ビタミンAとEのサプリにリスク、がんとの関連を示す研究も

  • 2025年4月16日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

ビタミンAとEのサプリにリスク、がんとの関連を示す研究も

 ビタミン剤やサプリメントの産業が活況を呈している。特定のビタミンが不足している人や健康上の問題を抱えている人にとってサプリメントはありがたい製品だが、一部の合成ビタミンは肝臓障害、脱毛、関節痛や筋肉痛、視力障害などを引き起こす恐れがあることが研究で示されている。

「誰もが皆、素晴らしい健康を与えてくれる魔法の薬を求めますが、残念ながらサプリメントにそれを期待することはできません。リスクを上回るほどの効果がないことの方が多いのです」と話すのは、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の予防医学部長を務めるジョアン・マンソン氏だ。

「私は一般的に、特別な理由でもない限りビタミン剤の使用を勧めません」と、米ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の疫学・栄養学教授を務めるウォルター・ウィレット氏も言う。

 ビタミンAとEの取りすぎに関しては、特有のリスクとの関連性が疑われており、特に注意が必要だ。

ビタミンAサプリメントの注意点

 ビタミンAは、視力、発達、生殖、免疫の健康に重要な役割を果たす。食品なら、レバー、サツマイモ、ホウレンソウ、ニンジン、カボチャなどに多く含まれ、米国では1日の推奨量は成人男性で900マイクログラム、成人女性で700マイクログラム(編注:厚生労働省が「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で定める推奨量は年齢により成人男性800〜900マイクログラム、成人女性650〜700マイクログラム)。この範囲であれば安全で、必要だともされている。

 ビタミンAは動物性食品には主にレチノイド(レチノールなど)として、植物性食品には主にカロテノイド(ベータカロテンなど)として含まれている。カロテノイドは、食べた後、体内で必要に応じてレチノイドに変換される。

 しかし、どんなものでもそうだが、取りすぎれば害になる。

 過剰摂取を避けるため成人が1日に摂取してもよい上限(耐容上限量)は米国では3000マイクログラム(編注:日本では2700マイクログラム)。これはレチノイドのみが対象で、カロテノイドは含めない。

 だが、気を付けなければいけないのは、食事とサプリメントだけでなく、レチノールを含むクリームやローションからも、ビタミンAは吸収されるという点だ。

 一部の栄養科学者は、この上限を引き下げ、子どもや思春期の上限もより明確に定めるべきだと主張する。子どもの場合、ビタミンの過剰摂取によるリスクが大人よりも高い。

 推奨量が変更されないとしても、現在の上限を上回ることは誰にとっても危険をはらんでいる。「一度に大量摂取すると、中毒を引き起こす恐れがあります」と、米クリーブランド・クリニック統合医療センターの総合診療医師であるユーファン・リン氏は言う。

 中毒症状としては、関節痛、頭痛、脱毛、筋肉痛、視力低下、吐き気などがあり、最悪の場合、昏睡状態に陥り、死に至ることもある。

 また、ビタミンAは肝臓の細胞に蓄積するため、増えすぎると肝臓を損傷することがある。ただし、これはビタミンAだけに限ったことではない。サプリメントの使用と肝臓の問題に関連性があることを示す研究はいくつもある。

次ページ:皮膚トラブル、骨量減少の報告

 2023年12月14日付で医学誌「Cureus」に発表された論文によると、ビタミンAの大量摂取は胎児にも影響を与える恐れがあるという。

「胎児の正常な発達にビタミンAは必要不可欠ですが、大量に摂取すれば母親にも胎児にも害があり、目や心臓、臓器、中枢神経系に先天性の障害が残るリスクが高まります」と、管理栄養士でニューハンプシャー栄養・食事療法アカデミー次期会長のジェン・メッサー氏は言う。

 妊娠中ではなく、適量の摂取だったとしても、「ビタミンAのサプリメントは皮膚のトラブルや骨折のリスクの増加に関連付けられています」と、マンソン氏も言う。

 2023年に発表された研究では、ニキビや乾癬の治療に使われる外用薬のビタミンA(レチノール)でも中毒になる場合があることが示されている。

「マルチビタミン剤に含まれるビタミンAの量と高齢女性の骨量の減少が問題になったこともあります」と、米タフツ大学のジーン・メイヤー米農務省加齢人間栄養研究センターで心臓血管栄養チームを率いるアリス・リクテンシュタイン氏は言う。

 そのため、現在はベータカロテンの形でしかビタミンAを含んでいないマルチビタミン製品もある。ベータカロテンは体内でビタミンAに変換され、そのほかの形でのビタミンAに関連付けられるリスクが少ないことが、研究で示されている。

 ほかにも、2021年9月に医学誌「Nutrients」に発表された研究を含め、一部の研究では、バランスのとれた食事から摂取するビタミンAは一部のがんのリスクを下げるとされている。

 しかし、米国立衛生研究所(NIH)栄養補助剤局は、サプリメントで取ると逆に一部のがんのリスクを高める恐れがあると警告している。ビタミンAには、細胞の成長と分化を調整する役割があることが関係しているとみられる。

ビタミンEサプリメントの注意点

 ビタミンEに至ってはさらに多くの論争がある。

 強力な抗酸化物質であるビタミンEは、小麦胚芽油、アボカド、魚、種子、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ピーナッツなどの食品から自然な形で摂取すれば、フリーラジカル(遊離基)の影響から細胞を守り、皮膚や目の健康を改善させる働きをする。

 しかし、合成ビタミンEの安全性については専門家も懸念している。ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生学部栄養学科のウェブサイトは過剰摂取について、「健康への悪影響が時折報告されており、科学者の間で、ビタミンEのサプリメントが有害で死亡リスクを高めることもあるのではないかと議論されている」と指摘する。

 論争や混乱を引き起こしている一因は、ビタミンEに複数の形があることだ。そのうち、十分に研究されているものもあれば、そうでないものもある。

次ページ:ビタミンEサプリメントに含まれている形は?

「自然のビタミンEには化学的に8つの形がありますが、ビタミンEサプリメントのほとんどは、合成のアルファトコフェロールです」とリン氏は説明する。

 そして、このアルファトコフェロールが、ほかの形のビタミンEよりもリスクが高いようなのだ。「ビタミンEを豊富に含んだ食品を食べる方が、合成のサプリメントを取るよりもいいと言われているのは、こういうわけなのです」

 米メイヨー・クリニックの管理栄養士ケイト・ゼラツキー氏も同意する。「異なる形のビタミンEが体内でどのように働き、相互作用するかをもっとよく理解する必要があると思います」

 また、安全な摂取量についても情報はまちまちだ。米国の場合、成人の男女ともに推奨される1日の摂取量は15ミリグラムだが、許容量の上限は1000ミリグラムに設定されている(編注:日本の目安量は成人男性6.5〜7.5ミリグラム、成人女性5〜7ミリグラム、耐容上限量は成人男性800ミリグラム、成人女性650〜700ミリグラム)。

 しかし、NIH栄養補助剤局は、「上限に達しなくても、ビタミンEのサプリメントは害になる可能性があると一部の研究が示唆している」と警告している。

 実際、2011年10月12日付で医学誌「JAMA」に発表された臨床試験では、1日268ミリグラムの摂取を数年続けた結果、男性の前立腺がんのリスクが17%高まることが示された。

 マンソン氏も、「ほどほどの量でも問題が生じうることを示したランダム化試験があります」と付け加えた。

 ビタミンEサプリメントの取りすぎは、血液が固まるのを妨げ、出血が止まらなくなる恐れもあると、米メリーランド大学アッパーチェサピーク・ヘルスの肥満管理栄養士であるジェシカ・ローズ氏は言う。

 さらに、薬やがん治療、ほかのサプリメントにビタミンEがどのような悪影響を与えるかについての研究もある。2001年11月に医学誌「New England Journal of Medicine」に発表された臨床研究は、ビタミンC、セレン、ベータカロテンなどの抗酸化物質と一緒にビタミンEを摂取すると、善玉(HDL)コレステロールの上昇が抑えられてしまう可能性があることを示した。

「結局は、潜在的なリスクとメリットのバランスを評価することが大切です」とメッサー氏は言う。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2025 日経ナショナル ジオグラフィック社