サイクリングにカヤック、アート、グルメなど、香港の楽しみ方5選

  • 2025年4月20日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

サイクリングにカヤック、アート、グルメなど、香港の楽しみ方5選

 山に海、昔ながらの姿を残す田園に囲まれた香港は、特筆すべき場所であるとともに、落ち着きのない場所のようにも映るかもしれない。ビクトリア・ハーバー沿いに立ち並ぶ約600もの超高層ビルは、密集した木々が光を求めるように、空へ伸びている。ビルの谷間にあふれる人混みには、手に取るようなエネルギーが流れている。世界中から集まった800万近い人々が密集して生活し、ときにリラックスしている。

 ここが冒険の始まりだ。まずは、香港の食べ物やストリートアートといった国際色豊かな都市部の探検から。だが、その先にある緑やターコイズに彩られた探検――手つかずの浜辺に漕いでいったり、時の止まった島々をサイクリングしたり、アジア有数の爽快なハイキングにチャレンジしたり――をしそびれているなら、香港の一面しか知らないということになる。

 出かけない理由はない。張りめぐらされた地下鉄やトラム、フェリーの交通網で、移動は簡単。この「都会のジャングル」はその比喩以上の存在であることを、有能かつ熱意のあるガイドが示してくれる。

のんびりとサイクリング

 アンディ・チョイ氏は、活気づいてくる早朝に長洲島を訪れるのが好きだ。路地からは、笑い声と麻雀牌がカタカタ鳴る音が聞こえてくる。食べ物や小さな装飾品を売る露店が、丁寧に組み立てられていく。この自動車のない島で中心的存在の漁師たちは、獲物を下ろしたり噂話を交わしたりしている。香港のダウンタウンからは10キロメートルも離れていないのに、まるで1世紀前のようだ。

 チョイ氏が案内する長洲島のサイクリングツアーは、セントラル(中環)からのフェリーで始まり、速度よりも乗り心地を重視した自転車で、島の周りを回る。浜辺や樹齢数百年のバンヤンノキの木陰で、のどかさを楽しむ休憩も入る。「ゆったりとサイクリングするのがこのツアーの醍醐味です」。柔らかな口調でチョイ氏は語る。

「観光客の多くは都市部に注目しがちで、なかなかここまで来ません。でも香港の昔ながらの側面である、のんびりした生活を見るのも、同じくらい大切だと思います」

 長洲島の平安饅頭は、必ず登場する。白い蒸した米粉の生地に甘いフィリングが入っている。かつては海賊から守ってもらうために、神や精霊に捧げられたものだった。これがサイクリング中に空腹になった際に、ちょうどいいスナックになる。

ハイキングに挑戦

「たまに振り返らなくてはいけない、それ以外は前を向いていなくてはならない――ちょっと人生みたいですよね」。ハイキング専門会社「ウォーク・ホンコン」で経験豊かなガイドのひとり、香港生まれのステラ・トー氏は、自身の好きなコースのおすすめポイントを哲学的に紹介する。そのコースは「ウィルソン・トレイル」といい、英国政府による香港総督のひとりが名前の由来で、中国本土との境界線近くまで、北に80キロメートルほどくねくねと続く。

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 トー氏が注目するのは最初の2区間だ。香港島南部のスタンレー(赤柱)の砂浜から始まる、11キロメートル道のりは、島の2割に及ぶ分厚い緑に覆われたタイタム・カントリーパークから風の強い尾根へ続いていく。

 最初の区間は、チョウが飛び交い、鳥のさえずりが聞こえる。そして、息切れだ。まず1200段、登らなくてはならない。「そこで後ろを振り返るのを忘れてはいけません」。トー氏が念は押す。さもなければ、眼下に広がる、島の散らばる南シナ海の景色を見逃してしまう。それから目を正面に向けて、標高436メートルのバイオレット・ヒルの頂上を目指す。

 やがて摩天楼のてっぺんがかすかに見えてくれば、そこからは約500メートルの下りが始まる。そして、騒がしさが心地よい港にたどり着き、ゴールのクオリー・ベイ(鰂魚涌)となる。「対比がすごい、見事なコースです」とトー氏。「最初は目の前に必死でしょう――気をつけなければなりませんから。でもやがて、ただただ感激して、『わお』の連続です」

個性的なアートを鑑賞

「最初に香港を訪れたときは、なにもない、いわば“アートの砂漠”に来たと思っていました」。アレックス・アンレイン氏はそう話す。ただそれが思い込みだと気づくのに、さほど時間はかからなかった。それから14年、アンレイン氏は街のストリートアートを推進するひとりで、セントラルやションワン(上環)などの迷路のような路地を回る、自由度の高いツアーを開催している。

 アンレイン氏は、ふいに現れる、まるで春の花のように色とりどりではかない小さな作品に魅了されている。同時に、10年目を迎える展示会「HKウォールズ」で公開されるような、壮大で長く残る作品も楽しんでいる。

 アンレイン氏が最近気に入っているのは、ベルリンのアート集団「Innerfields(インナーフィールズ)」がションワンの3階建ての壁に描いた、赤とピンクの作品だ。宇宙服を着た女性が携帯電話に夢中になっていて、その充電ケーブルを鳥がついばんで切断している絵柄で、自然とテクノロジーが交差する香港にふさわしい瞑想が表されている。

「私にとっては多様性、特にアジアと西洋のアーティストの融合が大切です」とアンレイン氏。「香港はたくさんのアーティストが、ヨーロッパやオーストラリア、もしくは日本に向かう途中で通り過ぎる町です。滞在時間は短くても、ここにいた証を熱心に残していきます」

海の名所を探検

 世界中がそうであったように、香港人は新型コロナウイルス禍によって、自分たちの目の前にある価値に改めて気づいた。そうした(再)発見のひとつが、カヤックに適した場所に暮らしていることだった。250以上もの島々があり、さほど遠くない距離にきらめく海岸線がある。そんなカヤックを推進するひとりが、香港生まれのロリー・マッケイ氏だ。

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 マッケイ氏が運営する旅行会社「ワイルドホンコン」のカヤックツアーの目玉は、香港ユネスコ世界ジオパークの1日探検コース。香港ユネスコ世界ジオパークは、クーロン(九龍)から東に車で1時間ほどの位置にある保護区域の一部で、約150平方キロメートルの静かなエリアだ。参加者はカヤックを漕ぎながら、マングローブの水路やアーチに洞窟、歴史ある寺院のように水面からそびえ立つ見事な六角形の岩柱などを探訪できる。

「これだけの光景が、これほど密集して存在している場所は世界でもここだけでしょう」とマッケイ氏は話す。狭いところでも方向転換できるので洞窟に適したシットオンカヤックもあれば、もっと難易度の高いコース向けのシットインシーカヤックもある。どのツアーにしろ、ピクニックランチは、キョウサイチャウの穏やかな西海岸にある、白い砂がきれいな弧を描くウイスキービーチ(威士忌湾)が定番だ。

食べ物の冒険

「どれくらい冒険したいですか?」とバージニア・チャン氏は尋ねる。フードツアー会社「ヒューミッド・ウィズ・ア・チャンス・オブ・フィッシュ・ボールズ」の創設者であるチャン氏は、香港料理に大きな情熱を持っており、最上の香港料理が食べられる場所を熟知している。定番の法則は、場所の雰囲気が「妖しい」ほど(暗い路地を行った先であったり、荒れ果てた工場のビルだったり)、「黄金」の食べ物に出会える可能性が高いというものだ。

 チャン氏は、食べ物を通じて香港について伝えている。そのため、屋台で出てくる凝固したブタの血と腸の乗った麺、ヘビの胆嚢ワイン、生鮮食品市場から手づかみで選ばれて屋台で調理されたカエルなど、刺激の強い一皿が出てくる可能性もある。だが、理由なく出されるものはない。

「例えば、食肉処理場から捨てられた内臓は貧しい家庭が手に入れられる数少ない食べ物でした。どう調理するか、知恵を絞ったのです」とチャン氏は説明する。

 九龍でも人口密度の高いエリアに当たるモンコク(旺角)は、いわば、食べ物を探すのにとても良い猟場だ。そのすぐ南東にあるウォンポウ(黄埔)も然りで、「ヒューミッド・ウィズ・ア・チャンス・オブ・フィッシュボールズ」の6カ所で10品楽しむ定番ツアー「ウォンポウ・オフ・ジ・イートゥン・パス・フード・ツアー」でめぐるエリアだ。

「街のどこでも、料理の発明や驚き、情熱と出会うだろう」とチャン氏は言う。「あらゆる祝祭や休日、家族や友人と会う場、いずれも中心に食べ物があります」

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