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コーヒーで旅する日本/九州編|特別じゃなくていいと歩んだ12年。これからも日常に寄り添い続ける。「cafe MARUGO」

  • 2022年10月31日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第49回は、福岡市薬院にある「cafe MARUGO」。多くの人気飲食店が建ち並ぶ警固本通りから南に少し歩いた場所で、2010年11月から営む。一見すると喫茶店の雰囲気だが、開業当初から自家焙煎に着手し、豆売りにも力を入れる。同店が創業時から掲げているのが「特別な一杯よりも、いつもの珈琲を心を込めて」というモットー。その言葉通り、スペシャルティ規格の豆も取り扱うものの、店では一切その言葉を使用しない。“特別”ではなく、“日常に寄り添う”。12年間、変わらぬ思いで歩んできた「cafe MARUGO」が愛される理由を探る。

Profile|白石泰隆(しらいし・やすたか)
1967(昭和42)年、福岡県北九州市生まれ。高校卒業後、東京でバイクのメカニックとして働く。勤めていたバイクショップが閉店したのを機に福岡市へ。叔母の紹介で勤めた老舗ロースタリーカフェで、コーヒーのおもしろさに魅了され、結果10年ほど勤務。退職後はコーヒーショップを開くつもりだったが、良い物件に巡り会えず、パン作りを学ぶためにベーカリーに就職。3年ほど働く中で、やはりコーヒーの世界で生きていきたいと、改めて独立を目指す。2010(平成22)年11月、薬院に「cafe MARUGO」を開業。2019年11月には、福岡市南区に「cafe MARUGO 向野店」をオープンし、現在、薬院店、向野店の2店舗を営む。

■できるだけ酸味を出さない焙煎
「cafe MARUGO」といえば、ボディ感のしっかりある深煎りのコーヒーという印象が強い。店構え、店内の設えもクラシカルで、深煎りならではのコーヒーらしい良い香りが常に漂い、どこか落ち着いた雰囲気だ。店主の白石泰隆さんは独立に際し、自家焙煎をすることを当初から決めていたそう。

「約10年働いたロースタリーカフェでは抽出を担当していたので、焙煎は独学です。ただ、もともとバイクのメカニックをしていたこともあり、機械を扱うのは好きですし、マシンの特性を理解して、なぜこういう結果になったのか、といったことを考えるのも性に合っていました」と白石さん。

12年前から使い続けている焙煎機はラッキーコーヒーマシンの直火式。直火式を選んだのは、純粋に白石さん自身、深煎りのコーヒーが好きだったから。「私は個人的にコーヒーに酸味があるのが好きじゃなくて、中煎り、やや浅煎りのコーヒーもできる限り酸味を出さないような焙煎を心がけています。それは、シングルオリジンの浅煎りが流行った数年前も、変えることはありませんでしたね」

■ずっと、いつものコーヒーでありたい
「特別な一杯よりも、いつもの珈琲を心を込めて」をモットーに掲げることもあり、できるだけ手頃な価格を維持することも大切に考えている白石さん。そのために、スペシャルティコーヒーに固執せず、ブレンドにはややグレードが落ちるコモディティコーヒーも一部使う。コモディティコーヒーはスペシャルティコーヒーと比べると欠点豆が多い。そのために、「cafe MARUGO」ではハンドピックを徹底している。焙煎前後に行うのはもちろん、コーヒーを抽出する前、豆を販売する前も気になる豆があれば取り除くなど、できる限り雑味の要因を排除する。

ただ白石さんは「昨今の物価上昇のあおりを受け、コモディティコーヒーでさえ仕入れ値が数年前の倍になっているんです。今まで100グラム560円〜販売できていたのですが、今年10月からブレンドを100グラム680円にしました。これが本当に心苦しいんです。生豆の仕入れ値を下げられるようなら、できるだけ手頃にお客様にご提供したいというのが本音」と話す。

その表情から見て取れるのは、値上げは苦渋の決断だったということ。ただ、「常連のお客様から、『まったく問題ないですよ』、『MARUGOさんが長く続いてくれることが大切』といった言葉をいただき、感謝しかありません」と続ける白石さん。こんなエピソードに感じるのは、同店が常に客想いの姿勢で店を営んできたということだ。

■自分がいなくなっても地域に根付く店に
白石さんが42歳と遅めの開業だったこともあり、後進の育成にも力を入れる。以前は薬院店で白石さん自身が焙煎を行っていたが、今は2019年11月にオープンした向野店に焙煎所を移し、向野店の店長に焙煎を任せている。

「この12年、店を営む中で私が学んだことは、すべて若い世代に伝えていきたいと思っています。昔は“見て盗め”といった職人気質の教えが当たり前でしたが、これからはそうではなく、私たち世代の人間が積極的に若い人たちに自身が持っている技術や知識を伝えていかないといけないと私は考えています」と白石さん。だからだろう。白石さんの元で働くスタッフは、生き生きとし、厨房内の作業含めて接客も素晴らしい。

焙煎を信頼できるスタッフに引き継いだ白石さんは現在、ベーカリー時代に学んだ技術を活かし、パン作りを担当。毎朝、向野店でパンを焼いた後、薬院店で抽出や調理、接客をするのが白石さんの日常だ。薬院店では平日はイギリス食パンを販売し、土日祝はヴァイツェンもしくはフォカッチャをプラスし、計2種のパンが並ぶ。さらに、自家製スイーツも好評で、常連の中にはケーキや焼き菓子を目当てに訪れる人も多いそうだ。

最後に今後の展望を聞いてみた。「地域に根ざして、長く店を続けることです。私は今年で55歳。もし私がいなくなっても、スタッフたちがMARUGOを受け継いでくれる。そんな店にできたらうれしいです」と白石さんは話してくれた。

■白石さんレコメンドのコーヒーショップは「HARU COFFEE」
「清川にある『HARU COFFEE』さんは、当店の深煎りを気に入っていただき、店で使ってくださっています。オーナーの吉浦さんは、初めてお会いした時から、柔らかい印象の人。絵を描くのがお上手で、独特な世界観を持たれています。店を開くにあたり、コーヒー豆選びにはこだわっておられたみたいですね。当店のスタッフも、ちょこちょこ『HARU COFFEE』さんに行っているそうです」(白石さん)

【cafe MARUGOのコーヒーデータ】
●焙煎機/ラッキーコーヒーマシン直火式4キロ
●抽出/ネルドリップ(HARIO V60)
●焙煎度合い/やや浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム680円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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