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青森のスターバックス発・りんご隊の活動とは

  • 2023年8月29日
  • Walkerplus

写真やコミュニティボード(さまざまな情報を発信するブラックボード)などで県の特産品・りんごの情報をたくさん紹介している、青森県弘前市にあるスターバックス コーヒー 弘前さくら野店。これは、「青森のりんごを地元の人にもっとたくさん知ってもらいたい!」という想いから弘前市内のパートナー(従業員)が結成した「りんご隊」の活動の一環だ。りんごをより深く知るために、そして地域の人たちとつながるために、りんご隊が県内の店舗のパートナーとともにりんご農家を訪ねると聞き、同行した。

■一生懸命やればりんごが応えてくれる。りんご生産者の想い
30℃を超える暑さが続く8月のある日、りんご隊のメンバーと一緒に訪ねたのは、弘前市内でりんごを育てている今(こん)さんの畑。祖父の代からりんごの生産を始め、この道52年の熟練だ。9種類ほどの品種を育てているが、このうちの「紅玉」が、スターバックスで毎年秋に発売されるアップルパイの原料の一部となる。

今年は「青森県産 紅玉のカスタードアップルパイ」を9月1日(金)に発売。青森県産の紅玉を100%使ったスイーツで、パイ生地にシロップ煮の紅玉とさっぱりした甘さのカスタードが入り、酸味と甘みが絶妙なバランスの一品だ。

りんご隊が今さんの畑を訪ねるのは2回目。
「前来たのは3年前だな。あの後だべな、コロナが流行って。あれ以来だよ」と言う今さんに、「すごーい、覚えてくださってる!!」と、りんご隊は満面の笑みに。

青森県のりんご生産量は日本一で、ここ弘前市を中心とした県の中南地域が最も盛んだ。りんご栽培は一年を通して、ほぼ手作業で行われる。冬は剪定、春は栄養を与えて病害虫から守るため肥料や薬剤散布。春から夏にかけて授粉や草刈り、袋掛けなどが行われ、夏の終わりごろからやっと収穫に入り、最盛期は10~11月。

とても手がかかるが「おいしいものを消費者の皆様にお届けしたいという気持ちがあると、りんごが応えてくれる。一生懸命やったら応えてくれるのがりんごの魅力だな」と今さんは力強く言う。

今さんは毎朝、3町歩(約9000坪)もある畑の木を1本1本見て回り、異変を感じたら虫眼鏡で葉を見るなど3時間かけて念入りに観察する。
「毎日同じように見えるけども、ひと回り大きくなったなとか、ちょっと葉っぱがおかしいなとか気付きます。木は生きているから、何を欲しがっているか木に聞いたらわかる」と語る今さん。りんごの木を見る眼差しは、まるで自分の子どもを育てているかのように優しい。

自然の営みのなかでりんごの木と向き合っていると、顕著に感じるのは気候変動による影響だ。
「今まで経験ないような虫が生まれてきたり、もっと南の方であったような病気が出たり。やっぱり温暖化だなと思っていますね」

今年は開花が例年より1週間ほど早く、夏場の雨が少ないためにりんごの実の成長が遅いそう。「葉っぱが丸まってくると、水を欲しがっとる」と、成長を促すために、広大な畑にホースで水を撒いていくというから、重労働だ。

こうした作業の大変さを聞いて「どんな時にいちばん喜びを感じますか?」と問うりんご隊に、「やっぱり収穫の時期だな。大変だけど、結果が表れるからさ」と今さん。スターバックスのアップルパイは毎年食べているそうで、「いーよぉ、うめぇよ」という答えに、りんご隊からは歓声が上がる。

今さんの話に真剣に耳を傾けるりんご隊。収穫の時期を終えたら、スターバックスの店舗でアップルパイとコーヒーを楽しむパーティをする約束を交わしていた。 

■青森のりんごを終わらせたくない! りんご隊の想い
りんご隊の結成は2019年にスターバックスが社内で開催した、いきいきと働く30歳未満のパートナーが、日頃から抱いている疑問や課題意識、社会を変えるアイデアを発掘し、起業家精神を養うプログラム「Starbucks Youth Entrepreneur Action」への応募がきっかけだ。弘前さくら野店の山中さんを中心に、同店の福原さん、弘前公園前店の福澤さんと三浦さんの4人でスタートした。

実家がりんご農家だが青森県のりんごが抱える課題をまったく知らなかったという山中さん。プログラムへの準備で父親をはじめ生産者に話を聞くなかで、衝撃的な言葉を聞くことになる。

「弘前のりんごは、“終わりの始まり”が近づきつつある」

「りんご農家の平均年齢が65歳、青森県の男性の平均寿命は70歳代なので、引退する年齢の方がほとんど。さらに後継者が決まっているのは全体の2割ほどといわれています。とても衝撃を受けました」と山中さん。健康寿命を考えると現在の農家の人たちが現役で働けるのはあと数年という事実に、大好きなりんごがなくなってしまうかもしれないという危機感をつのらせた。

労働力も後継者も足りていないことが青森のりんごの課題。そう感じたりんご隊の1年目の活動は、農家へ手伝いに行くこと。でも、これは「失敗だった」と振り返る。

「知識も経験もないのに畑に行っても手伝いにならない。お店で働きながら農家さんの手伝いに行っていたので私たち自身も休みがなくて疲れてしまい、続けていくことができなかった」
そんな時に救いになったのも、りんご農家の方からの言葉だ。

「あなたたちは、あなたたちのコーヒーという強みを活かしてがんばればいいんだよ」

この言葉が、心に刺さり、活動をシフトチェンジ。どのパートナーでも簡単に取り組むことができる活動を考えるようになった。それが冒頭で紹介した、店舗でのりんご情報の発信だ。

弘前さくら野店は地元客が多い場所で、畑の様子をリアルタイムで伝えるコミュニティボードに足を止める人も多い。「りんご農家さんも来てくれるんですが、ボードを見て『たんげうれしい!(とてもうれしい)』って言ってくださったり。写真を撮ってくださる方もいて、とてもうれしいです」と、福原さん。

店内の写真は弘前市りんご公園から借りて展示しており、「活動のなかでできたつながりを大切にしながら、これからも活動していきたいです。例えば、弘前市りんご公園のりんごトラック市でコーヒーテイスティングをしながら農家さんが発信できる場所を作るなど、やりたいことがいっぱいあるんです!」と福原さんは熱っぽく語る。

「農家になることだけでなく、広めること、食べること、買うことも応援。応援の仕方がいっぱいあることを広めたい」と山中さん。コロナ禍が明けてこれから活動は本格始動する。

りんご隊の活動を通して、メンバーの意識にも変化が起きた。
「アップルパイを販売するときも、1個1個がより大切に感じるようになりました。りんごだけではなく、知らないことを知っていくことで価値が自分の中に出てくることがわかった」と福澤さん。
三浦さんは、大切だと感じている地元のものを、大切にすることができる仕組みを弘前で作りたいと語る。「りんご隊の活動をこれからも成長させ、これがモデルケースとなってほかの都道府県でも同じような活動ができるといいなと思います」

今年のスターバックスのアップルパイは「青森県産 紅玉のカスタードアップルパイ」。商品名に地元の名前が冠されたことに4人はとても喜んでいる。4人に共通しているのは地元のりんごに誇りを持って「おいしい」と伝えたいという気持ち。大切なものをあたり前に大切にしていきたいという想いだ。

アップルパイとコーヒーで過ごす時間に、少しだけ生産者やりんご隊の笑顔に想いを馳せてみよう。そして、自分の周りにある大切なものに心を向けてみてはいかがだろう。



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