
人間が抱えている繊細な感情や内面を表現する描写を得意とし、新人漫画家として商業誌で読切を描いているふみん(@huuuminging)さん。「月刊アフタヌーン」の四季賞で佳作を受賞した「いつかハネが生えたら」は命の悲しみについて言及した作品だ。
「ハネが生えたら遠くに飛んでいける」と夢見る少女・メイは、毎日を楽しく暮らしていた。しかし、次第に少女たちは成長してくると、体がハネを生やす準備をするため、背中に痛みを感じるようになる。そんな“成長痛”は眠気も伴い、まだ成長痛が起きていないメイ以外の子は毎日ほとんどの時間を眠るようになった。
ある日、メイはハネが生えはじめた友達を目の当たりにして驚愕する。本で見ていたフワフワのハネと異なり、透明で薄くて…!!「で…でも!!これでみんな自由に飛んでいけるね。夢が叶えられるね…おめでとう!」と懸命に話しかけるメイに皆は反応すらしない。皆は飛び立ち、戻って来たときにはお腹が大きくなっていた。「どうしたの?何か入れてるの?」と聞くも、言葉が通じない。動揺するメイの背中に突如、痛みが走る。「いやだ!私は…!なりたくない!」と叫ぶメイ。「翅(ハネ)なんていらない!」と――!!
そこで、主人公の女の子はベッドの上で目が覚める。起き上がるとカーペットの上に1匹のカゲロウが死んでいた。透明で薄いハネを持ったカゲロウ。3億5000万年前から地球上に存在するのに、成虫になってからの命は儚い。短いもので数時間、ほとんどが1~2日間で尽きていく。今回の作品について、著者のふみんさんに話を伺ってみた。
――「いつかハネが生えたら」は賞を受賞された作品なんですよね。
はい、「月刊アフタヌーン」さんの「四季賞」で佳作をいただいた作品です。漫画の読切作品として初めて描き上げた作品となるので、思い切って応募してみたところ、うれしいことに賞をいただけました。
――この作品を描こうと思ったきっかけを教えてください。
日常で虫を発見したとき、“彼(彼女)たちの一匹一匹は何を考えて何のために生きてるんだろう”と考えることがよくあります。地球上の命はすべからく“種”の保存のために命を脈々とリレーしていて、それは美しい物語の文脈としてよく語られます。カゲロウなんてまさにそうですよね。でも本当にそうなの?という問いから生まれた作品となります。
――作品に込めた思いとは?
“種”の保存という使命の隣で、摺りつぶされたり諦めて消えていった“個の命”の怒りや悲しみに似た感情があるのでは?と思うんです。“種”として、時間が有限な体という物体を持つ以上、逃れられない不自由さがあるのってどうしようもないんですけど、現実どうしようもないからこそ、そこに混ざった悲しみと救いを描きたいと思い、その衝動に駆られて描きました。
儚い命の象徴として取り扱われることの多いカゲロウ。地球上には多くの虫が存在するが、口がない虫はカゲロウ以外に存在しない。それは食べる必要もなければ水を飲む必要もないためだ。命をつなぐためだけにハネを広げ飛び立つカゲロウ。生命について深く考えさせられ、切なくなる作品だ。
取材協力:ふみん(@huuuminging)/講談社