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神戸・王子動物園のパンダのタンタンお別れ。悲劇乗り越えた20年

  • 2020年8月11日
  • Walkerplus

神戸市立王子動物園で愛され続けているジャイアントパンダの「タンタン(旦旦)」。動物園イチの人気者が7月15日に貸与期限を迎え、中国へ返還されることが決定した。現在、新型コロナウイルス感染症の影響から返還の日程は確定しておらず、今もタンタンは同園で見られるが、飛行機の目処が付き次第、約1ヶ月の検疫期間を経て中国へ返還されるという。

今回は動物園を巣立つこととなったタンタンの歴史を振り返りつつ、獣医師資格も保有しているという飼育展示係長の谷口祥介さんと、飼育員の吉田憲一さんに、タンタンとの思い出について聞いてみた。

■タンタンと過ごした20年間

1995年に起こった阪神・淡路大震災で傷付いた子供たちを励まそうと、2000年7月に中国・四川省から神戸市立王子動物園へやってきたタンタン(メス・現在24歳)。

タンタンは今から20年前に、オスのジャイアントパンダ「コウコウ(興興)」と一緒に来日した。2頭のジャイアントパンダの登場で、動物園の来園者数は急増。当時、タンタンとコウコウの名前を公募したところ、なんと4634通もの応募があったそう。

また、パンダが描かれたラッピングバスやマンホール、「神戸パンダ音頭」という踊りまでもが登場し、タンタンとコウコウはあっという間に動物園のアイドルに。復興の途中にあった神戸だが、タンタンとコウコウが町の復興の一助となったと言っても過言ではないかもしれない。

■頭がいいタンタン、意外とマイペースな一面も!

いつも笹や竹をむしゃむしゃと頬張る姿がかわいいタンタン。実は、ジャイアントパンダは1日の内の約7〜8時間を食事に費やすと言われている。そのためタンタンを飼育するうえでも、担当者たちは特に食事に関して試行錯誤を重ねたそう。

「来園当初は中国にならって竹団子(トウモロコシ粉などを団子状にした栄養補助食)を作って与えていましたが、タンタンがお腹を壊すこともあり、竹を中心とした餌に切り替えました」と谷口さん。タンタン好みの竹を探すという苦労もあったとか。

ほかにも試行錯誤したというのが、中国から取り入れたという無麻酔下で健康状態を把握するトレーニング「ハズバンダリートレーニング」。リンゴをごほうびとして、竹の棒の先を鼻でタッチすることから始めたところ、頭のいいタンタンは覚えが早く、今では体温測定や聴診、採血など少しずつできることが増えたそう。「最近では、口腔内検査や血圧測定、エコー検査などの高度な診察にも取り組んでいます」と谷口さん。

2人にタンタンと過ごした日々の思い出についても聞いてみた。

「朝、出勤したら、寝室で檻越しに挨拶するのが好きです。タンタンが寝ている時は物音を立てないようにそっと近づくんですが、途中で気付かれて起きてこちらに寄ってきてくれるんです。鼻を檻にベターッとくっつけて、おねだりしてきて。好物のリンゴやニンジンをあげると満足そうにするのがかわいいですね」と吉田さん。

谷口さんは、タンタンの寝顔もかわいいと話す。

「タンタンは手足が短いので、背もたれなしで座るのが苦手で。寝ている時には前足で鼻を隠すことがあるんですが、その姿もかわいらしいんです」

また、食の好みがはっきりしているのか、せっかく用意された竹でも気にいらなければ見向きもしないというグルメな側面も。ほかにも、イベントで手の込んだ餌を用意されても来園者に背中を向けて食べるなど、マイペースなところもあるそう。そのような憎めない一面も愛されている理由なのかもしれない。

■タンタン、涙の悲劇

いつも愛くるしい姿を見せてくれるタンタンだが、実は人知れず辛い過去もあった。それは一緒に来日したコウコウが、2002年に繁殖能力の低さから中国へ帰国したことから始まる。

初代コウコウが中国へ帰った同年12月に、2代目コウコウが来日した。当初、タンタンとコウコウは交尾による繁殖を目指していたが、コウコウが寄り添おうとすると、タンタンは「ワン!」と吠えて拒絶。そのため自然交配が難しいと判断され、人工受精を行うことに。

その結果、2007・2008年の2回妊娠に成功したが、1度目は残念ながら死産という結果に。2度目はタンタンの頑張りもあり無事に出産できたのだが、なんと生後わずか4日で赤ちゃんは亡くなってしまった。「子を亡くしてからも、しばらく子供を探すような素振りがありましたね」と吉田さん。タンタンのショックも大きかったはずだ。

そして、タンタンにさらなる悲劇が。なんと、2010年にコウコウが亡くなってしまうのだ。タンタンに発情の予兆があったことで、コウコウを麻酔し精子の採取を試みたところ、麻酔からの覚醒中に心肺停止状態に。そのままコウコウはこの世を去ってしまった。

■神戸の町に広がる「#ありがとうタンタン」

妊娠、流産、出産、赤ちゃんやパートナーの死など、タンタンは辛い時期を乗り越え、今もなお動物園のアイドルとして来園者を喜ばせ続けてくれている。

そんなタンタンが、中国へ返還されるといニュースを受けて園内では特別企画展「ありがとうタンタン」を開催。タンタンの歴史を写真や貴重な資料で振り返るほか、多くの来園者がタンタンへの感謝を寄せ書きにつづっている。

ほかにも、三宮駅にある神戸花時計にはタンタンの姿が描かれていたり、大丸神戸店にはタンタンのバナーが飾られている。また、タンタンとコウコウが神戸にやってきた当時のように、町にはラッピングバスが走っている。

タンタンの中国返還について、吉田さんの心境を聞いてみた。

「毎日タンタンがいるのが当たり前なので、まだ中国へ帰るという実感が湧かないです。寂しいですが、タンタンは24歳で、人間でいうと60〜70歳ほど。高齢のパンダを飼育する環境が整ったところへ帰るので、タンタンもゆっくりと過ごせるだろうという安心感もあります。中国で長寿記録を目指して欲しいですね」

新型コロナウイルス感染症の影響で営業を自粛していた同園。6月に営業を再開してからは感染拡大防止のため、マスク着用や手指の消毒、非接触の検温はもちろんのこと、ジャイアントパンダの観覧制限も設けている。そのため、タンタンに会うには事前申し込み(抽選制)が必要に。それでもタンタンに別れを伝えたいと、申し込みが殺到しているという。

「普段から、全国各地の方からSNSにコメントをいただいたりと応援してもらっていますが、タンタンの返還が決まってからも愛情にあふれる応援メッセージやお手紙などもたくさんいただいています。タンタンが本当に多くの方に愛されているのだと実感していますね」と、谷口さん。

神戸の町がタンタンの姿で染まる光景からも、どれだけタンタンが多くの人に愛されていたのかが伝わる。愛らしさと強く生きる姿を届け続けてくれたタンタン。皆の「ありがとう」の声がタンタンに届き、中国でも幸せに過ごせることを願うばかりだ。

取材・文=左近智子(glass)

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