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コーヒーで旅する日本/九州編|磨き続ける技術に加え、持ち前の感性で洗練された一杯を。「小さな焙煎所 花待ち雨珈琲」

  • 2023年1月2日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第58回は、福岡市六本松にある「小さな焙煎所 花待ち雨珈琲(ほまちあめこーひー)」。“外待雨(ほまちあめ)”という局地的に降る恵みの雨を指す言葉が由来で、店を訪れた人々に少しでも幸せな気持ちになってほしいと名付けられた。“外”を“花”の当て字にしたのは、店主の安川佳織さんがどうしても花にちなんだ屋号を付けたかったからだ。そんな優しいエピソードが流れる「花待ち雨珈琲」だが、コーヒー業界ではハンドドリップの名手が営む店としても広く知られている。路地裏の古アパートの一室でひっそりと営む小さなコーヒーショップの過去、今、そして目指す未来とは。

Profile|安川佳織(やすかわ・かおり)
福岡県福岡市生まれ。将来のことを考えていた20代で飲食の世界に興味を持ち、自家焙煎の喫茶店でアルバイトを始めたのがコーヒーの入口。店では接客をはじめ、コーヒーの抽出、さらには焙煎機にも触る機会があり、コーヒーの世界に魅了される。コーヒーのことをさらに深く学びたいと考え、とある縁から現在も一緒に店を営む坂梨さんと出会う。2017(平成29)年9月、無店舗で「小さな焙煎所 花待ち雨珈琲」を開業。週2回の間借りカフェ営業、月に1〜2回のイベント出店などを経て、2020(令和2)年1月に実店舗を六本松にオープン。

■おっとりとした雰囲気の裏側には
「花待ち雨珈琲」は屋号からどこか柔らかな印象を抱かせる。店主の安川佳織さん自身、とてもおっとりとした雰囲気で、イメージ通りの人だ。ただ、安川さんは2019(令和元)年のジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップで全国4位、さらに2022(令和2)年10月に催された同競技会では準優勝に輝くなど、すごい経歴の持ち主。九州はもちろん、全国に名を馳せる凄腕のブリュワーだ。安川さんがハンドドリップの競技会に初めて挑戦したのは2017(平成29)年と、独立開業してすぐのタイミング。まずこの行動力に驚かされた。

そのきっかけの一つとなったのが現在も一緒に店を営む坂梨さんの存在。坂梨さん自身もハンドドリップの競技会に出場した経験があり、ファイナリストまで残った実力者。言わば、坂梨さんは安川さんにとって師匠的な存在で、彼を通じて競技会が行われていることを知った安川さんはすぐに「私も出てみたい!」となったそうだ。普通なら「もう少し経験を積んでから…」「まだ早いかも…」と躊躇しそうなものだが、安川さんの場合、即行動。このエピソードを聞くと、おっとりとした雰囲気の裏側に、強い意思を持っていることはわかるというもの。さらに、3回目の挑戦となった2019(令和元)年の競技会で全国4位となり、新型コロナウイルスの影響で3年ぶりに開催された2022(令和4年のジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ2020では全国2位と、着実に実力を磨いていることは結果からも一目瞭然。日々相当な努力をしていることは言うまでもない。

■コーヒーの世界観を広げた体験
坂梨さんとの出会いからスペシャルティコーヒーを知った安川さんは「コーヒーを一生の仕事にしたい」と考え、その翌年には独立という道を選んだ。安川さんは「前職時代、焙煎にも携わっていましたが、温度も時間もすべてマニュアルに沿って行っていたので、どういう理屈で焙煎されているかは理解していません。ただ、店にある焙煎機を自由に使うことができたので、試しに生豆を自分で買って焼いてみたんです。それが、びっくりするぐらいおいしくなくて!ただの焦げた味のする苦い飲み物でした。そこで、焙煎の仕方によって味わいは大きく変わることを実体験として学びました。これがよりコーヒーの奥深さに触れた第一歩目。次の転機はスペシャルティコーヒーとの出合いです。今まで飲んできたコーヒーには感じたことのないフレーバーを持っているスペシャルティコーヒー。しかも産地や生産処理などによって、それがまったく違う。この体験が私のコーヒーの世界観をぐんと広げてくれました」と振り返る。
■メニューは王道からアレンジ系まで
安川さんの経歴からコーヒーツウも訪れるが、SNSをきっかけに来店するライトなカフェラバーが多いのも「花待ち雨珈琲」らしいところ。SNSには安川さんが考えた“ほまちちゃん”というかわいい女の子のキャラクターが多数登場し、ほっこりとした世界観を作り出している。

現在、「花待ち珈琲」では抽出や接客を安川さん、焙煎を坂梨さんが主に担当。メニューは開業当初からほぼ変わらずで、ハンドドリップの珈琲(500円〜)、カフェラテ(550円)が定番のコーヒードリンク。さらにユニークな一杯として、マシュマロカフェラテ(650円)というドリンクもある。カフェラテにマシュマロを浮かべ、さらに表面をバーナーで炙ったオリジナルのドリンクで、SNSをきっかけにオーダーも多い店の看板メニューの一つだ。

また、夏季限定で出す甘夏珈琲ソーダなど、シーズナルドリンクには安川さんが持つ確かな技術が随所に活かされる。実際、夏に味わった甘夏珈琲ソーダは、エアロプレスで抽出したコーヒーに自家製甘夏シロップをブレンド。コーヒーと甘夏特有のビター感が絶妙にマッチし、その組み合わせの妙に感動したのを覚えている。

■豊かな感性でより魅力的な一杯に
ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ2020で全国2位となった安川さんの揺るぎない目標はもちろん日本一。次回の競技会に向けて、すでに安川さんの挑戦は始まっている。一方でエスプレッソマシンやエアロプレスなど、ほかの抽出器具を用いた競技会はあるが、安川さんがハンドドリップにこだわるのはなぜか。「ハンドドリップはお客さまにとって一番身近にある抽出器具なのが大きな理由です。私がブリュワーとして技術を磨けば磨くほど、お客さまにお伝えできることは幅広くなっていくと思っていて。また、ハンドドリップは湯温、抽出時間、豆の挽き目などでその豆が持つ甘味、アシディティ(酸)、質感を調整して、細部まで表現することができます。それが私自身、楽しいんです」と安川さんは微笑む。

レシピ通りに抽出することで、だれでもおいしいコーヒーを淹れることができるハンドドリップという抽出方法だが、「花待ち雨珈琲」をレコメンドしてくれたハンドドリップ日本一の珈琲カドの久保田洋平さんが、「彼女の淹れたコーヒーを飲んだ時、素直にすごいと思った」と言葉にしていたように、安川さんが作り出す一杯は、すべてが洗練されているように感じる。
「コーヒー農家の方々の研究、技術の研鑽を常に感じ、淹れ手として日々感謝しかありません。そんな一生懸命栽培されたコーヒー豆を最高に輝かせたい。いつもそんな思いを抱いてコーヒーと向き合うようにしています」
安川さんのこの言葉を聞いて、とても感性豊かな人なのだと感じた。作り手への感謝も一杯に落とし込むことで、味わいが昇華する。抽象的かもしれないが、そんな思いを日々持ち続けることも大切なのかもしれない。

2023(令和5)年には新たな焙煎機も導入予定という「花待ち雨珈琲」。現在は250グラムと小型の焙煎機、COFFEE DISCOVERYを使っているが、次はPROBATを検討しているという。「現在の焙煎機は一度に焼ける量の関係から、豆の種類を増やすのが難しかったのですが、サイズアップすることで、もっとたくさんの種類を扱えるようになる。それが楽しみで仕方ないんです」。目を輝かせてそう話す安川さんを見ていると、こちらもうれしくなってしまった。

■安川さんレコメンドのコーヒーショップは「COFFEE UNIDOS」
「福岡県糸島市にある『COFFEE UNIDOS』。先日、店主兼ロースターの田中さんが焙煎したゲイシャ種のコーヒーを飲んだのですが、それがすっごくおいしくて。田中さんは生産国に自ら足を運び、生豆を仕入れていて、どのコーヒーも素晴らしいんです。私もいつか産地に行ってみたいと思っていることもあり、いろいろお話を聞いてみたいと思っています」(安川さん)

【小さな焙煎所 花待ち雨珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/COFFEE DISCOVERY 250グラム
●抽出/ハンドドリップ(Kalita ウェーブ)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム756円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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