郵便局で販売される切手には、季節にあわせたデザインや限定デザインがある。現在は、夏の風物詩である全国各地の花火を集めたオリジナル フレーム切手「日本の花火2020」を発売中。そして、その写真を提供しているのがウォーカープラスの花火記事でもおなじみのハナビスト・冴木一馬氏だ。
今年は新型コロナウイルスの影響から、日本全国の花火大会が軒並み中止となり、サプライズ花火などが限定的に行われているものの、いつもの夏のように花火を見に行く機会はなくなった。そんな中で登場したのが、オリジナル フレーム切手「日本の花火2020」。この夏は帰省もままならず、会うことのできない家族や親せき、友人と手紙の切手を通して夏の花火の美しさを分かち合うことができる。
今回、切手に使われる写真を提供した冴木氏は、美しい日本の夏の風物詩、花火を追い続けるカメラマンで、花火師の資格も持つ。ワンシャッターとリアリティにこだわり、日本各地の花火を撮影し、花火に関する著書も多い。そんな冴木氏に花火に情熱を注ぐ理由を聞いた。
■紛争地では武器となる火薬が、花火になることで多くの人々を喜ばせている
――報道カメラマンから「ハナビスト」となった人生のターニングポイントとは？
「元々報道カメラマンでしたが、現場では、事故などで怪我をされた人や亡くなった方たちを撮影することもあり、気持ちが荒んでいた面もありました。そんなときに出会ったのが花火です。1987年に大阪・天神祭の撮影を頼まれ、そこで初めて花火を撮影しました。とても癒やされ、心に沁みるものがありこのような世界があることに気づかされました。海外の紛争地では武器となっている火薬が、花火になることで多くの人々を喜ばせるものになるのだと再認識したのです。そこから花火の世界に飛び込みました。花火を撮影するようになって、より花火の現場に理解するために97年には花火師の資格を取得。資格のために蓄えた知識も生かして花火に関する原稿も書いたり花火の歴史や文化の研究もはじめ、“花火写真家”から“ハナビスト”と名乗るようになりました」
――花火の持つ“癒やし”の力に魅せられたんですね。これまでの人生で、もっとも印象的な花火は？
「初めて見た世界一の四尺玉です。当時は新潟県の小千谷市で開催される「片貝まつり」で四尺玉を上げていて、音の大きさと地響き、玉が開いたときの大きさに驚きました。もう一つは、1997年～2004年まで7回にわたって横浜八景島シーパラダイスで開催された「スカイコンサート」を初めて見た時です。日本だけでなく、海外の花火師が花火の美しさを競い合う大会で、音楽に合わせてコンピューターで花火を打ち上げるのですが、海外のプログラムは群を抜いていると感じました」
――冴木さんは今もフィルムを使用し、「花火本来の色」にこだわっているそうですね。
「元、報道カメラマンなので『写真は真実を伝える』というのが基本姿勢です。そのため、現在では多重露光や合成が当たり前の中で、常にワンシャッターにこだわり、色も本物に近いものを表現するためにフィルムを使っています。最近では花火以外でもフィルムで撮る楽しさを感じます」
■花火大会の運営からもっと“学ぶ”必要があるのでは？
――コロナ禍で多くの花火大会が中止となり、多くの花火師が苦境に立たされています。花火業界の現状を打開する方法はありますか？
「もちろん収束が一番ですが、今後は花火の運営方法のあり方も検討しなくてはならないと思います。私は大阪観光大学学外研究員として観光学を研究していますが、日本人は毎年開催している花火大会からあまり学ぼうとしないのではないでしょうか」
――学ぼうとしていない、とは具体的にどのような部分でしょうか。
「例えば終わった後の最寄り駅までの混雑ですが、いくら回数を重ねても駅前はもちろん切符売り場は溢れんばかりの人混みです。これらの問題はまったく改善されません。また花火を打ち上げる目的、何のために誰のために行っているのかなど、主催者のコンセンサスが問われる時期になっているのではないでしょうか」
――今年は「花火のない夏」ですが、日本各地の花火大会を写真におさめてきた冴木さんが考える、花火が人の心に与える影響とは？
「哀しみは半分に、喜びを倍にしてくれる花火は最高のアイテムです」
