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Vol.14 写真家としてニューヨークで第一歩。レンズのむこうは…
フォトグラファー 長谷良樹さん

  • 2009年9月1日
写真

フォトグラファー 長谷良樹さん

Profile

1972年神奈川県生まれ。学習院大学卒。大手総合商社で3年間勤務後、一転してニューヨークにて写真家としてのキャリアを始める。7年間のニューヨーク生活後、現在は東京渋谷区に在住。コマーシャル撮影の仕事とともに、個人作品の製作活動にも力を入れている。
受賞:2003 International Photography Award審査員特別賞「RAIN DATE」
2007フジフォトサロン新人賞 奨励賞「What is your ハピネス ?」
URL:www.yoshikihase.com Blog:http://yoshikiny.exblog.jp/

 今回は、サラリーマン生活をした後、新境地を求めてニューヨークに移り住み、それから写真家の道を歩むフォトグラファーの長谷良樹さんをご紹介します。長谷さんの作品で、ニューヨークのNPO施設に住む人たちの写真は、病気やホームレス、障害など、社会的弱者として生きながらも、心の奥に強烈な生命のきらめきをもって語りかけてきます。
 ニューヨークに住みはじめて5年ほど経ったころに陥った大きなスランプが、新たな出会いと本当に大切なものを見る契機となりました。人との交流も途絶えてしまい、生活が完全に止まった状態となり「毎日ちゃんとすることがあるのは、当たり前のようであたりまえのことではない」と強く感じたそうです。

スランプの時期に感じたこと

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2007フジフォトサロン新人賞 奨励賞受賞作品
メアリーとアンソニー 最も親しくなった二人
 「あの頃は、生活のことでニューヨークに来て最も大変な時期でした。仕事もお金もなく、人との交流もほぼ途絶え、昼間に公園に行けばホームレスの人たちや仕事をしていない人が僕の他にもたくさんいるのです。しかし、不思議とあまり陰気な様子もなく、むしろそこにいる人たちが明るくさえ見えました。日本ではあまり見られない光景だと思いますが、社会の組織や歯車から完全に抜け落ちたところでも、人は強烈に個性とプライドを持って生きていけるのだということを感じたのです。どういう形であろうとも自分だけの確かな人生を歩んでいる人がたくさんいるのです」

長谷さんにとって、その時期に感じたことが、自分にとって大切であり、そういう状況になることで、自分があるべき原型のようなシンプルな姿が見えるようになったといいます。


NYの施設“HOUSING WORKS”での撮影

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2007フジフォトサロン新人賞受賞作品。彼はとても自立心の強い人だった

 長谷さんは、ニューヨークで写真家として活動されて、ある時期HOUSING WORKSというHIV/エイズだけでなく障害やホームレスなどの問題ももつ人々が集まるNPOで撮影されていました。

 「HOUSING WORKSで写真を撮る直接のきっかけは、当時ごく身近に鬱病に苦しむ人がいて、ルームメイトとして一緒に生活をしていました。強烈な体験でした。僕自身もふがいない生活状況のなかで、鬱病と闘う人と話をしているうちに、生きていくこと、幸福、本当に何がしあわせなのかなどの根本的な問いかけを心のなかでするようになりました。そんな話をある友人に話すと、ある場所に見学にきなさいと誘ってくれたのです。そこが彼女が働くHOUSING WORKSでした。エイズだけでなく心身障害、トラウマ、鬱病、ホームレスなどの問題を同時に抱え、闘っている人たちにそこで初めて出会いました。すぐにその人たちに強烈に惹かれました。病気や障害の深刻な状況はありますが、そのときの僕には彼等が強く「生きる人」に見えました。彼等が僕に笑う姿は、今まで見てきた多くの笑顔の何倍もの安心感を与えたのです。実際に写真を撮り始めるまで、正直受け入れてくれるか不安で震えるほど怖かったのですが、しかしとにかくそこに通い続けました。週に1回、多いときには週3回くらい通いました。そして写真を撮るようになりました。その後約2年間で多くの友人ができました」


誰もが『自分の人生』を抱えている

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2007フジフォトサロン新人賞 受賞作品。いつも一緒にいた二人

 長谷さんがHOUSING WORKSの人たちに会い、作品を通して思ったこと、その後自分が変わったことは?

 「まず思うのは、どんなことがあっても自分は自分であることから逃れられないということです。自分であるということは、仕事、人間関係などにも本質的には縛られないと思います。自分が何者で、生きて何をするのか。仕事や職種で説明する以上の『自分』をいつも感じていたいと思っています。7年間のニューヨーク生活で身についたものかもしれませんが、最後にHOUSING WORKSの人たちと時間を過ごして、彼等のなかにもそういうものを強く感じました。
 彼等と話をするとき、仕事、趣味、家族などの普通の話題ではまったく接点を持つことはできません。そういうものを何ももっていない人がほとんどです。しかし皆がどこかにぬきさしならない『自分の人生』を抱えているのです。自分のなかに信じるものがあるのです。人はそれだけでもしあわせに生きていけるのではないかと感じるようになりました。職種や立場を常に超越した何か、それが自分というものだと思います。

 あの頃の影響はとても大きいと思います。だから、仕事がなかったり物事がうまく運ばない時期も、余計なものがなくなって自分に戻るチャンスだと思っていました。自由な気持ちであるために、ときには一人であることが絶対に必要です。そこに喜びを見いだせば、人に会うことがもっと充実して楽しくなります。一人になったときに始まる何かがある」



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