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「ご当地ATM」って知ってる?石川県から沖縄県まで8府県に設置された“方言を喋るATM”の秘密に迫る

  • 2022年7月2日
  • Walkerplus

銀行やコンビニに設置されているATMを使うときに流れてくる自動案内音声。「いらっしゃいませ!」等の声が流れることが多いが、特に気にせず聞き流していることがほとんど。

しかしどこのATMを使えど音声は同じかと思いきや、一部の地域ではその土地に合わせた「方言」が流れることをご存知だろうか。ファミリーマート等を中心に全国1万2000台以上設置されている「イーネットATM」は、実は「ご当地ATM」として活躍している。

現在、このご当地ATMとなっているのは石川県、三重県、京都府、高知県、愛媛県、福岡県、宮崎県、沖縄県の全8府県。非常に限られた地域のみに設置されているため、知らない人も多いかもしれない。さらに言うと、その地域に住んでいる人ですら聞き流していて気づいていない可能性も。しかし観光地として人気の京都府や沖縄県などに置かれていることもあり、「旅行の際に実は耳にしていた」ということも大いにあり得る。

今回は、そんな知る人ぞ知るご当地ATMを運営している株式会社イーネット マーケティング戦略部 統括担当部長の石川寛さんにインタビュー。導入のきっかけや過程など、ご当地ATMの秘密に迫った。

■スタートは沖縄県!あの有名人が音声担当に
各地の方言で挨拶をしてくれるご当地ATM。このサービスは2012年に沖縄県からスタートし、沖縄県那覇市が進めるウチナーグチ(沖縄方言)の普及を図る「ハイサイ・ハイタイ運動」に協力したのがきっかけだったという。

「沖縄県と当社と提携している地域金融機関、当社との共同事業で始まりました。『ATMを使うことでその地域の方言を気軽に知って欲しい』という思いで設置を行っています。ですが、もともとはここまで大きな企画にする予定はなかったんですよ」

2014年に石垣島のファミリーマートに設置のATMでご当地言葉音声サービスを導入した際には、音声担当に元プロボクサーでタレントの具志堅用高さんを期間限定で起用したことも。「声を聞いて、具志堅さんだというのはすぐにわかりました。沖縄独特の方言と具志堅節がとても新鮮に聞こえました(笑)」と石川さん。(現在、具志堅さんの音声は終了)

その後、沖縄県以外にもご当地言葉音声サービスの導入を開始し、8府県までに拡大した。多いところでは1つの地域で6つの方言が収録されていて、これには普段から方言を喋っている地元の人も驚きを隠せないようだ。収録されている方言の一例は以下の通りである。

■「いらっしゃいませ」の音声一覧
【石川県】
・加賀・金沢「よ~きたね~」
・能登(七尾)「よ~おいでたね~」
【三重県】
・津市・四日市市・尾鷲市・紀北町等「よう来たなあ」
・名張市・伊賀市「ようおこし」
・熊野市・御浜町・紀宝町「よう来たの」
【京都府】
・山城地域「いつもおおきに」
・奥丹波地域「ようきてくれちゃったな~」
・口丹波地域「ようきてくれはったね」
・丹後地域「ようきとくんなったな~あ」
【高知県】
・全域「いらっしゃい ようきたね~」
【愛媛県】
・東予東部 (四国中央市)「よーきたなー」
・東予中西部 (新居浜市、西条市、今治市)「よーきたねー」
・中予 (松山市、東温市、松前町、伊予市)「よーおいでたなもし」
・南予北部 (内子町)「よーおいでたなー」
・南予中西部「よーきなはったなー」
・南予南部 (宇和島市)「よーきたなーし」
【福岡県】
・筑前「よーきんしゃったね」
・豊前「よーきたねー」
・筑後「よーこらっしゃったね」
【宮崎県】
・県北地区「ようきたね~」
・県央・県南地区「ようきやったな~」
・都城地区「ようきっくいやったな~」
【沖縄】
・沖縄本島「はいたーい めんそーれ」
・宮古地区「んみゃーち」
・石垣地区「おーりとーり」

どこかで聞いたことがある方言もあれば、「こんな方言だったのか」と衝撃的なものも。ついコンプリートしてしまいたくなるラインナップだ。

■数秒の音声にかける期間は半年以上!プロジェクトの裏側
ご当地言葉の音声が流れるのはほんの数秒。しかし導入されるまでの過程は大変で、企画から音声の収録、そして導入まで最低でも半年もの時間がかかるんだとか。

「まず自治体にこの取り組みを共同で実施することの交渉に2カ月ほどかかります。次に1番肝心な『方言』についてですが、これが予想以上に大変なんです。まず地域の言語学を専門にしている大学の教授や、そのほか有識者を招いて方言の検証を行っていくのですが、議論になってなかなか決まらないんです(笑)」

収録する声については、具志堅さんの例を除いて基本的に地域ごとの銀行員が担当。しかし収録に至るまでにも人選をはじめとした細かな手順を踏まなければならず、この過程だけで1カ月ほどかかってしまう。

「ほんの数秒のなかに音声を収録しないといけないので、適した言葉を選ぶのにも苦労しました。収録も、多い時には20回くらい録り直すこともありましたね。音声の最終チェックでOKが出た時は、正直ホッとしました」

設置された8府県のそれぞれの方言を研究し、録音していくのはどの地域でも苦戦する作業だそうだが、石川さんが担当したなかで特に苦労を重ねたのは京都府の音声録音だったという。

「『京都の方言はいわゆる舞妓さんが話すような言葉だろう』と思ったら意外にそうでもなくて、さまざまな挨拶やニュアンスがあることに驚きました。京都は特に昔ながらの文化が色濃く残っている地域なので、収録した音声を地域の人々に納得していただくまでにも苦労しましたね。さらに方言が使われている地域の境を間違えてしまうとその地域の人々が違和感を感じてしまうこともあり、慎重に判断しなければいけませんでした。細かなことにこだわった分、自分が担当したエリアにご当地言葉音声サービスが導入されたときの達成感は格別です!」

リリース時はご当地音声導入の告知を兼ねた記者会見を行うが、新聞社やテレビ局への連絡、さらに地域によっては知事を招待するところもあるそうで、スケジュールの調整や会見のデモンストレーションなどで多忙を極めたんだとか。普段聞き流してしまっているご当地ATMの音声だが、実は地域をあげての一大事業だったのだ。

■次はあなたの街にも?ご当地ATMのこれから
そんなご当地ATMだが、2018年の石垣島※・宮古島を最後に導入されておらず、再開については現在検討中だという。
※石垣島は2014年に期間限定でご当地言葉音声サービスを導入、その後2018年に再開。

「ただ、お客様からは『ほっこりしました』『心温まる』などうれしいお声をいただいておりますので、機会があればぜひ再開したいですね」

おでかけや旅行の規制が緩和されつつある現在、もしかしたら8府県以外にご当地ATMが導入される日もそう遠くないのかもしれない。8府県に出向く際は、ぜひATMの音声に耳を傾けてみてはいかがだろうか。ほんの数秒の音声でもその土地の情緒が感じられ、おでかけがさらに思い出深いものになること間違いなしだ。

取材・文=西脇章太

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