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2年ぶりに開催した「コミケ」の舞台裏 苦境の関連産業とクリエイターを救った“秘策”

  • 2022年4月16日
  • Walkerplus

昨年末、東京ビッグサイトにて2年ぶりの開催となった同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」。「ようやく」「うれしい」といった声がある一方で、「なぜ今?」「コロナ禍でそこまでしてやるのか?」「感染拡大するのでは?」といった声があったのも事実。そんな、“議論の的”となったコミケ開催に向けて尽力したのが参議院議員・藤末健三氏だ。

「第6波が来たとしても開催できる」「世の中に明るい話を提供したい」という2つの原動力をもとに、さまざまな支援や策を講じた藤末氏が、コミケ開催のために“乗り越えた壁”とは。

■ニャロメが歌う「やりたいことをやれ、言いたいことを言え」が指針

――藤末議員の同人サークル「ふじすえ本人!」では、自身の活動や政策を漫画・文章で紹介する同人誌を発行し、コミックマーケットを初めとする全国の同人誌即売会に出展しています。同人誌の冒頭に「漫画大好き」とありますが、その“原体験”を教えてください。

【藤末健三】小学生で骨折して入院したときに、祖母が買ってくれた漫画雑誌を愛読するようになって、貸本屋に通うようになりました。その後も、中学時代の同級生に「ズンヤ君」という子がいて、彼の家にある漫画をむさぼるように読んでいた記憶があります。

――藤末議員の人生に、漫画やアニメはどのような影響を与えましたか?
  
【藤末健三】私が好きになった作品は、『キャンディ・キャンディ』から『スラムダンク』までさまざまですが、どの作品もアメリカ留学時代の私を楽しませ、勇気づけてくれました。『もーれつア太郎』に出てくるニャロメの歌に「やりたいことをやれ、いいたいことを言え」というメッセージがあって、私の心に深く刻まれています。

――そんな漫画好きでもある藤末議員が「コミケ」に参加したり、ゲーム条例との闘いをはじめた経緯を教えてください。

【藤末健三】2019年冬のコミケ街宣(街頭宣伝)をきっかけに、「漫画・アニメ・ゲームの表現の自由」を求める運動をされている方々と接点ができました。その方々からの要望に応え、自分ができることを実行していくことで、ゲーム条例との闘いに繋がりました。その実績を同人誌で発表してはどうか?というアイデアもいただきました。

私の同人サークル「ふじすえ本人!」では、“コロナ禍によって危機に瀕する同人誌業界を助けてほしい”という声に応じて、私が現場の声を丹念に聞いて回り、行政を動かして同人誌業界を救うために活動した記録とその資料となっています。

■同人誌を支える周辺企業を抜きにして「コミケは語れない」

――昨年末、コミケが2年ぶりに開催しました。藤末議員にとってコミケの存在とは?

【藤末健三】コミケについては、私はあくまで後から実情を知った立場ではありますが、その価値の高さを思い知らされました。コミケは日本特有の文化ですが、漫画を描くクリエイターたちの人口は世界的に見ても圧倒的です。つまり、“日本の創作文化の大きな裾野の役割”を果たしているわけです。

また、その文化を支えている同人誌印刷企業でいうと、少ない部数の同人誌に対しても、キメ細かく、早いタイミングで印刷できるシステムは海外には例がなく、同人誌を支える周辺企業の存在を抜きにしてコミケは語れないと感じました。

――コロナ禍により、コミケに携わる周辺産業や関連企業が大きな打撃を受けたと聞きました。

【藤末健三】コロナ禍で、同人誌印刷企業も売り上げが2~3割に落ち込み大損害を受けましたが、政府からの補填や支援がまったくない状況でした。そこで、この問題を国会で議論することにより、文化庁の『ARTS for the future!事業』(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)という文化芸術支援に、同人誌即売会を特別な支援枠として入れてもらいました。

さらに、別の問題として「個人のクリエイターへの支援がない!」という新しい問題も生まれましたので、「ARTS for the future! 2」という支援枠も進んでいるところです。昨年、個人を対象とした文化芸術活動の継続支援事業という支援もありましたが、こちらは応募が非常に多かったために対応できず、廃止してしまったのですが、個人のクリエイターに対する支援が今こうして求められていることも現状の1つです。

■守りたかったのは、同人誌即売会という“生きた場”が生み出す創作文化

――日本が誇るコミケの役割とは、どんなものでしょうか?

【藤末健三】コミケは漫画文化の大きな裾野の役割を果たしており、これ無くして“高みの作品”の質は担保されないと思っています。同人誌即売会という“生きた場”から次々と有能なクリエイターが生まれ、関連産業への波及効果も大きく、コミケは日本の創作文化を支える産業として唯一無二の存在だと思います。

――この2年、関連企業からはどのような声がありましたか?

【藤末健三】印刷事業者の方々にコミケがないことで受けた損害についてお聞きすると、どの方も“創作文化の担い手”であることに対する強い自負も持っておられ、損害もさることながら、「同人文化にとっての“生きた場”を守ってほしい」という痛切な声をいくつもいただきました。もちろん、コミックマーケットでの需要は大変大きいので、今回のコミケの開催がなければ「ウチは潰れていた…」という企業の声もありました。

――では今回のコミケを開催するにあたって「最大の壁」となったのはどんな点でしょうか?
  
【藤末健三】コロナ感染症は昨年12月の時点で、第6波の直前でした。主催側としてはいつコロナが来るかわからない不安のなかで、中止の可能性、多額の会場キャンセル費によるリスクを負いながら、多くの出展者やボランティアを巻き込んで、即売会を開催するという決定を下すことが難しかったと思います。

■ヒントは野球&サッカー?コロナ禍でもコミケを開催するための「秘策」

――その「壁」をどのようにして突破されたのでしょうか?
  
【藤末健三】コミケは業界全体のフラッグシップなんです。なので、「3回目が中止になって、4回目も…」となると同人誌即売会の存在自体も「大丈夫なのか?」といった状況になりかねないので「ぜひ冬はやらせてくれ!」という話で進めてきました。それが結実したのが、昨年の8月19日に東京都、政府、コミケを含む主だった同人誌即売会主催者が一同堂に会した「ラウンドテーブル」でした。

ここでは、コミケ主催者と政府のコロナ対策室、ビッグサイトの方などが直接コミュニケーションを取り、コロナ対策室がコミケを「感染症対策の技術実証実験」と位置づけたことで、“コロナの状況にかかわらずコミケを必ず開催できる”という見通しが立ち、コミケの開催が確実なものとなりました。

――「感染症対策の技術実証実験」というのは?

【藤末健三】この「技術実証実験」は、サッカーや野球などのスポーツ観戦を「テスト的に開催する」という位置付けで開催してきました。その経緯から、コミケもコロナ対策を徹底的に行う「技術実証試験」という側面から、「もし、第6波がきたとしてもコミケを開催できる状態」にありました。ここが大きなポイントだったと考えています。また、こうした状況下での開催に対しては、国民の皆さんのストレスが溜まっているなかで、明るい話を提案していきたいという気持ちも原動力の1つになりました。

■コミケが「技術実証実験」のサンプル例として寄与

――コミケは数万人規模の人流があります。コロナ対策を万全にしたうえでこの規模のイベントを開催したとすれば、この結果は“貴重なサンプル”として「コロナ対策」に役立つわけですね。

【藤末健三】はい。政府へは、「コミックマーケット」は若い層が集まる場所でもあるので、社会を明るい兆しに持っていくのに適している、と働きかけ続けました。そして何より、2年ぶりのコミケ開催への大きなキーになったのが「技術実証実験」です。開催例としては、スタジアム(スポーツ観戦)、コンサートなどでの実証例はありましたが、いずれも、一定数のお客様が想定できる範囲でのガイドラインでした。

今回挑戦したコミケに関しては、東京ビッグサイトという大きな箱に加えて、断続的に多くの人たちが入れ替わる特性を持っていました。政府のコロナ対策室でも今までに例がないイベント開催は「技術実証実験」の新しいサンプル例にもなるということで、開催の許可が下りたわけです。現在、そうした成果を集計中ですが、「コミケ」による「技術実証実験」を経て、新しいガイドラインが生まれることは明白です。

――2年ぶりとなったコミケ開催をご覧になって、率直な感想を教えてください。
  
【藤末健三】関係するさまざまな参加者、事業者の方々からの喜びの声を聞くことができ感無量でしたが、新しい課題も発見したところです。インテックス大阪(大阪市)やポートメッセなごや(名古屋市)などは、減免措置として使用料が半額となっています。しかしながら、東京ビッグサイトの会場費は据え置きのままなので、東京が会場費を半額にした場合に国の地方創生交付金で補助できるか?という議題を論じており、昨今、予算委員会にて手応えを感じつつ実現に向けて動いているところです。

■日本開催の「eスポーツの国際大会」を目指していく!

――最後に、「漫画・アニメ・ゲーム」関連で藤末議員が取り組んでいる直近の課題について教えてください。

【藤末健三】ゲームといえば、eスポーツの国際大会を日本で開催したいという計画も進んでいます。また、文化庁の支援制度である「ATRS for the future!」や経産省のイベント支援策であるJ-LODが同人誌即売会やコンテンツ展示・上演イベントに適用できるよう、私の方から働きかけ、これらがもっとよいものになるよう、関係各部署と話し合っています。
  
そして、創作文化の裾野を支えている多くのクリエイターの方々の経済状況についても重視しています。彼らの多くはフリーランスであり、雇用者の保護政策と中小企業の保護政策のすき間で、きちんとした保護を受けられていません。こぼれ落ちる人を少なくするよう、フリーランスの保護法制を設けることを目指しています!

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