正解はないけれどこのやり方はおすすめできないと思うことはあるのです / (C)稲葉 耕太(くろまめさん)
予約のとれない介護施設『くろまめさん』をご存知ですか?
「介護×田舎暮らし」をコンセプトに、高齢者が昔ながらの生活を取り戻し、心身ともに健やかに過ごせる環境を提供しているとして注目を集めるデイサービスなんです。
そんなくろまめさんを運営する稲葉耕太さんが、介護で起こるさまざまな困りごと、大ピンチの対処法を紹介。稲葉さんの提案する「めっちゃ笑える介護!」を参考に、介護のピンチを解決していってみませんか?
オール電化に戸惑う親
遠く離れて暮らす親、心配ですよね。
正解はないけれどこのやり方はおすすめできないと思うことはあるのです
「スーパーのセルフレジでキレるお年寄り」を見かけたことはないでしょうか。周囲のお客さんや、怒鳴られた店員さんはびっくりしますよね。その人たちは怒りたいわけではなく、セルフレジの使い方がわからなくて混乱し、感情的になっちゃってるんじゃないのかなあ……と思ったりします。
セルフレジに限ったことではなく、タッチパネルやスマホなど最新のシステムに戸惑うお年寄りは多いんです。例えばこんなエピソードも。
みい子さん(88歳)は8年前に旦那さんを亡くしてから、ひとりで暮らしています。元気で明るく、かわいらしいおばあさんで、くろまめさんでも人気者。料理上手で、お昼ごはんのお手伝いをいつもしてくれます。
少しずつ認知症の症状がでてきて、それでも日常生活は問題なくこなしていました。ですが、離れて暮らす娘さんはお母さんが火事を起こさないかと心配し、実家をオール電化にしたのです。台所のガスコンロはIHクッキングヒーターに、お風呂はエコキュートに。ガスを一切使用しない最新型の住宅へと大改装しました。
ところがみい子さん本人はIHにもエコキュートにも、なかなかなじめません。娘さんが繰り返し使い方を教えても、どうにも覚えられないのです。また、お風呂が焚たけたら「お風呂が沸きました」と知らせてくれる電子音声が怖いそう(聞き慣れない音声だからでしょう)。
「くろまめさんにいると、うちにいるより、ほっとするわあ」
そんなことを、ぽつりとおっしゃいました。
次第にみい子さんは料理をしたがらなくなり、お風呂にも入りたがらなくなり、認知症が急速に進んでいきました。そうして家事はおろか、着替えも自分ひとりではできなくなってしまい、すべての意欲を失って、うつ状態になってしまいました。自宅をオール電化にしてから、わずか数か月後のことでした。娘さんがよかれと思ってしたことが、かえって逆効果になってしまったかもしれません。
■ピンチを分解
慣れ親しんできた環境を変えることで認知症が進むケースは、けっこうあるのです。ガスコンロからIHクッキングヒーターに変える、お弁当の宅配サービスを頼む、など。お年寄りが火事や事故に遭うのを防ぐため、よかれと思ってやったこと。
たしかに新しいものにふれることで脳が活性化することもありますが、一方で新しいものに混乱し、心が萎縮してしまうこともあって。本当に介護は難しいですね。料理が好きで、ガスコンロに慣れているのなら、ヘルパーによる安全確認の機会を増やすなど、なるべくこれまでの生活を変えることなく、少しでも安全にできる工夫を模索するのもいいのではないかと思います。
※本記事に掲載されている情報は2025年4月時点のものです。掲載の内容には細心の注意を払っておりますが、万が一本記事の内容で不測の事故等が起こった場合、著者、出版社はその責を負いかねますことをご了承ください。
【著者プロフィール】
稲葉 耕太(くろまめさん)
1983年生まれ、京都府出身。株式会社ひだまり介護代表取締役。京都府船井郡京丹波町で介護施設『くろまめさん』(デイサービス)を運営。「介護×田舎暮らし」をコンセプトに、高齢者が昔ながらの生活を取り戻し、心身ともに健やかに過ごせる環境を提供している。介護技術を教える『介護の寺子屋くろまめさん』も開講、年16回ほどある講座はすぐに予約が埋まる。また、くろまめさんに通うおばあちゃんの料理と田舎ピザを提供する『おピザはん』を運営するなど、地域と介護をつなげる活動もしている。
※本記事は稲葉耕太(くろまめさん) 著の書籍『介護の大ピンチ解決します』から一部抜粋・編集しました。