「絶滅から復活」と話題のダイアウルフ、どんな動物だったのか

  • 2025年4月16日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

「絶滅から復活」と話題のダイアウルフ、どんな動物だったのか

 20万年以上にわたり、ダイアウルフは北米大陸を歩き回っていた。生息域はカナダのアルバータ州南部から米フロリダ、さらにはチリまで及んだ。この古代の生物は、大型動物を狩る捕食者であり、およそ1万3000年前に巨大なナマケモノの仲間であるメガテリウムやゾウの仲間のマストドンとともに姿を消した。ところが先週、「TIME」誌が表紙に白いオオカミを掲載し、その復活を宣言した。

 民間企業コロッサル・バイオサイエンシズ社は、遺伝子編集によってダイアウルフを復活させたと主張している。しかし、彼らが誕生させた「ロムルス」「レムス」「カリーシ」と名付けられた3頭は、本物のダイアウルフというよりも、多少の改変を加えられたタイリクオオカミ(ハイイロオオカミとも)とみなすのが正しいだろう。

 コロッサル社は、2つの化石から抽出した古代のダイアウルフのDNAを分析したのち、タイリクオオカミの胚(受精後まもない段階)に20カ所の遺伝子編集を加えて、クローンがより“ダイアウルフらしく”見えるようにした。その姿は、米のテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場する架空のダイアウルフによく似ている。

 コロッサル社はマンモスやドードーなど、さまざまな古代動物の復活に取り組んでいる。こうした試みには、常に技術的な課題と倫理面での懸念がつきまとう。

 今回のオオカミを同社は「脱絶滅」の勝利と位置づけているが、これはそれほど単純に判断できる問題ではない。なぜなら、ダイアウルフがどのように進化し、生態系の中でどのような役割を果たしていたのかについては、まだ完全には解明できていないからだ。

ダイアウルフは「大きなタイリクオオカミ」ではない

 ダイアウルフ(Aenocyon dirus)は1858年に初めて種として認定された。体全体の大きさは、現在アラスカに生息するタイリクオオカミ(Canis lupus)の大型の個体と同じぐらいだ。明白な違いは頭蓋骨に見られると、米ロサンゼルスにあるラ・ブレア・タールピット博物館の古生態学者エミリー・リンジー氏は言う。

「ダイアウルフの頭蓋骨には大きな矢状稜(しじょうりょう)、つまり顎の筋肉を支える隆起があり、がっしりとした歯は、噛む力が強かったことを示唆しています」

 ダイアウルフは大型の獲物を狩るのに適した進化を遂げた。獲物は、ウマ類、若いマンモス、シャスタオオナマケモノのような草食動物だったと考えられている。ただし、「イヌを飼っている人はよくご存知のように、イヌはどんなものでも食べてしまいます」とリンジー氏は指摘する。

 米カリフォルニア州ロサンゼルスの有名なラ・ブレアからダイアウルフの骨がたくさん見つかるのは、おそらくはそれが理由だと思われる。地中から湧き出るアスファルトの中に多様な種が閉じ込められているこの場所からは、何千年ものあいだに蓄積された数千体分のダイアウルフの骨が見つかっている。

 これほどたくさん化石が残されているにもかかわらず、ダイアウルフがイヌ科の系統樹のどこに位置するのかが明らかになったのは、古代のDNAの解析が進んだごく最近になってからのことだ。

 研究者たちは長い間、全体的な骨格の類似性から、ダイアウルフにいちばん近い親戚は現代のタイリクオオカミであると考えていた。しかし、2021年のDNAの研究により、ダイアウルフはおよそ500万年前にアフリカのジャッカルに近い系統から分岐したことが判明した。その後、次第に大型化し、タイリクオオカミと似た特徴を独自に進化させたのち、約23万年前に現在知られているダイアウルフとなった。

次ページ:ダイアウルフの生態

 コロッサル社の研究チームは論文投稿サイト「bioRxiv」に予備的な査読前論文を2025年4月11日付けで投稿し、化石から得られたダイアウルフのDNA分析結果の概要を発表した(コロッサル社の出資者であり、『ゲーム・オブ・スローンズ』の作者であるジョージ・R・R・マーティン氏も共著者として名を連ねている)。

 内容は先述の2021年の研究結果を裏付けるものだ。同チームは、ダイアウルフの系統は約450万年前、現在のヤブイヌに似ていたと思われる初期のイヌ科動物が、ジャッカル、ドール(アカオオカミ)、オオカミを含むグループに近いイヌ科動物と交雑して誕生したと示唆している。

「ダイアウルフは現在のタイリクオオカミの単なる古代版というわけではありません」。コロッサル・バイオサイエンシズ社は声明の中でそう述べているが、同社のウェブサイトではいまだに(本記事公開時点)、この遺伝子操作されたタイリクオオカミは「脱絶滅したダイアウルフ」と喧伝されている。

ダイアウルフの生態

 ダイアウルフは北米のさまざまな環境で暮らしていた。「寒冷で開けたステップ地帯から、低木の茂る森林地帯まで、彼らが多様な生息環境にいたことはほぼ間違いないでしょう」と、カナダ自然博物館の古生物学者アシュリー・レイノルズ氏は述べている。現在でも、ダイアウルフがかつて生息していた場所が新たに見つかることがある。

 4月11日には米ペンシルベニア州立大学の古生物学者クリス・ウィドガ氏の研究チームが、アイオワ州とアーカンソー州で新たに発見されたダイアウルフの化石について報告している。

「ミズーリ州とアーカンソー州のオザーク山地では、ダイアウルフは洞窟から数多く見つかっており、フラットヘッド・ペッカリー(イノシシに似た草食性動物)も一緒に出土する傾向にあります」とウィドガ氏は言う。おそらく、この地域のダイアウルフはフラットヘッド・ペッカリーを好んで食べていたのだろう。

 しかし、どこで暮らしていようとも、ダイアウルフの周囲には、今日では決して見ることができないほど膨大な数の、多種多様な大型動物たちが存在した。そこにはメガテリウムやマストドンもいれば、バイソンなどのより馴染み深い動物の巨大な群れや、絶滅したウマやラクダの仲間も含まれていた。

 ダイアウルフは巨大な肉食動物群の一員だった。肉食動物の多様性は、現代の北米よりもむしろ今日の東アフリカに近かった。

 ダイアウルフの競争相手には、スミロドンのようなサーベルタイガー、古代のハイエナの仲間、アメリカライオンのほか、ハイイログマ(グリズリー)やジャガーといった種の現代よりも大型の個体など、実にさまざまな大型肉食獣がいた。

「ダイアウルフは必ずしもその環境における頂点捕食者ではありませんでした」とレイノルズ氏は言う。ダイアウルフはピューマやコヨーテ、タイリクオオカミの獲物を横取りしていた可能性もある。

 ダイアウルフはおそらく群れで生活し、互いに協力して大型の草食動物を狩って戦利品を分け合っていたと思われる。

 化石種の行動を再現するのは容易ではないが、アスファルトが湧き出している場所で見つかるダイアウルフの個体数が極めて多いことは、彼らが社会的な群れを形成していたことを強く示唆している。ラ・ブレアで見つかった化石以外にも、ペルーのタララという場所では、数十頭の個体に由来する4500点を超える化石が出土している。

次ページ:まだわかっていないこと

まだわかっていないこと

 群れで暮らしていたということは、若いダイアウルフは周囲にいる成獣をお手本として学んでいたことを意味する。コロッサル社が複製した現代の個体では、そうした側面まで再現することは叶わない。

「ダイアウルフの遺伝子を持っているからといって、必ずしもダイアウルフのように行動するわけではありません」とレイノルズ氏は言う。「彼らはダイアウルフはもちろん、ほかのイヌ科の仲間とも触れ合うことなく育てられていると思われます。つまり彼らには、ほかの個体から重要なスキルを学ぶ機会もないのです」

 ダイアウルフはタイリクオオカミと近縁種ではないことが明らかになったが、では現生種の中で、ダイアウルフと比較するうえで最適なモデルは何だろうか。

「長い間、ダイアウルフと最も近い現生種はタイリクオオカミだと考えられてきました」とレイノルズ氏は言う。「しかし今では、ダイアウルフの行動や生態を研究するうえでは、ジャッカル、リカオン、ドールなど、より多くの動物を比較対象に加える必要があります」

 たとえば、リカオンやドールは大きな社会的集団を形成し、互いにほぼ途切れることなく連絡を取り合う傾向にある。これは、個体がそれぞれに食べものを探したのち、再度合流するというタイリクオオカミの群れの構造とは大きく異なる。また、ジャッカルは単独、あるいは2〜4頭程度の小さな群れで生活することが多い。

 ダイアウルフの社会生活は、こうしたほかのイヌ科動物と似ていた可能性があるし、現代には残されていない、まったく独自の形態であったとも考えられる。

「もしダイアウルフが実際には社会的でなかった場合、または科学者が考えるよりも小さな、あるいは大きな群れで暮らしていた場合、そうした行動の違いは、獲物となる種に対して異なる影響を与えたことでしょう」とレイノルズ氏は指摘する。これは、ダイアウルフが氷河期の生態系において果たしていた役割を理解するうえでとても重要だ。

 ダイアウルフが北米で進化し、独自の歴史を歩んできたという事実が、専門家らの見方を一変させた。「ダイアウルフは北米大陸に固有の生態系に非常によく適応したイヌ科動物であり、彼らの祖先は、ラクダやウマといったほかのアメリカ原産の動物たちと一緒に進化してきたことになります」とウィドガ氏は言う。

 ダイアウルフが1万3000年前に絶滅した理由もまた、彼らの好む獲物が姿を消したということ以外、ほとんどわかっていない。古代のDNAの分析結果は、ダイアウルフはタイリクオオカミとは交雑しておらず、また何らかの遺伝的な痕跡を現代に残してもいないことを示唆している。

「ダイアウルフは、地球の生態系を数千万年にわたって形作っていた仕組みを劇的に変えてしまった、地球規模の大絶滅の波の中で姿を消しました」とリンジー氏は言う。その頃、気候が急速に温暖化し、人類が世界中に広がっていった。

 ダイアウルフの知識を受け継いでいるのは、オオカミのクローンというより、現存するイヌ科の動物なのかもしれない。もし古生物学者がダイアウルフがたどった運命を理解できたなら、ヤブイヌからタイリクオオカミに至るまで、現代のイヌの仲間たちが生き残るためのよりよい手がかりが得られるかもしれない。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2025 日経ナショナル ジオグラフィック社