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コーヒーで旅する日本/東海編|店としての敷居は下げつつ、提供するものは一流でありたい。「haru.」

  • 2023年5月3日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第20回は、名古屋・川名にある「haru.」。山岡亮太朗さんがコーヒー、奥さまのさくらさんがお菓子を担当し、お互いがそれぞれのプロとして技術を磨いてきたご夫婦が営むカフェだ。亮太朗さんは、コーヒー業界に多大な影響を与え続ける名店「丸山珈琲」から競技会に参加した経験を持つ、ハイレベルなバリスタ。「丸山珈琲」を退社してからは焙煎士としても経験を積み重ねてきた。「浅煎りのシングルオリジンを初めて飲んだ時に『すごいな』と思い、コーヒーにのめり込んだ」という亮太朗さんのコーヒーは、豆の特徴がしっかりと表現されたわかりやすい一杯。繊細な焙煎と抽出によって引き出した豆の個性を、お菓子の個性とかけ合わせた"最高のペアリング"が「haru.」の真骨頂だ。

Profile|山岡亮太朗(やまおか・りょうたろう)
1995(平成7)年、京都府京都市生まれ。学生時代のアルバイトがきっかけでコーヒーに興味を持ち、大阪・肥後橋の「タカムラ コーヒーロースターズ」に就職。2年ほど働いたのち、憧れだった長野・軽井沢に本店を持つ「丸山珈琲」に入社。2017年の「JBC(ジャパン バリスタ チャンピオンシップ)」でセミファイナリストに。その後、愛知・豊田の「WORK BENCH COFFEE ROASTERS(ワークベンチコーヒーロースターズ)」で焙煎の経験を積む。2019年からさくらさんと一緒に間借りカフェとして「haru.」の活動を開始。2021年に実店舗をオープン。

■コーヒー店であり、ケーキ店であり、カフェ
地下鉄鶴舞線川名駅からすぐ。広々とした芝生広場が気持ちいい川名公園を目の前に臨む「haru.」は、ハイレベルなコーヒーとお菓子を目当てに多くのカフェ好きが訪れる人気店だ。実店舗を構える前は間借りカフェとして活動していたこともあり、2021年にオープンするやいなや、連日満席という人気ぶり。間借り時代よりもペアリングの提案を強化し、山岡さん夫婦がそれぞれのプロとしてのプライドを持って作り出すおいしいコーヒーとお菓子を、カフェというカジュアルなスタイルで提供している。

冷蔵ショーケースには、その日のケーキや定番のプリンが3、4種類。その上には焼き菓子が5、6種類並んでいる。「haru.」として活動を始める前から自らのブランド「an」を立ち上げ、各地のマルシェで活動してきたさくらさんのお菓子を、コーヒー担当の亮太朗さんは「シンプルで、直観的においしいと思えるケーキ」と評する。さくらさんと出会ったことでコーヒーマンとして目指す方向性が明確になり、独立に向けて動き出すきっかけをつかんだ。

オープン当初は「コーヒーよりはカフェやスイーツが好き」という若者がほとんどだったというが、今は近所に住んでいる人や子供を連れた人も訪れ、客層が広がっている。次第に、ケーキに合うコーヒーを聞かれて提案することや、おすすめのペアリングをオーダーする人、定期的に豆を購入していく人も増えてきた。「うちのお店の特性上、ケーキをメインにして来てくださる方が多いのですが、客層が広がるにつれて、ケーキに向き合うよりは空間やコーヒーに向き合う時間も作りたいと思うようになりました。それで、金曜夜の営業を始めてみたんです。すると、この時間帯ではほとんどの方が紅茶などではなくコーヒーを頼んでくれるようになりました。通常営業ではテーブル席から埋まるんですが、金曜夜は抽出風景がよく見えるカウンター席が大人気です」

■レシピを整えれば、出したい味は出せる
コーヒーメニューの中でもエスプレッソ、アメリカーノ、カフェラテは、JBCセミファイナリストである亮太朗さんの技術が遺憾なく発揮される。「エスプレッソ抽出は、コーヒーの味を凝縮した抽出方法。当店では浅めに焙煎したシングルオリジンを使用するので、フレーバーがしっかりつまった仕上がりになります。一方、どうしても酸が主体になるので、下手に淹れるとめちゃくちゃまずくなってしまう。甘さや質感がしっかり伴えばおいしいので、技術を磨いてきたバリスタが抽出するからこそ、その魅力を知ってもらえるのではないかと思っています」

エスプレッソにスチームミルクのまろやかさと甘味が加わったカフェラテは、カップを顔に近づけただけで華やかな香りが感じられる仕上がり。なめらかな口当たり、軽やかな後味に、ホッと心のこわばりがほぐれていくようだ。

一方、ハンドドリップでは、誰が抽出しても同じ味になる再現性を重視。「重要なのは、豆とお湯の比率です。だから、ドリッパーにはあまりこだわりませんが、ハリオV60を使っている理由は、手に入りやすいからですね。幅広い味が出せますし、価格もリーズナブル。中学生でも手に入れられるので、コーヒーに興味を持ってもらう入口としてもいいなと思っています」

「あくまで一例ですが、当店では浅めの豆を使う時の豆とお湯の比率は、大体1:16。一投目からの蒸らしは50秒。二投目以降は20秒くらいかけ、中心から外へ円を描くようにお湯を差し、トータル2分半くらいで落とします。前半で味を出しきるので、後半は濃度調整です。こういったレシピを整えておけば、ぶれずに出したい味を出せると思います」

抽出したドリップコーヒーは、サーバーで提供。「自分のタイミングでコーヒーを楽しんでほしい」という亮太朗さんの想いから、このスタイルになったのだとか。自分でカップに注ぐというちょっとした作業だが、なんだかコーヒーに対する愛着が少し深まったような気がした。

■お客が選びやすいラインナップを意識
コーヒーに興味を持ち始めた高校時代から、一途にスキルを磨いてきた亮太朗さん。「高校生の時、近所にスペシャルティコーヒーを提供する有名店があったんです。浅煎りのシングルオリジンを初めて飲み、今まで飲んできたものとまったく違う味わいに驚きました」。これがコーヒーの原体験となったこともあり、店で扱う豆は浅めの焙煎度合いが多い。中深煎りのharu.ブレンドにフルーティー、フローラル、バランス型などを加えた常時5、6種類を用意し、シングルオリジンの中から日替わりの豆をエスプレッソに使用する。

「ブラジルやコスタリカなど、シングルオリジンの中でも特徴が少なくてバランスのいい豆は中煎り程度の焙煎度合いにしていますが、基本的にシングルオリジンを深く焼くつもりはありません。浅すぎずでも特徴がしっかり出るように、中浅煎り程度が多いですね。あとは、なるべくわかりやすい豆を選んでいます。例えば、フルーティーといえばやっぱりエチオピアのナチュラルが一般的だと思うので、銘柄を変えながらも定番として用意しています。あとは、華やかなフローラル系のコーヒー。当店ではエチオピアのウォッシュドを充てることが多いです。ほか、比較的バランスの取れた浅めの豆も用意しています。特殊なプロセスのコーヒーを扱うスペシャルロットが登場することもあります」

焙煎作業は、週1回の頻度でシェアロースターを利用して行う。「焙煎はほぼ独学ですが、バリスタとして抽出や接客をメインでやっていた時も焙煎士と一緒にレシピを考えることはしていたので、それなりに知識はありました。実際に焙煎機を触るようになってまだ3年程度ですが、生豆を見て、バランスを整えるイメージでやっています。例えば、エチオピアではフレーバーをわかりやすく出したいけれど、酸が突出せずしっかり甘味も出せるようにアプローチする、といった具合です」

ところで、同じエチオピアの豆でも精製方法の異なるナチュラルとウォッシュドの両方を扱うことが多い同店では、どのような違いを意識しているのか聞いてみた。「ナチュラルはわかりやすいフレーバーの特性があるので、なめらかな質感や甘さをしっかり出したいと思っています。そのため、なるべく浅く、でもしっかりとカロリーを与えながら焼くことを意識しています。一方、ウォッシュドは豆の持つ成分量が少し多いので、ナチュラルよりも焙煎時間を少し長く取って、雑味を極限まで減らすイメージです。クリーンで甘い感じの仕上げを目指しています」

■最高のペアリング体験を目指す
豆の特性を感じられ、なおかつバランスの取れた味わいを目指す亮太朗さんのコーヒー。焙煎にも、抽出にも、この志向が見て取れる。それは、さくらさんのお菓子と出会ってより明確になった、亮太朗さんの個性といえるだろう。「パティシエが淹れるコーヒーや、バリスタが作るスイーツに、プロレベルのクオリティを求めることは難しいと思っていました。しかし、それぞれのプロがお互いのことを理解してお菓子やコーヒーを作ることができれば、それは大きな強みになると思ったのです」

さくらさんのケーキを「シンプルで、直観的においしいと思えるケーキ」と評した亮太朗さんは、コーヒーとのペアリングで完成度を上げるイメージなのだという。「当店で定番のペアリングの一例として、ショートケーキにエチオピアのナチュラルをおすすめしています。ショートケーキは、スポンジと生クリームと季節のフルーツが層になったシンプルな組み合わせです。もちろん、これだけでおいしいのですが、ここに、同じベリー系の印象を持つエチオピアのナチュラルを組み合わせると、コーヒーによる複雑味が加わるんです」。もしコーヒーに個性が強すぎた場合は、このシンプルなケーキの味わいを侵してしまうだろう。亮太朗さんがバランスを重視するのは、さくらさんのケーキとの相性も関係している。

「すごく飽き性な私ですが、コーヒーは仕事にするくらいハマりました。人生が変わるくらいの魅力があります。コーヒーはまだまだ発展途上であり、今の常識はすぐに塗り替えられる状態。数年前まではカフェラテといえば深煎りのエスプレッソが常識でしたが、今のトレンドは浅煎りになっています。だから、誰でも何かきっかけがあればすぐに好きになれる。深煎りやブラックだけがコーヒーじゃなくて、もっと幅がある飲み物です。ケーキやカフェが好きで来店した人にも、私のコーヒーやケーキとのペアリングを体験して、好きになってもらえたらうれしいですね。敷居は低く、だけど提供するものは一流を目指していきます」

■山岡さんレコメンドのコーヒーショップは「喫茶toi」
「愛知県豊橋市にある『喫茶toi』をおすすめします。こちらはご夫婦で営業しているカフェで、コーヒーはご主人が担当。小型の焙煎機を使い、自家焙煎コーヒーを提供しています。深煎りが好まれる土地柄から、コーヒーは浅煎りではありませんが、ご主人の人柄が出ているようなやさしい味がします。いつ行っても変わらず温かい安心感がありますし、コーヒーもさることながらおふたりの人柄が大好きです。空間、人も含めて、カフェとしての精度が高い店だと思います」(山岡さん)


【haru.のコーヒーデータ】
●焙煎機/プロバット半熱風式5キロ
●抽出/エスプレッソマシン(ラ・マルゾッコ リネアミニ)
●焙煎度合い/中浅煎り~中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100g850円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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