には到達できていないと感じているそうだ。「店を開いて思うのが、つくづくコーヒーの焙煎法や抽出法に正解はないということです。焙煎のやり方も昔とは少しずつ変えていますが、これが正解だとは考えていません。『もっと改善できる点があるのでは?』とつい考えてしまう。そんなコーヒーと向き合う時間が楽しいんです」と山領さんは微笑む。
■味わいでよい印象を持ってもらうために
「Coffee Beans GO STRAIGHT」の店頭に並ぶ豆の種類は定番ブレンド4種、シーズナブルブレンド1種、それにシングルオリジンが7、8種というラインナップ。焙煎度合いは中煎り〜極深煎りで、産地は南米、中米、東南アジア、アフリカなどさまざまだ。瓶に入ったコーヒーを見ていると、豆の粒がそろい、見た目にも美しいことに気付く。それもそのはず山領さんは店にいる間、ほとんどをハンドピックの時間にあてているそうだ。
「うちのような小さな店が、ほかのコーヒー屋さんと差別化しようと考えると、どれだけ味わいでよい印象を持っていただけるかが大切だと考えています。そう考えると、雑味となる欠点豆はできる限り取り除かなければいけません」と山領さん。ハンドピック作業を見ていると、シビアに欠点豆を取り除いているのがわかる。そんな丁寧な仕事が「Coffee Beans GO STRAIGHT」の大きな強みだろう。
■人柄が味に出る、それがコーヒー
山領さんは「焙煎とは生豆を焼いていく作業なのですが、決して焦がしてはいけないと考えています。豆に焦げというストレスをかけることなく、じっくり芯まで火を入れていくイメージ。これは手網焙煎をしていたとき、色が変わっていく様子を実際に目で見ていたのがとても役に立っていると感じています。もちろんすべてがイメージ通りというわけではないですが、それも含めてコーヒーの楽しさです。想定外を経験として積み重ねていって、今までよりももっとおいしいコーヒーを追求していくというスタンスに変わりはありません」と話す。
さらに、店ではナチュラルやウォッシュト、ハニープロセスといった比較的トラディショナルな精製を施した豆を扱うことが多いのも特徴。「変わった精製法の豆を仕入れることもできますが、コーヒー本来のおいしさを届けたいと考えたとき、少しその方向性とずれる気がしていて。一方で普段飲んでいるものとは一味違うコーヒーを届けるという意味で、COE(カップ・オブ・エクセレンス)入賞歴のある農園が育てた豆やゲイシャ種などをスポットでリリースすることはあります。私自身が飲んで、おいしい、おもしろいと感じた豆を選んでいたら、そういったラインナップになったという感じです」
飾らず、気取らず、自分ができることをひたすら続けてきた22年間。「実はサラリーマンを辞めて店を開いたのは、当時3歳だった子供と過ごす時間を少しでも増やせたらと思ってのこと。開業の理由としてはダメですよね」と苦笑いする山領さん。逆にそんな優しいエピソードを聞いて、山領さんが焼くコーヒーはきっと温かみのある味わいなんだろうと想像が膨らんでならない。
■山領さんレコメンドのコーヒーショップは「自家焙煎珈琲専門店 伽楽」
「西鉄天神大牟田線の高宮駅のそばにある『自家焙煎珈琲専門店 伽楽』さん。私がサラリーマンをしていたころよく足を運んだお店で、福岡市内の自家焙煎コーヒー店としては老舗です。スーパーにも商品を卸すなど、コーヒーの裾野を広げることにも力を入れてこられた店だと思います」(山領さん)
【Coffee Beans GO STRAIGHTのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式3キロ
●抽出/なし
●焙煎度合い/中煎り〜極深煎り
●テイクアウト/なし
●豆の販売/100グラム700円〜
取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)
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