上野動物園の「シャンシャン」が2023(令和5)年2月21日(火)に中国へ返還されるというニュースに驚いたが、和歌山のアドベンチャーワールドのパンダファミリーから30歳のお父さんパンダ「永明」(えいめい)、その子供であるふたごのメスパンダ、8歳の「桜浜」(おうひん)と「桃浜」(とうひん)も中国へ旅立つことになった。突然の出来事にファンは驚きを隠せずSNSでは「信じられない」「環境の変化が心配」「お別れに行かないと！」とさまざまな声でいっぱいに。では、この3頭を送り出すアドベンチャーワールドは、どんな気持ちで準備をしているのだろうか。広報の長谷川舞さんに話を聞いた。
■突然の決定でファンはびっくり！
このニュースが発表されたのは、2022(令和4)年12月。2023年2月22日(水)、パンダファミリーから3頭が中国・四川省の成都ジャイアントパンダ繁育研究基地へ旅立つことになった。
「来園者のみなさまからは、3頭が同時に中国に旅立つことに驚きの声が多かったです」と長谷川さんは言う。
■子だくさんの「永明」と、その娘のふたごパンダ「桜浜」「桃浜」。最大の魅力はなんでしょう？
1994(平成6)年に来園した「永明」は、最初のパートナーである「梅梅」(めいめい)と6頭、2番目のパートナー「良浜」(らうひん)との間に10頭の子供をもうけてきた。その「永明」と「良浜」の間に生まれたふたごの赤ちゃんが「桜浜」「桃浜」だ。それぞれにファンがいる3頭だが、長谷川さんの目からみた3頭の魅力とは？
★永明★
お父さんパンダ「永明」の魅力は「穏やかな性格でいつものんびりしています。パンダファミリーの中で最もグルメなパンダです。おいしい⽵を⾷べるときは⾜を肘置きにして⾷べます」
★桜浜★
ふたごのお姉さんパンダ「桜浜」は耳の毛がふさふさで、目の模様の目じりが少しはねているのが特徴。「マイペースでおっとりとした性格です。⽵やリンゴを⾷べているときにペロッと⾆をだすクセがあります」
★桃浜★
ふたごの妹パンダ「桃浜」は、耳の毛が短く、顔を横から見た時に鼻が長いのが特徴。「好奇⼼旺盛で活発です。お⽗さんパンダ『永明』に似てグルメな⼀⾯もあります。どのパンダもたくさん⽵を⾷べ、元気に暮らしてくれていることが最⼤の魅⼒だと思います」
■飼育スタッフの記憶に残る、3頭それぞれの名場面は？
3頭のそばで、見守ってきた飼育スタッフの声も紹介しておきたい。3頭との日々で、思い出すのはどんなこと？
★永明★
「⽵の選り好みが激しく、どの⽵を準備すればいいのか日々悪戦苦闘中の飼育スタッフに対して、鳴く、お⽫で⾳をだすなどしておねだり上⼿な⼀⾯を見せるんです。ようやくお気に⼊りの⽵を⾒つけておいしそうに⾷べる姿が印象的です」
★桜浜・桃浜★
「4歳頃まで同じ空間で過ごしていたので、⼀緒にじゃれて遊んでいる様⼦はとても
微笑ましかったです。誕⽣会などのイベント時にはそれぞれの性格の違いがよく現れていて、『桜浜』は氷のプレゼントに⾒向きもせず⽵を⾷べていて、『桃浜』は氷のプレゼントでじゃれて遊んでいるという様⼦が毎回印象的でした」
■「お別れセレモニー」の計画は？
2023年1月現在、3頭の観覧最終日は2月21日(火)を予定。「この期間は、旅⽴ちに向けて3頭の健康状態に問題がないかチェックをするお⾒送り期間となります。観覧最終⽇である２⽉21⽇(⽕)に歓送セレモニーを予定しています」と長谷川さん。ただ、1月21日に「桃浜」に発情兆候が認められたため、1月末時点での「桃浜」の公開は一時休止されている。
■「永明」やパンダファミリーについての本も登場！
「永明」が来日した1994年から、アドベンチャーワールドでは「ジャイアントパンダ日中共同繁殖研究」を開始。90年代初頭まで世界中のジャイアントパンダの飼育頭数は100頭前後だったそう。それを思えば「永明」から連なるパンダファミリーの軌跡はすばらしいものになった。
そんな、世界に誇るパンダファミリーの立役者「永明」のフォトブック「永明からつながる スマイルストーリー」3850円(送料別・数量限定)が発売された。来園してからの29年間の記録から秘蔵写真や「永明」のトリビアなどをたっぷりピックアップ！購入はアドベンチャーワールド公式サイトのほか、パーク内のショップでも販売中だ。
また、アドベンチャーワールドのパンダチームだからこそわかるパンダのあれこれを紹介した「知らなかった！ パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―」(新潮社・1595円)も発売。29年間、「ジャイアントパンダ日中共同繁殖研究」で得た知識や経験を元に、パンダの生態や繁殖について詳しく紹介したパンダブックとなっている。こちらは全国の書店とパーク内ショップで販売している。
■3頭を送りだすアドベンチャーワールドの願いは…
アドベンチャーワールドにとって大きな変化となる3頭の中国への旅立ち。長谷川さんは「出発までパンダたちが安全に中国へ旅⽴てるよう見守り、準備を進めてまいります。『永明』は ジャイアントパンダの保全、継続的な繁殖計画に基づき、中国へ帰国しますし、『桜浜』、『桃浜』は性成熟の年齢に達しており、今後中国でパートナーを探し未来の繁殖を⽬指します。私たちスタッフとしては、3頭にとって明るい未来に繋がればうれしく思っています」と話してくれた。
和歌山の地にパンダの聖地を作り出したアドベンチャーワールド。中国と共同研究を行いながら、ジャイアントパンダの保全と繁殖のために尽力してきた人たちの思いのせて、3頭は中国へ旅立っていく。
休園日には旅立つパンダたちの中から1頭の様子(「桃浜」は現在公開中止)を「アドベンチャーワールド公式YouTubeチャンネル」で配信予定。遠方のファンもこれならお別れができそうだ。公開日は公式サイトをチェックして確認を。
検疫期間中なので、園内での観覧はブリーディングセンターで実施中。屋内運動場で過ごす1～2頭の姿を見ることができる。予約は必要ないが、1組40人程度を1グループとして移動、観覧時間は約3分となっている(※変更する場合あり)。観覧希望者は直接ブリーディングセンターへ。
パンダの体調などにより変更する場合も多いので、公式サイトで最新情報をチェックしてお別れとありがとうの気持ちを伝えに行こう。
取材・文＝田村のりこ
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