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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第132回 小水力発電の課題と展望

  • 2015年1月15日

小水力発電の課題と展望

 水力発電といえば大規模なダムにより水を堰き止め、大量の水を高いダムの落差を利用して発電するダム式発電を思い浮かべるかもしれないが、日本初の水力発電所は、1892年に京都市が琵琶湖疏水として建設した蹴上発電所である。京都市内の電灯や市電の動力に使われ、初期は百数十kWで運用を開始し、現在でも関西電力蹴上発電所(1936年、4,500kW)として稼働している。小水力発電は、新たにダムを建設しなくとも既存の利水・治水設備、砂防堰堤*1などを取水設備として利用した発電が可能で、例えば、農業用水路、砂防堰堤、ダムの維持放流水、湧水、工場やビルの循環水などさまざまな水から発電できる。

 水力発電の定義は発電出力の規模、設備の構造などによりさまざまで、小水力発電の「小ささ」については厳密な定義は定まっていない。国際的にはおおむね1万kW以下の水力発電として扱われ、日本の法律では新エネ法(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)では出力1,000kW以下とされ、固定価格買取制度(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)では、中小水力として3万kW未満、1,000kW未満、20kW未満に3区分されている。

 水力発電の設備は設置場所や設置条件等により構成は大きく異なるものの、発電出力の、大小による違いは少なく、電力は次式によって求められる。

 発電電力P(kW)= 水量Q(m3/s)× 落差H(m)× 重力加速度 × 発電機器効率

 落差Hは、上流水面から下流水面までの高低差から配管損失を引いた有効値のこと。発電機器効率は、水車発電機の変換効率のことを指す。

利用推進のための調査研究

 小水力発電の導入ポテンシャルについては、経済産業省「中小水力開発促進指導事業基礎調査」(2010年3月)や、環境省「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」(2011年3月)等の結果が公表されている。

 政府は1910年(明治43年)以降、全国規模で個別地点ごとの包蔵水力調査を実施している。経済産業省はこれを整理し、未開発の理論包蔵水力として2008年3月における未開発包蔵水力(一般水力)を2,714地点、1,213万kW、458億kWh、そのうち中小水力については2009年3月の調査において1,397地点、34万kW、17億kWhとし、2020年までに最大で1,300地点に導入可能であるとし、具体地点を報告書巻末に一覧表として記載している。

 環境省の調査によれば、日本全体の中小水力発電の賦存量は河川部に1,650万kW、農業用水路に32万kWと推定されており、そのうち開発不適地を除いた導入ポテンシャルは河川部に1,400万kW、農業用水路に30万kWと見込まれている。この調査に基づいてポテンシャルマップをWEBサイトで公開し、詳細データを希望する自治体にはGISデータが配布された。

小水力開発のポイント

(1)経済性が大事
 環境PRや教育目的だけでは事業が行き詰まってしまう。固定価格買取制度における事業の収益性は内部収益率7%と設定されているが、事業規模は100kW程度の売電電力量が得られなければ維持管理を続けることができない。

(2)早い段階から事前相談で、円滑な法的手続き
 小水力発電を行う際に「水利権」がとくに大きな課題といわれてきた。河川法による「水利使用の許可」申請には費用と時間と労力がかかっていたが、2013年4月1日の河川法施行令改正で1,000kW未満の許可は都道府県知事の権限になり、とくに200kW未満の開発は柔軟になった。「小水力発電に係る許可手続の簡素化」、「国土交通省による小水力発電のプロジェクト形成の支援」、「従属発電について登録制度」など国土交通省の積極的な施策によって法的手続きの状況が一変した。

 もう一方で電気事業法についても、電力自由化や自主管理の拡大などの規制緩和が実施され、手続きなどについても簡素化されている。ただし、制度の移行期なので、制度の運用面で多少の混乱があり、とくに申請手続きの経験がない事業主体による水力開発では、早い段階から相談を始めることで円滑な手続きが可能になる。

(3)電力協議(系統連系)
 発電設備を電力会社の配電線に接続して運用することを系統連系と呼び、地域の電力会社と電力協議を行う必要がある。配電線に接続しないで運用する場合を「単独運転(運用)」、「自立(独立)運転」などというが、日本の場合、電力会社の配電線が張りめぐらされているため、発電設備を配電線に連系して運用するのが最良である。系統連系により発電設備の運転時には、自家消費し、余剰を売電することもできるし、発電設備の停止時には配電線から受電できる。小水力発電の場合、電柱などで低圧または高圧配電線への連系となり、風力発電のように鉄塔や送電線が必要となることは稀である。

 法手続きではないが、系統連系に必要な技術要件は「系統連系規程(JEAC9701)」に記されているが、このルールを理解するには、電気的な専門知識が必要である。必ず専門家を交えて協議に臨むことを推奨する。

小水力発電の概要
小水力発電の概要
(4)支援制度、補助金制度を活用する
 固定価格買取制度の実施に伴い建設補助金は廃止されつつあるが、開発調査や設計等の支援策、建設費の制度融資等があり、国や地方自治体による導入支援策は最大限活用するべきである。

(5)利害関係者や地域住民との合意形成が不可欠
 水資源は歴史的にも古くから利用されており、新たな開発には既得の権利を尊重しなければならない。農業用水路や堰堤を利用する際は、その水を利用する利害関係者との合意形成が不可欠であり、開発だけでなく運営管理にあたっても地域住民や幅広い利害関係者の理解と協力が必要である。


課題と展望

 事業に必要な3要素として「ヒト・モノ・カネ」といわれることがある。「ヒト」については、小水力発電の専任の技術者やメーカーが少なくなってしまったので、技術者の確保と育成の課題もある。開発には土木関係の工事が多く占めるので、地域の建設会社や土木技術者が主体的に開発を進めることが最も合理的である。小水力発電の開発で成功体験を積むことはエネルギー自給を支えるだけでなく地域の信頼関係や活性化の基礎になる。「モノ」については、小水力発電は日本各地で利用された歴史が長く、技術的に成熟している。水が安定供給されれば安定した良質なエネルギーが得られる。「カネ」については、初期投資が事業計画の大部分を占めるために、最初の開発資金や建設段階の資金調達には大きな壁が立ちはだかっているが、可能な限り地域内資金を投じていくことが重要だ。地域の金融機関なども交えてリスクの分担や緻密な事業計画の策定が各地で進んでいる。

 全国初の市民出資型小水力発電事業では、富山県の建設会社を母体とした事業主体が8億円近い目標額を達成した事例も生まれている。

 私たち全国小水力利用推進協議会は「上流からのエネルギー自立」を提唱し、全国23都道府県で連携して活動する地域団体とともに、小水力利用を通じて多くの人びとが社会のあり方を考え、地域から社会を変えていくことを願って活動を続けている。

*1:土石流を止めたり、土砂を貯める施設

グローバルネット:2014年9月号より


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