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食品サンプル会社に聞いたヒット作と苦労。チャーハンが掃除道具のケースに

  • 2020年10月31日
  • Walkerplus

1973(昭和48)年の創業以来、関西の食品サンプル界を牽引してきた「森野サンプル」。飲食店の店先に飾られる料理のサンプルはもちろん、野菜などの素材や、食品サンプルが付いたアクセサリーや雑貨など幅広く製造するほか、製作体験や工場見学も実施している。

誰もが一度は目にしたことのある食品サンプルは、その細やかな技術やミニチュアフードのようなかわいらしさに魅了される人も多いはず。50年近い歴史のなかで、特に印象に残るアイテムや苦労した点を代表取締役の森野文男さんに聞いた。

■食品サンプルの生みの親と親しい先代が起業

先代である森野さんの父・森野留吉さんは、食品サンプル生産量日本一の岐阜県郡上八幡市出身。同郷であり、食品サンプルの生みの親と呼ばれる食品模型岩崎製作所の岩崎瀧三氏の下で、食品模型の業界発展の一因を担ったという経歴を持つ。

「父が創業した昭和48年から、材料は変わりましたが、作り方はほとんど変わっていません」と森野さん。本物から型をとって成型、着色する過程は昔ながらだという。また、一つずつ手作業で仕上げるのも変わっていない。

「素材は少し変わりました。昔は寒天を使っていた型がシリコンになり、素材となる蝋がビニール(樹脂)中心になっただけ」と森野さんは話す。そこから何重にもエアブラシで色を重ね、質感を再現すれば、本物と見紛うほどの食品サンプルが完成する。

■野菜やドッグフードも!料理以外にも多彩なサンプルを製作

料理のサンプルのほか、役場などで名産品として展示するため、ブドウやホウレンソウ、メロンといった食材を受注生産することも多い。「旬の時期が限られているもののサンプル製作依頼はよくあります。また、収穫時期の目安にするため山椒の枝や実を作ったこともあります。太い枝や細い枝をバラバラにして、一つずつ型を作って着色しました」と森野さん。

ほか、香水や口紅といった化粧品、病院で使われる血尿スケールまで、食品だけにとどまらず、さまざまなサンプルを手がけている。森野さん曰く、「建築みたいにきっちりとするのは苦手だけど、質感を出すのは得意なのがサンプルのよさ」。目で見てわかりやすく伝えるサンプルは、あらゆる場面で活用されるそうだ。

■お客さんとのイメージを共有することが難しい

「オーダーを受けて難しいと感じることはしょっちゅうです」と森野さん。何よりも苦労するのは、発注する人のイメージを再現することだという。「たとえば、おいしそうと感じるイチゴは人によって違う。だから、我々がいいと思って作ったものや、10人中9人がおいしそうと思うものでも、お客さんのイメージと違えば作り直しになります。いかに聞き取ってイメージを再現するかが大事です」と話す。

もう一つ大変なのは、すべてイチから作ることだという。「料理を作ろうと思ったら食材はスーパーに行ったら売っているけど、サンプルはレタスなどの野菜から作らないといけない。すべて型をとって組み合わせていくので、使うものが多いほど手間がかかります」。

印象に残っているのは、韓流アイドルのイベントで配られたチョコを残したい、ということで受けた依頼。チョコにデコペンでサインが書かれたもので、サインのなかでも細い部分の再現が難しかったという。

「途中でビニールが切れてしまうので、何度も作り直しました」という甲斐あって、ファンの間で評判が広まり、約900枚も作ったそう。「せっかくのグッズも、チョコだと食べたらなくなってしまうので、食品サンプルならではの活用法ですね」と話してくれた。

■「こういうものがあったらいいな」が新たな作品の誕生に

もともと受注でサンプルを作っていたが、12~3年前からは製作体験の実施と合わせて、店頭でも商品を販売している。

「オーダー以外の作品は、社員が集まって『こういうのがあったらいいな』と話し合って形にしていきます。食品サンプルが付いたマグネットやヘアゴムは定番ですが、最近だとiPhoneケースやUSBメモリもできましたね」と、日々のアイデアから新作が生まれるそう。

八宝菜と酢豚に覆われたフローリングワイパーケースは、たまたま買ってきた掃除用具で作ったもの。「なんとなく作ってみた一点物だったんですが、すぐに売れましたね」と森野さんは笑う。エビ入りのチャーハンが貼り付けられた粘着カーペットクリーナーのケースと共に、現在は受注製作している。

■実用性の高い新商品や海外への展開も

現在は、バッグ作家とコラボした商品なども考案中。丸いお皿に食品サンプルをのせたものをポーチやバッグにして、手に取りやすいサイズ感と価格帯で販売する予定だという。

「オーダーメイド以外の食品サンプルは、あくまでも嗜好品。ヘアゴムや雑貨には付いていなくてもいいものですから。それでも買ってくれる食品サンプル好きな人たちに喜んでもらえるよう、ご意見を聞きながら作品を作っていきたいです」と森野さん。

海外へもさらに積極的に展開していきたいという。「海外でも食品サンプルが広がっていける市場はあるので、これからは販路も開拓していければ」と話した。

取材・文=上田芽依(エフィール)

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