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沖縄文学史を新たな側面から著した「沖縄文学史の外延」

  • 2022年5月10日
  • 沖縄島ガール

沖縄文学の研究者・仲程昌徳氏の著書「沖縄文学史の外延」(ボーダーインク)が、このたび発売された。

仲程氏は、2009年3月に定年退職をした、琉球大学の法文学部文学科で教鞭をとった仲程昌徳氏。これまでも「沖縄文学の一〇〇年」(2018年)、「沖縄文学の魅力 沖縄の作家とその作品を読む」(2021年、いずれもボーダーインク)など、沖縄文学に関する著作も数多く出版している。

本書は3部構成。第一章は、沖縄県外で活躍していた近代沖縄の作家たちを紹介した「I 沖縄文学史の外延」、講演や講義録などをまとめた「II 報告・講演・講義録」、そして、明治・大正期にさまざまな文学誌に投稿をした作家たちの一覧「III 補遺篇」となっている。

第1章では、詩歌の収録を中心とした文芸誌「明星」を創刊した与謝野鉄幹とその妻・晶子が「遠い沖縄から出てきた者たちに十分にやさしかった」という裏話と共に「沖縄の表現者たちの表現にも、十分に注意を払っていた」と、鉄幹らの人間性が垣間見えるのも興味深い。

また、1922年に沖縄を旅した神奈川出身の詩人・佐藤惣之助が、彼の傑作の一つである「琉球諸島風物詩集」を著したことにも論及。仲程氏が「見事な一編」と評した「琉球娘仔歌」など数編を取り上げ、佐藤が旅をする中で沖縄の伝統や深層をしっかりと捉えていたことをつづっている。そして、佐藤が「琉球本来の土地が産んだ」詩人として評価した世禮国男(せれい・くにお)についても言及している。

その一方で、小説家、評論家の広津和郎の著書で、賛否両論を巻き起こした「さまよへる琉球人」、矢田弥八の南洋文学「群島(ばんさ・ばるう)試論」を取り上げ、時代に翻弄された沖縄のセンシティブな問題にも触れている。

第2章では、社会主義的な評論を多く掲げた日本の総合雑誌「改造」で沖縄出身者が働いており、その中の一人である詩人の山之口貘(やまのくち・ばく)が「臨時雇い」で「荷造りなどをしていた」というエピソード、敗戦後に京都帝国大学文学部文学科支那文学専攻に編入し、その輝かしい学歴にも関わらずわざわざ“地獄のような”炭鉱に入り、以降、そこでの体験や沖縄を生涯のテーマとして文学に昇華した上野英信の話などについて軽妙な語り口で論じているのも非常に興味深い。

第3章は、「赤い鳥」「解放」「スバル」「中央公論」「ホトトギス」「明星」など沖縄出身者が作品を投稿した県外の雑誌一覧、また、その中でも特に沖縄出身者の投稿が多かった「文章世界」「文庫」「スバル」「明星」に関しては、雑誌別の投稿者リストも記載している。

著者は「あとがき」で、「沖縄の近代文学は、沖縄を出て行った者たちからはじまり、沖縄を離れた場で花開いたようにみえる」と表現している。この論点から1冊にまとめるという、まさに仲程氏の視点の広さに驚かされる作品に仕上がっている。

「沖縄文学史の外延」
発売中 2,200円(税込) ボーダーインク

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