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コーヒーで旅する日本/関西編|メルボルンのカフェカルチャーを京都にも。「資珈琲」がコーヒーを介して広げる“日常の中のワクワク感”

  • 2022年12月20日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第44回は、京都市北区の「資(たすく)珈琲」。前回、登場したWIFE&HUSBANDから徒歩十数秒の場所に、2021年にオープンしたニューフェイスだ。店主の河合さんは、オーストラリア・メルボルンのカフェカルチャーに触れたことを機に、自店を開業。肩肘張らないラフな空間とオープンな雰囲気は、現地で経験したコーヒーの楽しみ方を体現している。まだ開店1年ながら、河合さんがメルボルンのカフェで感じた“日常の中のワクワク感”は、地元の人々にも広まりつつある。

Profile|河合資(かわい・たすく)
1985(昭和60)年、京都市生まれ、滋賀県育ち。デザイン専門学校を卒業後、デザイン事務所に勤務。デザイナーとして独立すると同時に、滋賀県産の野菜を使ったメニューを提供するカフェ「GREEN Kitchen」、野菜の無人販売「MUJIN Store」を運営。その後、旅で訪れたオーストラリアで現地のカフェカルチャーに魅せられ、メルボルンに移住。滞在中に体感したユニークなカフェのスタイルを取り入れ、2021年、京都市北区に「資珈琲」をオープン。

■メルボルンのカフェカルチャーを京都にも
京都市内の目抜き通りの一つ、北大路通。賀茂川を渡る橋のたもとに、異彩を放つ屋台のような建物が現れたのは1年前。建材や配管がむき出しの細長い空間は、まだ工事中かと思いきや、さにあらず。よく見ると、店主の河合さんが、通りを行きかう顔見知りと挨拶をかわしてはコーヒーを淹れ、近所の子供たちが通れば手を振り、歩道と店内を出たり入ったりしている様子は、まるで市場の商店さながらだ。

「店の真ん前に比叡山が見えるロケーションが気に入って。日が昇る時間帯はすごくきれいで辺りが輝いて見えます。早朝から店を開けてるのは、それが見たいがためで、自分にとって、毎日のグッドバイブスを保つ秘訣です」と河合さん。6年前から開業の構想を温め、ずっと目を付けていたこの場所が空くのを待つこと3年。あきらめかけた時に、テナント募集の知らせを聞いて即決した。知り合いの設計士やアーティストの協力を得て、ほぼセルフビルドで立ち上げた空間は、実はまだ完成途上。とはいえ、すべてが素通しのラフな雰囲気こそが、この店の魅力の源泉でもある。

往来とシームレスにつながり、道行く人が入れ代わり立ち代わりする、ユニークな店のスタイルは、河合さんがオーストラリアを旅した時に出会った、現地のカフェカルチャーに触れたことで生まれたもの。「カフェやコーヒーが、いわば街のハブになっていて、そこで現地の日常のリアルな楽しみを知ったのが開店へ至る原点。普段の生活の中で、毎日こんなにワクワクする体験があることに驚き、自分でもこれをやりたいと思ったんです」と振り返る。その体験の熱が冷めやらぬうちに、その後はワーキングホリデーを利用して、メルボルンに移住。オーストラリアのカフェ発祥の地ともいわれ、個性豊かなカフェがひしめくメルボルンで過ごした約3年間は、得難い経験となった。

「市街はもちろんですが、郊外の住宅地にも交差点ごとにカフェがあって、タトゥーを入れたちょっと強面のバリスタがいるような店でも、近所のおばちゃんが何気なくコーヒーを飲んでいたり、さりげなくマイマグを持ってきている常連がいたり、日常の中でのカフェの使い方が、とにかくかっこよく映りました。オーストラリアの中でもメルボルンは関西に近いノリがあって、特にローカルカフェは気さくで人情みがあって。すぐに声をかけられるし、店でもスタッフかお客さんか、分からなくなることもしょっちゅうでしたね」

■店構えもお客との関係も、気取らずフラットに
そんなメルボルンのカフェカルチャーを体現するのが、「資珈琲」のユニークな店構え。キッチンが外に向かって丸見えで、コーヒーの抽出の様子も覗き込んで見られる距離感。まさに、どちらがスタッフかお客か、分からなくなるようなオープンなレイアウトには、もう一つの意味がある。「通常、店では見えないバリスタの所作や仕事を近くで見てほしいから。料理でも同じで、目の前で作ってもらったらおいしく感じるという感覚は、常々持っていたので、“自分がどう楽しんでコーヒー飲めるか”をイメージしたのがこの空間なんです」と河合さん。フロアでもありキッチンでもある、融通無碍な空間が店と客との垣根を取り払い、親近感をぐっと高める。人の関係もフラットにする店作りには、「自分もお客さんと同じ立場でコーヒーを楽しみたい」という思いが形になったものでもある。

また、店のスタイルだけでなく、提供するコーヒーもフロム・メルボルン。河合さんが「現地で最もワクワクした」という一軒、WOOD AND CO COFFEE ROASTERSから直接、豆を取り寄せている。「いろいろ巡った中でもナンバー1の店。倉庫街を改装して作ったスペースには、多くのクリエイターが集っていて。訪ねた時も、みんなフレンドリーで、一歩入れば居心地がいい場所。コーヒーがおいしいだけでなく、店のスタイルを含めて一番かっこよくて、自分の店のイメージにもつながっています」

「資珈琲」で提供するコーヒーは、シングルオリジンが中心。帰国後にカフェを始めることは決めていたので、日本では味わえないこの店のコーヒーを仕入れようと、すでに現地で声をかけていたという。「後で分かったことですが、向こうは焙煎のボリュームが大きくて、20キロぐらいの窯で大量に焼くから、熱の伝わり方もいいし、一度に量を焼くことで味の分厚さが段違い。華やかなフレーバーや果実味が際立っています」と河合さん。また、抽出やマシンの扱いなどは、日本とメルボルンのカフェで働きつつ、自分でもマシンを購入し、常に触れながら身に着けてきた。

店で使っているマシンは、最新型をフルカスタム。医療用の三角形のトレーを挽いた粉を受ける器にしたり、ドリップの作業台を自作したりと、子細に見れば独自の工夫が随所に見える。その一方で、カップやグラスは、ほとんどがノベルティで、至って気取りがない。会計用のお金は大皿に置いてあり、時にはお客が自ら支払って、お釣りを取っていく。さらには、壁に吊るされた通称“フリーバナナ”は、午前にコーヒーを注文したら、こちらもお客が自ら1本もいでいく。「細部にはこだわりながら、堅苦しいイメージをできるだけなくして、さらっとやるのがかっこいいんです」という気取らぬスタンスが、この店の居心地のよさの所以だ。

■“自分好み”のコーヒーから広がる日常の楽しみ
多彩なコーヒーを揃えながら、メニューがほとんどないに等しいのも、この店ならではの提案の一つ。手書きのメニューには、シンプルにBLACK・WHITE・ICE・KIDS・OTHERと表記があるだけだ。「ドリップ、エスプレッソ、さらにアレンジまで入れたら、メニューはキリがないくらいあるので、お客さんとのセッションの中で提案していくのが基本。実際はおまかせの人も多いですが、あまり細かく説明せず、逆に好みの飲み方をどんどん伝えてほしい」と河合さん。例えば、ミルクを使うWHITEなら、オーストラリア流のフラットホワイトやソイラテといったバリエーションに加え、エスプレッソの量や濃度など、会話を通して好みのニュアンスに応えていく。実は、このやり取りを通して、お客の楽しみ方を広げていくのが、河合さんが考えるバリスタの大きな役割だ。

「これだけ抽出器具を揃えても味がブレることがあるので、ロースターの作る味をしっかり伝えることは常に意識してます。ただ、淹れるコーヒーはお客さんそれぞれ違うし、飲む目的やタイミングでも変わる。その幅や揺らぎを捉えて、それぞれのイメージに合わせて提供するのがバリスタの仕事。いわば割烹の板前みたいなもので、メルボルンではカフェで注文を細かく指定するのは当たり前で、みんなが粋な注文の仕方やカスタマイズのこだわりを持っています。今まで、そのカルチャーを伝える役割を担う場所や機会が圧倒的に足りていなかったと思うので、ここから、自分好みのコーヒーの飲み方を楽しむお客さんを増やしていきたい」

観光地からは離れているが、地下鉄の駅前で人通りが多い界隈だけに、お客のほとんどは地元の人々。「始めた頃は緊張感もあったけど、朝から店先で“おはようございます”と挨拶を続けていくと、近所の人が来てくれるようになりました。この店構えなので、今では、むしろ話しかけられることがすごく増えましたね」と河合さん。開店1周年を機に始めた、コーヒーチケットの販売も好評で、多くの常連客がいたことに感動したそう。「これからも、できるだけ自然体でやりたい。街との距離感を近づけて、地元の皆さんに応援してもらえるような店になれれば」。河合さんがメルボルンのカフェで目の当たりにした“日常の楽しみ”は、ここ北大路でも着実に浸透しつつある。

■河合さんレコメンドのコーヒーショップは「STYLE COFFEE」
次回、紹介するのは、京都市上京区の「STYLE COFFEE」「店主の黒須さんは、自分が行く少し前にメルボルンに渡っておられて、現地で共通の知り合いを通じてご縁ができました。コーヒーに対してストイックで、焙煎の研究にも熱心。また、コーヒーのペアリングイベントなど実験的な試みもしながら、コーヒーの可能性を探る姿勢は、自分には真似できない部分。同じバリスタとして、リスペクトする存在です」(河合さん)

【資珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(WOOD AND CO COFFEE ROASTERS)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(マルゾッコ)
●焙煎度合い/浅煎り~中煎り
●テイクアウト/ あり(600円)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン約10種、100グラム1000円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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