第21回　麗澤大学教授 ／ 大橋照枝さん
ロハスの極み、幸福大国“ブータン”

麗澤大学教授 ／ 大橋照枝さん

Profile
京都大学文学部哲学科社会学専攻卒。学術博士。(株)大広マーケティングディレクター、国学院大学栃木短期大学助教授を経て、1992年から麗澤大学経済学部教授（同大学院教授）現在に至る。
所属学会：日本社会学会、環境経済・政策学会、日本環境教育学会、日本NPO学会、日本広告学会、情報文化学会、経済社会学会など。
学術関係の受賞歴：1984年11月 週刊東洋経済第１回高橋亀吉賞入選　1988年10月 日経産業新聞創刊15周年記念懸賞論文入選　10月日本経済新聞 ＮＥＷ Beingの会懸賞論文優秀賞　11月住友商事株式会社「住商ニュース」100号記念懸賞論文 入選　1992年３月第７回電気通信普及財団賞奨励賞　1999年７月論文「21世紀と日本」社会人部門２位入賞（日本経済新聞社）

 

　「動脈系（お金もうけ第１主義）→静脈系（お金もうけよりも楽しいことがしたい）」へのパラダイムシフトを提唱する大橋照枝さんは、これまでにスウェーデン、デンマーク、ドイツの環境都市で多くの人々と 出会い学んだ持続可能な地域社会づくりの知恵を紹介した著書『ヨーロッパ環境都市のヒューマンウェアー持続可能な社会を創造する知恵』など単著をすでに17冊も出版している環境マーケティング研究の第１人者。HSM（人間満足度尺度：Human Satisfaction Measure）研究の一環として、2007年、2008年とブータンを訪問。

愛と郷愁の国ブータン

幸福大国ブータンを紹介する本を執筆中ということですが、幸福大国とはどんな国なのでしょうか。

首都ティンプーの王宮「タシチョゾン」をのぞむ 　GDP（国内総生産）は、人間の幸福にとってマイナスの戦争、交通事故、自殺、離婚などが生じても金銭のやりとりがあると、経済効果として加算してしまい、逆に生活者の福祉にとってなくてはならない家事・育児（主として女性が担っている）は金銭の支払いがないので一切加算されないのです。
　また、現在の政治・経済の手法は今の世代が豊かであれば良いとの考え方で今の経済の拡大に力を入れ、将来世代にツケを回す、ワリを食わせることに関心が乏しいのです。
　そこで私は、将来世代にワリを食わせず持続可能な社会指標としてHSM（人間満足度尺度）を開発しています。
　ブータンは、30年前から、前国王の提唱でGNH（国民総幸福）を国のスローガンにかかげ、官民一体となって幸福大国を進めています。そして、2005年の国勢調査で、“あなたは幸福ですか”の問いに“ハイ幸福です”と国民の97％が答えたといいます。

ロハスの極み、ブータン

経済的な豊かさだけではなく“幸せ”を目指す国づくりは、日本の私たちの 暮らしを見直すヒントにもなりそうですね。

スウェーデンのエコビレッジ「ウンデルステンスホイデン」の住居（外壁に鉄硫酸塩を塗った板を使用）

スウェーデンのエコビレッジ、子供の遊具が置かれている 　ブータンを訪れる人の心を、まずとらえるのは、その風景、山すそから田園地帯にかけて緑の中に沈み込むように点在する白壁に木の窓枠の入った独特のブータン様式の建物。首都ティンプーの王宮（タシチョゾン）のたたずまいも、この風景の中におさまっています。広告板やネオンのようなものは一切なく、まさにビオトープ（動植物の生息地）の中に住んでいるようです。このような情景が、なだらかな山々の稜線のふもとに広がるのを一目見て、日本人の多くは、なぜか郷愁のようなものを感じます。
　ブータンの森林面積は国土の72％で、これを60％以下にしてはならないと憲法で決められています。実は日本の山林面積も66.4％。ブータンに近い。ひょっとすると日本人のDNAの中に、この比率が刷り込まれていて、ブータンの風景をみて一挙に蘇るのではなかろうか—と思ったりします。
　私はかつてスウェーデンのストックホルムでエコビレッジ　ウンデルステンスホイデンを訪れましたが、まさに高台の原生林や岩をそのまま残し、自然になじむように住宅が建てられていました。住宅の壁には鉄硫酸塩で渋茶色にした板を張り、風景になじむようにされています。
　道路は、微生物が生きられるよう、アスファルトにせず、砂利道で、消防自動車が入れる幅のみ確保していました。緑のトンネルの中に散歩道があり、あちこち子供の遊具がおかれ、まさにアメリカ発祥のキーワード“LOHAS”でした。ウンデルステンスホイデンは、35000平方メートルですが、ブータンでは国全体（九州の0.9倍）がビオトープにあるといってよいほどで、ロハスの極みです。