元々は金属製だった? 「炎のゴブレット」をガチで作った人に話を聞いてきた

  • 2025年5月17日
  • Gizmodo Japan

元々は金属製だった? 「炎のゴブレット」をガチで作った人に話を聞いてきた
Harry Potter characters, names and related indicia are trademarks of and © Warner Bros. Entertainment Inc. Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.© 2025 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

オークションサイトで映画の小道具が出品されたり、コンベンションなどで一般お披露目されたりして話題になりますよね。

でも、ああいう小道具ってどうやって作られているのでしょうか。どこまで作り込んで、どこまでこだわっているのでしょう? VFXでさまざまなものが作れる昨今でも手作りする意味ってあるのでしょうか?

いろんな疑問で頭がいっぱいな日々を送っていたら、ワーナーブラザーズ スタジオツアー東京で開催される特別企画「炎のゴブレット」に関連して、映画「ハリー・ポッター」シリーズ全作で小道具制作のヘッドを務めたピエール・ボハナ氏にインタビューできることに!

シリーズ4作目にて物語の転換点ともなった映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』の制作にまつわるお話を中心に小道具作りの魅力や楽しさを伺ってきました。

作るとなったら素材選びも徹底

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──小道具をCGにするのか、実物のものにするのかはと言うのはどうやって決められるのですか?

ピエール・ボハナ(以下ピエール):CGにするか実際に作るかは、小道具係が決めるのでは無く、全体を統括するクリエイターたちが話し合って決めるのです。どういった場面で、どのようにアイテムが使われるのか、カメラにはどれくらい映るのかといったことが基準となっています。

──実際に作るとなると、かなりこだわるんですよね。ゴブレットは小さな宝石が散りばめられた金属製の小ぶりなデザインが考えられていたのに、最終的に木製になったと聞きましたし。

ピエール:映画『ハリー・ポッタと炎のゴブレット』における主役級小道具の「炎のゴブレット」なんかは本当にこだわって作りました。美術監督のスチュアート・クレイグから渡された図面は、考えていたデザインとは全く違うものでした。トロフィーのようなものを想像していたのに、渡されたのは古代からインスピレーションを得た木彫りの大きなゴブレットでした。

しかも、スチュアートは、素材にも並々ならぬこだわりがあった。私は最初、メキシコ産のシタンの幹を入手しました。チョコレートブラウン色が綺麗な素晴らしい木だったのですが、スチュアートがイメージしていたのは英国産のニレの木でした。

ただ、ニレの木はダッチ・エルム病という病気の蔓延によって本数が少なくなっているんです。だから材木商を何件も回りました。幸運にも、嵐の強風で飛ばされてきた木を保管している方を見つけることができたんです。

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──それはラッキーでしたね。でも、数少ない木材を扱うなんて緊張しそうです。

ピエール:作業自体はシンプルですが、緊張感がありましたね。

3mほどの長さの木をノミでひたすら削って形成していくんです。生木なので毎日形を変えるんですよ。だから防止策としてシリコンオイルに浸す必要がありました。そして次の日も理想の形になるように掘る。今振り返ってもとても愛おしい時間でしたね。

──制作期間の長さは? 

ピエール:2カ月から2カ月半かかりました。最初の1カ月はリサーチと素材探しの期間ですよ。

個性を出すためのマスク作り。こだわりは果てしなく

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──死喰い人(デスイーター)のマスクはどのように作ったのですか? 

ピエール:死喰い人のマスクが初めて登場したのは、『炎のゴブレット』の後半、トム・リドルの墓のシーンです。その時は顔の半分を骨のようなもの、もう半分が金属プレートになっていました。大きなレザーフードで隠れてしまっていましたが。

しかし、そのデザインに映画制作陣は改善の余地があると思っていた。だから、次作の『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』で見直すことになったんです。中世の鎧や装飾性を意識して、より豪華に、死喰い人(デスイーター)それぞれが富や個性、社会的位置づけを反映できるような存在にしようと決まりました。

──個性の出し方は?

ピエール:エレクトロフォーミングと言われる、電気化学反応を利用して素材に金属を付着させる技術を使いました。最初はすべて銅で作り、その上に酸でエッチングを施しました。必要に応じで何度も繰り返し、その後で型を取り直して最終的に出来上がったものにスターリングシルバーをめっきしました。

パティーナと呼ばれる科学変化による表面加工も施しました。彫刻の世界でもよく使われるもので、化学薬品の組み合わせで銅や青銅に現れる緑青や、銀にできる黒ずみなどを再現するのです。

マスクは全て手作業。一点ものなんですよ。

技術進歩と共に小道具作りは変わる

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──かなりの作業量だったのではないかと思います。『炎のゴブレット』が公開されたのは2005年ですが、その頃と比較して、小道具作りは変化したのでしょうか? 

ピエール:そうですね。今に限らず小道具作りは常に変化してきたのです。そしてこれからも変わり続けると思います。優れた小道具制作者とは、プロセスをしっかりとコントロールしながら、同時に常に新しさや面白さを探し続けることだと思うんです。最終的には、それ自体が面白く、そして敬意を持って作られたものであることが大事なんですよね。

だから、常に「何か面白い方法はないか」と考えることはとても重要だと思います。

──変化には技術進歩による簡略化なんかも含まれますよね。予算にも影響が出そうです。

ピエール:そうですね。私は長くこの仕事を続けてきましたが、「ハリー・ポッター」シリーズでの経験は本当に素晴らしいもので、あの当時のようなやり方で映画の小道具制作をするのは、今では難しくなりました。

当時は、自分たちが作っているものに対して自信を持っていましたし、映画制作者たちも職人たちを信頼して任せてくれていました。今のように、コストや投資をシビアに制御される状況とは違って、全方位的に「質」にこだわる余裕があったんです。残念ながら、今はそれがとても難しくなっています。

──やっぱり予算削減は避けられないんですね。

ピエール:もちろん、予算は常に関係してきますし、そこをどうコントロールするかは重要です。そのために、いかに投資(時間や素材など)を抑えるかという考え方が生まれます。

たとえば「ハリー・ポッター」の時も、ラピッド・プロトタイピング(高速試作)やCAD(コンピュータ支援設計)を使っていました。そして、その技術への自信も徐々についていきました。今でもそれらは僕たちの仕事の核となる部分です。

でも正直、今は少しテクノロジーに頼りすぎている気もしています。たとえば、CADは素晴らしいツールですが、それを使う人が「実際にどのように作られるか」を理解していないと、すべてがシャープで綺麗すぎて、まるでVFXのように見えてしまうんです。見る人はそれを感じ取ってしまいます。

だからこそ、すべてに「本物のキャラクター」を持たせることが大切なんです。本物の素材、本物のプロセスが持つ美しさや物語性。それが作品に深みを与え、ストーリーテリングを助けてくれる。そうした視点を持って作ることが、今の時代こそ必要だと思いますね。

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ワーナー ブラザース スタジオツアー東京では、映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』公開20周年を記念して、期間限定で特別企画「炎のゴブレット」を開催しています。インタビューで話された炎のゴブレットも見られるし、死喰い人(デスイーター)のマスク作りも楽しめるみたいですよ。

Source: ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッター

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