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大腸がんとも関連、不足がちなビタミンDを適切に補うには、研究

  • 2025年5月29日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

大腸がんとも関連、不足がちなビタミンDを適切に補うには、研究

 ビタミンDは健康に欠かせない栄養素だ。骨を強く保つだけでなく、筋肉や免疫機能の働きを助ける働きもある。にもかかわらず、ビタミンDの適切な摂取の量や方法に関しては、激しい議論が続いている。

 多くの人がビタミンDを十分に取っていないという点で研究者の意見は一致している。しかし、実際のところ「十分な」量とはどの程度か、どこからがビタミンD欠乏症とみなされるのか、(特に若くて健康な人にとって)サプリメントにどれほどの効果があるのかについては、さまざまな見解がある。

 ビタミンDの取り方についての助言もまた、矛盾に満ちている。ビタミンDの供給源として最も優れているのは日光だが、一般には、皮膚がんを予防するために肌は覆うべきだとされている。また、ビタミンDを豊富に含む食事をしなさいと言われても、そもそも大半の食品にはビタミンDがあまり含まれていない。

 そうした中、2025年4月に学術誌「Nutrients」に掲載された論文が、混乱に拍車をかけている。既存の科学文献をレビューした同論文は、ビタミンDには抗炎症作用と抗酸化作用があるため、ビタミンDの血中濃度を「最適な」レベルに保つことは、大腸がんの予防と、がんの経過の改善に「不可欠」だと書いている。この結果を受け、ビタミンDは大腸がんのリスクを下げると報じる記事がいくつも出た。

 だがこの研究は、大腸がんの予防や治療にビタミンDが効果的だと実際に証明したわけではない。事実、同論文に含まれているランダム化比較対照試験の中で、がん患者を対象としたものはごく一部であり、その多くは臨床的に有意な結果を示していなかった。

 上記のレビューや、その他多くの研究が示しているのはむしろ、ビタミンDそのものや、特定の病気の予防や治療におけるビタミンDの影響について、われわれの理解はまだあまり進んでいないという事実だ。

「ビタミンDは重要な役割を担っていますが、それはおそらく世間で言われているほど広いものではないと思われます」と語るのは、米ペンシルベニア大学医学部の医学教授で、内分泌を専門とするアン・カッポラ氏だ。「だからこそ、(ビタミンDを取るのに)何をしたり何を摂取したりすべきかや、ビタミンDがどれだけ重要かについての認識に、混乱が生じているのでしょう」

 ビタミンDについて知っておくべきこと、ビタミンDの健康効果、矛盾する助言をどのように受け止めるべきかについて、以下にまとめた。

ビタミンDの健康効果

 ビタミンDには、体が食事からカルシウムを吸収するのを助けて骨を丈夫に保ち、骨粗しょう症を予防する効果がある。ビタミンDはまた、より深刻な疾患である骨軟化症や、子どもの骨が弱くなったり脚が曲がったりするくる病を防いでくれる。

 加えて、ビタミンDは筋肉の動きや神経間の情報伝達、細菌やウイルスに対する免疫防御でも、重要な役割を果たしている。

 ビタミンDの投与が、一部のがん、2型糖尿病、認知障害、心血管疾患をはじめとする慢性疾患や自己免疫疾患、感染症のリスクを低下させることを示す研究は多い。

 一方、これらの研究を対象とした大規模なレビューでは、こうした効果の多くは決定的でない、または統計的に有意でないと判断されている。たとえば、2025年4月に医学誌「The Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載されたレビュー論文は、ビタミンDのサプリメントに呼吸器感染症を予防する効果はないと結論付けている。

次ページ:ビタミンD欠乏症のリスクがあるのは誰か

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は2014年と2021年に、一般の人々を対象としたビタミンD欠乏症のスクリーニング検査を支持する十分な根拠がないとして、これを推奨しないと発表した。また、2024年12月に公表された勧告案によると、同委員会は閉経後の女性と60歳以上の男性に対して、転倒や骨折を防ぐ目的でビタミンDサプリメントを摂取することを推奨しない方針だという。

「世の中には、これがいい、あれがいいという情報があふれており、何を優先すべきか、何が最も重要かを判断するのが難しくなっています」とカッポラ氏は言う。「サプリメントを飲むだけで済めば簡単なのですが、話はそれよりも複雑です」

ビタミンD欠乏症のリスクがあるのは誰か

 われわれの皮膚は日光を浴びればビタミンDを作れるが、米国人の約25%、ヨーロッパ人の約40%がビタミンD欠乏の基準に当てはまると推定されており、より日照時間の長い中東やアジア、オーストラリアでも同じように蔓延している(編注:厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、日本人の健診受診者の4割から8割弱がビタミンD欠乏に当てはまるというデータを取り上げている)。

 誰でもビタミンD欠乏症になる可能性はあるが、リスクをさらに高める特定の要因もある。

 年を重ねると、皮膚が薄くなるせいで日光を浴びてもビタミンDが作られにくくなる。白人を対象とした研究によれば、その生成量は10年ごとに13%ずつ減る。

 肌の色が暗い人は、ビタミンDの生成に不可欠な紫外線を吸収するメラニン色素の量が多いせいで、ビタミンDの生成量が少なくなると、米ヘンリーフォード・ヘルス病院の皮膚科医ヘンリー・リム氏は説明する。色の暗い肌は色の明るい肌に比べて、ビタミンDの生成効率が約90%低いという推定もある。

 ビタミンDは脂肪に蓄積されるため、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病などの脂肪の吸収を妨げる疾患や、胃バイパス手術などの体重を減らす手術は、ビタミンD不足を引き起こす可能性がある。

 同様に、肥満のある人は、体内の脂肪細胞に多くのビタミンDが蓄積され、血液中を循環する量が少なく、通常の2〜3倍のビタミンDが必要になると、カッポラ氏は述べている。肥満率は世界で上昇していることから、ビタミンD欠乏症も今後さらに増える可能性がある。

 ビタミンD欠乏のリスクがあるのはこのほか、妊娠中の人、母乳で育てられている乳児、日照時間の短い高緯度地域に住んでいる人、HIV(エイズウイルス)やてんかんの治療で特定の薬を服用している人などが挙げられる。体がビタミンDを活性型に変換するには、肝臓で始まり腎臓で終わる二段階のプロセスが必要であり、いずれかの臓器に重度の疾患がある人もまた、欠乏のリスクが高くなる。

 ビタミンD欠乏症は血液検査によって診断される。症状が現れないことが多いが、重度の場合には疲労感、骨の痛み、筋力低下を経験する人もいる。

太陽と食品からビタミンDを得るには

 地球の表面に届いて皮膚に浸透する紫外線は2種類ある。紫外線A波(UVA)は主にサンタン(肌を黒くする日焼け)や肌の老化の原因となり、紫外線B波(UVB)はサンバーン(炎症により肌を赤くする日焼け)やビタミンDの生成と関連している。UVAとUVBは、どちらも皮膚がんを引き起こす可能性がある。

 リム氏によると、肌の色が明るい人の場合、週3回、10〜20分の日光浴で、十分な量のビタミンDが得られるという。肌の色が暗い人は、同じ量のビタミンDを作るのに、その3〜5倍の時間が必要となる。

 ただし、これは一般的な目安であり、季節や時間帯、緯度などに大きく左右されると、リム氏は言う。

次ページ:日焼け止めはビタミンDの生成を妨げる?

 ビタミンDが最も活発に作られるのは、太陽が頭上にある午前10時から午後3時の間であることが、研究でわかっている。早朝や夕方、冬の間は太陽が低く、UVBがオゾン層を通過する距離が長くなり、その過程で多くが吸収されてしまう。

 雲、窓、そしてオゾンや二酸化窒素などの大気汚染物質もUVBを吸収する。そのため、皮膚に到達する紫外線が減り、ひいてはビタミンDの生成量も減少する。

 日焼け止めも長い間、ビタミンDの生成を妨げると考えられていたが、最近の研究では、大多数の人にとってその心配はないことがわかっている。

 とはいえ、ビタミンDの供給源を太陽に頼るのは予測不能で不安定な方法だ。また、皮膚がん予防への意識の高まりから、人々が屋内にとどまりがちになっている現在、十分な量を摂取できていないケースが増えていると、リム氏は言う。

 実際、米国皮膚科学会(AAD)は、成人はビタミンDの供給源として日光浴や日焼けマシンではなく、ビタミンDが「自然に豊富に含まれている」か添加されている食品をすすめている。この勧告はしかし、問題をはらんでいる。なぜなら、そうした食品は多くないからだ。

 ビタミンDを含む食品は非常に少ないと、登録栄養士のモニク・リチャード氏は言う。

 ビタミンDを自然に含む食品として最も優れているのは、サケ、マス、マグロ、サバなどの脂肪分の多い魚、魚の肝油、紫外線を浴びたキノコなどだ。このほか、卵黄、チーズ、レバーにも、多少は含まれている。

ビタミンDはどうやって取るべきか

 とはいえ、ビタミンDを取ること自体はさほど難しくない。

 大切なのは、適切な日光浴、ビタミンDが豊富な食事、自分にあったサプリメントをバランスよく組み合わせることだ。「適切な」日光浴には、日陰を活用すること、紫外線カット効果のある服を着ること、SPF30以上の日焼け止めを塗ることなどが含まれる。

 ビタミンDのサプリメントを摂取する場合には、過剰摂取にならないよう気をつけてほしい。取りすぎると、吐き気、筋力低下、混乱、嘔吐、脱水症状などを引き起こし、重症の場合には腎臓結石や腎不全、不整脈、さらには死に至ることもあると、米国立衛生研究所(NIH)は警告している。

 日光浴によってビタミンD中毒になることはない。なぜなら、ビタミンDを作る量を皮膚が制限するからだ。

 ビタミンDに意識を向けるのは悪いことではないが、すでにビタミンD欠乏症であることがわかっているのでない限り、無理に摂取量を増やしてもあまり益はないと、カッポラ氏は言う。

「十分な量を取ることは必要です。しかし、必ずしもより多く取ればいいというわけでもありません」

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