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尾上松也の初主演映画「すくってごらん」インタビュー!「金魚すくいのコツって人生にも重なる」

  • 2021年3月17日
  • Walkerplus

演劇ライター・はーこが不定期で配信するWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.88をお届け!

最近、目が離せなくなってきた歌舞伎俳優たち。いまや歌舞伎はもちろん、テレビドラマに映画にバラエティ番組にと、ジャンルを超えて活躍中だ。今回は、大谷紀子の金魚すくいマンガを実写映画化した「すくってごらん」で、映画に初主演する尾上松也に注目を。昨年のドラマ「半沢直樹」で印象を残したIT社長から、今度はなんと金魚すくいにハマる左遷されたエリート銀行マンの役だ。

映画はミュージカル・コメディのようで、映像もフツーじゃない。ポップスやロック、ラップなど、多彩な音楽に歌とダンスが盛り込まれ、アートアクアリウムのような幻想美が際立つ、和テイストなポップアート的世界観。リアルとファンタジーが混然一体となって繰り広げられる物語は、金魚すくいを軸に、笑いあり、恋あり、ヒューマンドラマあり。恋をすくい、心をすくい、人生をすくう…金魚すくいの奥に、深いテーマが広がる。フツーの漫画原作映画にはしないぜ、という真壁幸紀監督の心意気を感じる作品だ。

2月に尾上松也が来阪、初主演作への思いをたっぷりと語った。ネタバレ注意で紹介する。

■あらすじ
東京から片田舎の支店へ左遷された大手メガバンクのエリート銀行員・香芝誠(尾上松也)。絶望的気分のなか、金魚すくいの店を営む浴衣の美女・生駒吉乃(百田夏菜子)と出会い、心惹かれる。持ち前のネガティブ思考で心を閉ざし、仕事に打ち込もうとするが恋心が止まらない。一方、女優の夢破れて地元のカフェで働く山添明日香(石田ニコル)からはひと目ぼれされる香芝。追えば逃げる金魚のような吉乃は、謎の金魚売り・王寺昇(柿澤勇人)への想いと、ある秘密を抱えていて…。

■関西的裏話
関西で金魚と言えば奈良県大和郡山市が有名。原作で香芝が左遷されるのは大和郡山市支店だ。映画は奈良県で2018年7月に撮影。キャラクターの名前も、香芝、生駒、王寺、山添はすべて奈良の地名から。

■やってみたかった映画
ドラマなどテレビ出演は多いが、意外と映画の出演作が少ない松也。年間に約1カ月の歌舞伎公演を何本も抱えるなか、数カ月拘束される映画撮影は難しい。「僕はずっと映画出演したいと思っていたのですが、映画は東京以外のところで撮影することのほうが多いですし、タイミングがなかなか合わなくて。例えばドラマで1話のゲストなどでしたら、東京にさえいればなんとかできるのですが。今回は1カ月間、奈良でギュッと詰めて撮影していただいたので、出演することができてよかったです」(松也)

■出演を決めた理由
「僕が今回の作品に出演させていただきたいと思ったのは、『すくってごらん』という原作がきちんとありながら、そこにわざわざややこしい要素を取り入れて挑戦しようという制作陣のチャレンジ精神に一番惹かれました。自分も歌舞伎の自主公演など、いろいろなことにチャレンジしてきたつもりでしたので、そういうスタンスでいる方々が好きなんです。今回もそうですが、『一緒にチャレンジしませんか』とおっしゃっていただくと、ついつい挑戦したくなるという(笑)」(松也)

松也は歌舞伎の本公演以外にも2009年から歌舞伎自主公演「挑む」を年1回開催し、オリジナル公演「百傾繚乱」を上演。2019年には山崎育三郎、城田優とプロジェクト「IMY(アイマイ)」を結成、活動をスタートさせている。

■松也、歌う
松也がミュージカルの関西公演に出演したのは、蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」(2012年)とミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013年)。「ロミジュリ」の東京公演ではロミオ役に、トリプルキャストで柿澤勇人も出演していた。ミュージカル「エリザベート」では2015年にルキーニ役で帝国劇場に出演し、昨年大阪公演の予定だったが惜しくもコロナ禍で中止に。「IMY(アイマイ)」の舞台は東京だけなので、関西ではしばらく松也の生の歌声を聴けていない。「すくってごらん」の伸びやかな歌声を楽しみにしてほしいが…ミュージカルファンはずっこけるかも。

「ミュージカルにも出演させていただいていることから、音楽性の強い作品に出演してみたいという願望がもともとあり、そんななかで今回のお話をいただきました。ですが、普通では考えられないようなところで『歌に入るの?』みたいな。『ここでいくんかいっ!』みたいな連続だったのが僕にとってはすごく刺激的でした。そういうやり方もあるんだと。概念にとらわれず、タブーのようなやり方を逆手にとって見せる。それを成立させるためにどうするかを考える。その精神が僕はチャレンジングだなと思いました」(松也)

今、ここで歌うんかい!と、ずっこけながら何度ツッコんだことか(笑)。ラップではタブーらしいが、歌詞が文字になってスクリーンに流れたり。意図的に狙ったでしょ、と思える挑戦は映像美とともに刺激的でおもしろい。

■歌える共演者たち
ミュージカル映画とは銘打っていない。が、ラップまで歌う松也をはじめ、映画初ヒロインでピアノに初挑戦したももいろクローバーZのリーダー・百田夏菜子、歌もダンスもピアノも披露するミュージカルや舞台でおなじみの柿澤勇人、弾き語りを聴かせる石田ニコルら全員がちゃんと歌える。最近は、芝居はできるが歌はイマイチという人でもミュージカルに出て「勘弁してよ~」と思うこともあるだけに、今作の歌のレベルは◎。全員がうまいのでチャレンジングな作り方が成立するんだね。

■役作りについて
香芝誠はストレスがたまりすぎて、自分が心の中で思ってる本音を知らない間に口に出してしまう(想いを歌ってしまう)という、ほぼビョーキなエリートで…。

「映画の核は金魚すくいでもあると思いますが、それを通じて香芝がどう成長していくかが、ひとつの大きな芯になってきます。左遷されてきたときの香芝は、根性の曲がっている、偏見に満ちた、時代にそぐわないような男なのですが、その変化を最終的に最後の曲の中でエンディングに向けて落とし込んで行くか。そこを監督と一緒に相談しながら撮影していきました」(松也)

■金魚すくいのこと
香芝は百田演じる生駒吉乃から、金魚すくいのやり方を教えてもらう。ポイントは追いかけずに待つこと。ポイに金魚がのったところですくいあげ、ボウルに入れるのだそう。金魚すくいの奥義、学べる映画です。

「金魚すくいのシーンもたくさんあるので、達人にコツや極意をいろいろと教えていただきました。僕らが縁日でやっているような金魚すくいのイメージとは、感覚がもう全然違う。金魚を追いかけても、本当にすくえなくて。でも達人は、確かに追いかけていないんですよ。金魚が乗って来たらポイポイポイポイと。“待つ”ということ、“追いかけない”ということ、そして“(ポイが)破れても終わりではない”ということ。これって、人生にも重なるようなことなんですよね」(松也)

■テーマについて
「例えば“待つ”のか“追う”のかだけで、結果がかなり変わってくる。感覚も全然違って見方も変わったりする。人や物事に対して、大きい小さいは別としても、それぞれの人が自分の中の価値観で、もう決めていることってたくさんあるじゃないですか。そして、それに気づかないことのほうが多い。香芝の場合は、例えば王寺に対して印象と言葉遣いだけで、こいつマジで嫌いだって決めつける。ですが、ものの見方を変えれば王寺への見方も変わり、最終的に彼を受け入れるようになる。そういう、プラスの一歩が人の幅をすごく広げるなということをすごく感じて。僕も今までそういうことは意識してきたつもりでしたが、なかなかできていないので、これってすごく大切なことなんだなあと改めて思いました。今こんなときだからこそ、誰もが踏み出さなくてはいけないことが多いと思います。ですのでより一層、勇気を持ってやってみることの大切さを感じました」(松也)

■一歩踏み出すこと
「香芝はとても偏見があり、田舎の方に対する変な優越感を持ってる。彼のような凝り固まった考えのある人が、踏み出したことのない何かに踏み出すというのは大変だと思います。僕も凝り固まりがちなので、その気持ちはすごくよくわかるんですよね。普段の僕はとても人見知りで、人とのコミュニケーションがあまりうまくできない。『アイツ苦手だな』って思うと、一切遮断してしまうほうでした。ですがそこを自ら一歩踏み出すことで、人生と人間性が広がって、得るものも違ってくる。凝り固まった自分のルールの中だけで生きているとどうしても、狭い世界で生きていくことになるので、これからの時代は特にそういう概念をどんどん取り払っていかないと、時代と環境に追いついていけないだろうなととても感じました」(松也)

■挑戦して失敗して成長して
「僕が歌舞伎自主公演『挑む』を始めた当時に自主公演をされていたのは、今の猿之助さんが亀次郎時代に始めた“亀次郎の会”だけでした。僕はそこに刺激をいただき、始めました。当時はお金もないですし、気持ちだけで『とにかくやろう』と動き出したところがありまして。自主公演さえやらなければ起きなかったトラブルなどが、もう山のように起こりました。そのときは本当に落ち込んで、やらなければ良かったのかなと思ったのですが、結局それが何年か経ったときに、あの経験がなかったらたぶんこれは失敗してただろうなということが、逆に山ほど出てきました。チャレンジをして、失敗して恥をかいたことのほうが、結局頭の中に残っている。褒められた記憶って、そのときはうれしいのですが満足感だけで終わってしまうことが多く、あまり具体的には覚えていないですね。なので、失敗から得られる経験値というのはとても大きいと思います」(松也)

取材・文=高橋晴代

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