派手に迎えてもらえない宇宙ミッションってなんか悲しいですね…。
金星への旅が失敗に終わったソビエトの探査機が、53年間にわたって目的もなく地球軌道上を周回した末に、ついに落下しました。金星ではなく、地球に。
いくつもの宇宙機関がコスモス482号(Kosmos 482)と呼ばれるこの探査機の再突入を注意深く監視していたものの、報告が錯綜(さくそう)しているため、正確な落下地点は依然として不明なのだとか。
ロシアの宇宙機関ロスコスモスによると、コスモス482号は日本時間の5月10日土曜日午後3時24分ごろ、制御不能のまま地球の大気圏に再突入しました。
この旧ソビエト連邦時代の探査機は、金星の灼熱の温度に耐えられるように設計されていたため、大気圏再突入の高温にも耐えて、一部が燃え尽きずに地表まで到達した可能性があるとみられています。
ただ、これまでのところ、降下の目撃情報も、海洋からの破片回収の報告も確認されていません。
ロスコスモスは、旧ソ連時代の探査機がインドネシアのジャカルタから約560kmキロメートル西に位置する中アンダマン島のインド洋沖に落下したと発表しました。
同じくコスモス482号の再突入を監視していた欧州宇宙機関(ESA)は、再突入時刻を日本時間の5月10日15時16分としています。ESAによると、16時32分に予想されていたドイツ上空の通過を確認できなかったことから、その時点で再突入が完了していた可能性が高いとのこと。
一方で、アメリカ宇宙軍は、再突入の時間帯を14時20分から14時44分の間としており、機関によって多少のずれがあるようです。
正確な再突入時刻がわかっていないため、コスモス482号が地球上のどこに落下したのか、それとも大気圏で燃え尽きたのかを特定するのは難しい状況のようです。
探査機は時速約2万8000kmという猛スピードで移動していたため、たった1秒の誤差でも落下地点が大きく変わってしまう可能性があるとのこと。時速2万8000kmだと、1秒で約7.8km移動しますもんね。
ドイツのフラウンホーファー研究所の観測レーダーシステムが大気圏に再突入する少し前のコスモス482号を観測しています。もしかすると、私たちが確認できる金星探査機の「最後の姿」になるかもしれません。
News from #COSMOS482: On May 10, the capsule entered the Earth's atmosphere between 08:16 and 08:24 CEST. The FHR detected it for the last time at 08:02 CEST with #TIRA. The probe was built in the 1970s for a Venus mission. #Spaceflight #DLR #ESA #SpaceSituationalAwareness pic.twitter.com/OIFyaeLBgo
— Fraunhofer FHR engl. (@Fraunhofer_FHRe) May 13, 2025コスモス482号は1972年3月31日、現在のカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。旧ソ連の宇宙計画による金星の探査ミッションでしたが、灼熱の惑星へ向かうために必要な速度に達することができなかったそう。
NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、エンジン噴射の不具合が原因で金星の軌道に乗れなかったとのこと。
それ以来、この探査機は地球を楕円軌道で周回し続けていましたが、時間の経過とともに大気抵抗の影響を受け、予測されていた通り大気圏突入に至りました。
金星への到達に失敗したあと、コスモス482号は4つの破片に分かれ、そのうち2つの小さな破片は打ち上げから2日後にニュージーランドのアシュバートン上空で大気圏に再突入しました。
残る2つの破片は、キャリアバス(宇宙船の主要部分。推進システムや通信機器などを搭載する部分)と着陸機で、合わせて重量495kgを超える球形圧力容器(内部の圧力を一定に保つための容器)を形成しています。
この探査機にはもともと、金星の表面へ降下する際に減速するための約2.5平方mパラシュートも装備されていたそうです。最近撮影されたコスモス482号の画像では、機体にくっついたパラシュートと思われる布が軌道上でひらひらとはためいている様子も確認できますが、どうやら地球に落下する際には機能しなかったみたいですね。
5月10日の大気圏再突入をもって、コスモス482号の長い旅は幕を閉じました。しかし、探査機がどこに、どのような状態で着地したのかについては謎のままです。
いにしえのさまよえる金星探査機は、無傷のまま海の底で静かに眠っているのでしょうか。それとも大気圏再突入の際に燃え尽きてしまったのでしょうか。
せめて地球ではなく金星に落下させてあげたかったような気がします。
Reference: Fraunhofer FHR / X