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"ハンコ廃止"に立ち向かうのは消しゴムハンコ?京都「森田印房」の試み

  • 2020年11月11日
  • Walkerplus

日本人の生活に根付いたハンコ文化。自分自身を証明するものとして長年使用されてきたハンコだが、近ごろは廃止の動きもある。契約などの大切な場面では、ハンコは高い信頼性を誇っているが、テレワークの推奨により使用する頻度が減ったことは明確だ。

とはいえ、まだまだ必要なときもあるハンコ。街にあるハンコ専門店は実印や銀行印を作るとき、あるいは会社の事務に必要なゴム印を買う時ぐらいしか利用したことのない人がほとんどだろう。しかし、印鑑作りは非常に精緻で高度な技術が求められるものなのだ。

それを知ってもらいたいと、身近な素材の消しゴムやラバースタンプでハンコ(以下総称して消しゴムハンコ)を作り、SNSで公開しているのが京都市の「森田印房」。まるでアート作品のような消しゴムハンコのことと、ハンコの未来について、森田印房の印章彫刻技能士の森田恵子さんに話を聞いた。

■出発点は集客用の看板商品

森田印房が消しゴムハンコを作り始めたのは、2012年ごろ。森田さんは当時を振り返り、「ハンコ専門店というと、『印鑑が必要になった時に行くお店』という感じで利用されている方がほとんどだと思いますが、せっかくのすばらしい技術をたくさんの人に知ってもらいたいなと。気軽に店にお越しいただけることを目指しています」と、集客用の看板商品として始めたのが消しゴムハンコだったという。

当時は手作り市やアートマーケットが流行し始めたころで、森田印房もそれらに出店し、訪れた人に興味を持ってもらえることが増えていったそう。

■アーティストと出会う中で消しゴムハンコへの意識が変化

手作り市に出店することで、さまざまなアーティストとも出会った森田さん。個性的で繊細で色使いも美しい作品に触れるたび、「消しゴムハンコも単なる看板商品ではなく、アートである」と考え、アーティストとして活動したいと考えるようになったという。

■かわいくて、ちょっとシュールでクスッと笑える消しゴムハンコ

SNSで公開している消しゴムハンコは、人形や本、ネコなどさまざまなものを題材に、カラフルな印影が「かわいい」と人気を博している。森田さん曰く、「弊社の作成する消しゴムハンコはキュートやラブリーというよりは、どこかシュールでクスッとくるものが多く、少し個性的なものをお求めの方に喜んでいただけます」とのこと。消しゴムハンコだけでなく、ハンコで模様をつけた手ぬぐいなども販売している。

■印章彫刻技能士直伝のワークショップも開催

販売されている消しゴムハンコを見て、「自分でも作ってみたい」という人も多いそう。そういう人のために、ワークショップも毎週開催している。そこでは基本的な消しゴムハンコの作り方を教えるほか、リピーターにはさらに細かいテクニックも伝授する。

参加者からは、「集中できる時間が楽しい」「自分でやってみてわからなかったので続けられなかったけど、コツを聞いて続けられそう」という声が出ている。ハンコ専門店直営のワークショップなので、その時に使ったインクや道具がすぐ購入できるのもメリットの一つだ。

■文化として残していきながら、ハンコを生活の楽しみに

最後に、「近ごろはハンコ廃止という動きもあるが、ハンコの可能性についての考えをお聞かせください」と、少し意地悪な質問を投げかけてみた。森田さんは「ハンコ廃止は法整備とともに、どのように変化していくのか様子をうかがいながら、『ハンコ専門店としての在り方』を考えているところです」と答えた。

森田印房のコンセプトは「普遍的なデザインを大切に、新しい表現も追及する」。平安時代から受け継がれてきた京印章は「普遍的なデザイン」。「長い歴史を持つ京印章を作成し続け、機能性はもちろん、文化として残していく道」を模索するとともに、消しゴムハンコで「暮らしや気持ちを豊かに」することを目指し、新しい表現を追求している。

「この2つに共通することは『デザイン力』なので、日々どちらも研鑽しています」と、森田さんは前向きな言葉でインタビューを締めくくった。

取材・文=鳴川和代

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