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父親、孫、赤ちゃんまでレンタル可能!?実在するビジネスの光と影を描いた映画監督に本音を聞いてみた

  • 2023年7月4日
  • Walkerplus

人間をレンタルする、実在のサービスを描いた映画「レンタル×ファミリー」がシネ・リーブル梅田などで公開され、注目を集めている。子供のためにお金で父親をレンタルする母親、息子や孫、彼氏をレンタルする人など、そこで繰り広げられる光と影を描く作品だ。

本作はEpisode1から3の3部で構成されており、Episode1はフリーのデザイナーをしながら娘を育てるシングルマザーの物語。Episode2では視点を変えて、人間レンタル業を営む三上健太をドキュメンタリータッチで浮き彫りにする。Episode3では母の突然の死と、父親からの思いもよらない告白に戸惑う女子高生の姿を描く。

本作のメガホンをとった阪本武仁監督に、本作やレンタル家族に対する考え方などについて話を聞いた。阪本監督は制作に至った経緯を次のように振り返る。

■きっかけはワイドショーの「レンタル家族」特集
「きっかけは2年ぐらい前、ワイドショーでレンタル家族の特集を見たこと。とても興味深い職種だと思いました。それでレンタル家族を調べたら、家族レンタルサービスなどを行う株式会社ファミリーロマンスの石井裕一代表の『人間レンタル屋』という本が出てきたので、すぐ読んだんですよ」

そこに描かれた逸話の数々に阪本監督は驚かされる。

「ちょっと特殊な案件などもあって、びっくりしました。それでこの仕事を取材してみたいと思ったのが映画を作るきっかけです。作者の石井裕一さんにコンタクトを早速取って、取材の依頼をしました」

■レンタル父親なのに、なんで顔を出しているんだ?強烈な違和感
「この業種は現在7社くらいあって、石井さんの会社はその中でも一番大きく、いろいろな案件を受けています。でも、この本で僕は大きな違和感を覚えました。石井さんは現在進行形で本当の父親だという体で、25もの家庭の父親としてレンタルされているのに、本の表紙に自分の顔を思いっきり出していることが無茶苦茶気になって。どういう理屈でこういうことになっているのかすごく引っかかったんですよね。

僕なら顔は出せないと思います。子供を傷つける可能性がありますよね。それが一番聞きに行きたかったことで、映画の中にもその答えは入っています。ただ、石井さんには石井さんの考え方があってこういう風に顔を出しているそうですが、それを聞いても納得はできませんでした」

取材をしたあと「友人らに話したら協力するよと、とんとん拍子に作品を作ることになった」ため、本作を制作することに。ただ、石井氏に対する違和感はずっと残っているという。

「僕の中では引っかかったままで、全肯定はできなくて。それってどうなんですか?という風に映画の中ではいいも悪いもそのまま描いていて、あとはお客さんの方で判断してもらいたいという作品にはしています」

■相手を一生だましとおす覚悟はあるのか?
本作はさまざまな形で観客に家族のありように対する疑問を投げかけてくる。Episode1で特に印象的なのが、人間レンタル業を営む三上の、(父親をレンタルするのは)「相手を一生だましとおす覚悟が必要」というセリフだ。

「これは原作にあるんですよね。石井さんが依頼者に伝えた言葉で一字一句そのままではありませんが、『それでもお願いします』と言ってくれる依頼者の依頼は受けるそうです。その覚悟なく依頼に応じるのは控えているということでした」

作中で描かれているエピソードは基本的に原作にあり、石井氏の実体験に基づく。ただ、Episode3は原作にはなく、監督が石井氏から取材して聞いた内容をもとにしている。

「レンタル父親を務めていて、母親が亡くなるケースが2件あったそうです。子供たちが残されて、お母さんが亡くなるだけでも悲しいのに、同時にお父さんが本当のお父さんじゃなかったということもわかってしまう。すごく残酷だなと思ったんですね。

石井さんには困っている人たちを助けたいという思いはありますが、自分たちができる限界もあって、ずっとボランティアではできない。あくまでもビジネスとしてやっているので、そのせめぎ合いがいびつだと感じました。また、これがビジネスとして成立していることが、この先どうなっていくのかという疑問もあります」

実は石井氏自身も、この事業がこれだけ伸びるとは思っていなかったそう。

「需要がこれだけ増えるとは思っていなかったと話していました。あまり増えないでほしいと思いながら、依頼はすごく増えている状況だそうです、でも、もっと他の家族の形もあるのではないかと。イギリスにはナニーという保育のプロの女性がいて、彼女たちはベビーシッターよりももっと子供の教育などにも深く携わります。その男性版がマニー。実際に血のつながっていない父親のような形でそういう制度を利用するのであればまだわかるのですが。借りるのではなく、コミュニティとか、いろいろな視野を広げたほうがよいのではないかと、僕自身も思います。

そういう気持ちはEpisode3で描いています。最後のペンションのシーンも1つの家族だと思える。そういう思いで作った作品です。最後はどうしても救いを描きたかった。このEpisode3の残された子供のことを思うと、未来あるもの、希望あるものにしたいと思って、最後はそう描きました」
■家族レンタルサービスのいびつさも表現したい
Episode2は家族レンタルサービスをドキュメンタリータッチで描く。三上にインタビューするディレクター役とし、て原作者の石井裕一氏が登場しているのも注目点だ。

「自分の行っているサービスを石井さんが客観的に見ているような構図にしたいと思って、あの役をやってもらいました」

また、3部構成の映画の中でEpisode2だけをあえてドキュメンタリータッチにすることで、映画として家族レンタルサービスのいびつさのようなものを表現したかったと語る。

「このサービスにはいいところも悪いところもあって、違和感もすごくあります。映画は1部だけを描くこともできたのですがあえて3部にし、2部に変化をつけることで、このサービスの違和感を表現できればと思いました。また、3部構成にしたことで、このサービスをとらえられるのではないか、多面的に描けるのではないかとこの構成にしました」

■主演俳優はレンタルサービスにも登録
3つのエピソードを通して出演しているのが、三上健太役の塩谷瞬だ。

「塩谷さんとはコンタクトを取りながら、ディスカッションしながら一緒に作っていったような感じです。思ったように演じてもらうのではなく、いろんな案を出し合って作っていった感じです」
「実は塩谷さんは石井さんのファミリーロマンスに名前を変えて登録し、今も仕事をされています。これは塩谷さんが自主的に登録されたもので、塩谷さん、石井さん、僕で打ち合わせをした際、役作りは勿論いろいろ勉強したいからとの意向もあって登録されました。実際に体験すると全然違うので、そこからアプローチをしたいということでした」
■謝罪代行やレンタルへの依存なども
作中では、レンタル家族や人間レンタルの負の側面も描く。なかでも危険を感じるのがEpisode2で描かれる「謝罪代行」だ。

「謝罪代行は一番難しいとされています。携帯でボタンを押すだけで人に来てもらえる端末を持っていくとか、玄関まで行ったら靴を脱がずにすぐに逃げられる状態にしておかなければいけないとか、そういったノウハウがスタッフにはレクチャーされているそうです。危険度が高い分、ギャランティもいいという話でした」

また、シングルマザーがレンタル父親に次第に依存していく姿も描かれる。

「あのエピソードも実際に石井さんが体験したことで、20回ぐらい依頼を受けると必ず『結婚してほしい』と言われるそうです。レンタル父親であることを理解していればいいのですが、途中からどこからどこまでが嘘なのか、依頼者自身がわからなくなってくる。どんどん依存して戻ってこれなくなったりするそうです。

ただ、これはビジネスですから、リピートしてもらうと会社が儲かるわけじゃないですか。リピートをよしとしながら、依存しすぎると破綻してしまう。その辺のところを考えると『やらしいな』と思ったり。人を幸せにしたいと思ってスタートしたサービスですが、結果的にどうですかと作中で問うているところもあります。依頼者の女性が本作を見に来て『子供に打ち上げる決意ができました』と話してくれた例もありました。打ち明けるのにも勇気が必要だし、子供自身を傷つけるかもしれません。難しい問題です」

■最近では赤ちゃんのレンタルが存在するそう
阪本監督はレンタル家族というサービスが登場した背景を次のように分析する。

「レンタル家族ができてきた背景を考えると、核家族が多くなってきたこともあるのかなと思います。都市部に利用者が固まっていることを考えると、おじいちゃんやおばあちゃんに子供を見てもらえないことも理由の1つではないかと。

また、石井さんに取材をする中で、依頼者には個性的な人が多いということもわかりました。それをそれぞれの俳優さんに、ワンポイントで表現してもらっています。たとえば、ネイルであったり、服装であったり、髪の色であったり。作品を見て『なんであそこはああなんだろう』と考える余白が増えるような、みんなで話し合って帰れるようなものにしたいと思いました」

作中では父親のほか、彼氏、息子、孫などのレンタルが登場するが、最近ではなんと赤ちゃんのレンタルも存在するそう。

「余命わずかな親に孫を見せてあげたいといった依頼があるそうです。親に嘘をつき、子供にも嘘をつかせる。倫理的に考えて、やらない会社もありますが、法に触れない限りはやるというスタンスもあります。まだ歴史の浅い業界なので、ルール作りがなされておらず会社によって自由なようです」

業界のあり方に疑問を投げかける阪本監督だが、もし誰かをレンタルするとしたら「僕は父親を割と早くに亡くしているので、父親をレンタルしたい」と話す。「一緒に飲みに行ったり、いろいろ相談をしたりしたい」というのも偽らざる思いのようだ。

本作で「人間レンタル」という新しい業界に着目し、家族をレンタルすることの光と影にスポットを当てた阪本監督。今後は「具体的に撮りたいものは決まっていませんが、社会を切り取るような、実際に起こっている社会問題を描いていけたら」と話す。今後も目が離せない監督の一人になりそうだ。

阪本武仁監督
NCF映像2期にて井筒和幸監督に師事。「パッチギ!」(2004/ 井筒和幸監督) に演出部ボランティアスタッフとして参加。卒業後上京し「大帝の剣」(2006/ 堤幸彦監督)、「手紙」(2006/ 生野慈朗監督)、「キトキト!」(2007/ 吉田康弘監督)、「20世紀少年〜もう一つの第2章〜」(2008/ 堤幸彦監督・木村ひさし監督)、「告白」(2009/ 中島哲也監督)などの作品に助監督として参加。映画「エターナル・マリア」(2016)で長編映画の初監督を努める。好きな映画は「岸和田少年愚連隊」。趣味は映画鑑賞、観劇、ライブ、飲みに行くこと。

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