瀬戸内海に浮かぶ人口わずか11人の小さな離島「高井神島(たかいかみしま)」(愛媛県上島町)に、全国から生徒を募集する「漫画学校」が開校し、4月27日に開校式が行われた。(今治経済新聞)
「つるピカハゲ丸」の作者・のむらしんぼさんが特別講義
今治市の北東約30キロに位置する高井神島は、因島(広島県尾道市)や弓削島(愛媛県上島町)からの連絡船のみが交通手段という、いわば「陸の孤島」。今治市中心部から高速船を乗り継いでも2時間以上を要する。近年、この静かな島で、空き家の壁に漫画を描くことで島おこしに取り組むユニークな活動が注目を集めている。
今回、一昨年に休校を経て廃校となった高井神小中学校の旧校舎を活用し、「漫画学校」が開校した。開校式当日には、島内に描かれた壁画の原画提供者でもある漫画家、のむらしんぼさん、押山雄一さん、塚本知子さんが島を訪れ、上島町内の小中学生約20人を対象に90分の漫画講座を開いた。
長年「月刊コロコロコミック」などで人気を博した「つるピカハゲ丸」の作者であるのむらさんは、子どもたちに向けて「漫画は個性そのもの。自分の書きたいように書くのが一番大切。技術も重要だが、まずは作り手の視点を持って、さまざまなことに興味を持ち、自由に想像力を羽ばたかせることが肝心」と、創作活動への心構えを熱く語った。
講義を受けた弓削中学校2年の馬場陽葵さんは「いいアイデアを出すためには想像力が大事だと思った。将来の夢はイラストレーターになること」と目を輝かせた。
現在、漫画学校では5月17日まで第1期生を募集している。初回の講義は5月24日に開講。授業は月1度、週末に島に滞在しながら、現役のプロの漫画家から直接指導を受けて学ぶ。3カ月間で計6回の講義を通して、漫画の基礎を学ぶことができる。
「マンガ島」への挑戦が始まったのは2016(平成28)年のこと。高井神島では近年、深刻な人口減少に悩まされており、かつて50人ほどいた島民も一時7人まで減少した。「人が集まるきっかけを作りたい」と強く願ったのは、島出身で自治会長を務める木村定さん。世代を超えて愛される「漫画」に可能性を見いだし、旧来の友人である長谷部理さんと共に「マンガ島」構想をスタートさせた。
長谷部さんは山梨県出身。木村さんに誘われて初めて高井神島を訪れた際、その魅力に心を奪われたという。東京と山梨で複数の事業を展開する長谷部さんは、広い人脈を生かし、離島医療をテーマにしたマンガ「Dr.コトー診療所」の作者、山田貴敏さんに相談を持ちかけた。すると、快く原画を提供してもらえることになった。町の許可を得て公民館の壁に原画を描いたのを皮切りに、浜田ブリトニーさんなど多くの漫画家や関係者に協力を仰ぎ、現在では30種類以上の壁画が島を彩る。
長谷部さんは「いろんな人の協力があって、漫画学校が開校できた。学校に来てくれた生徒の中から、一人でもプロが生まれてくれれば。漫画の聖地・高井神島として、世界の漫画島を目指したい」と意気込む。