7mのイカ、リアルで見たいような見たくないような。
100年以上にわたって、超巨大なダイオウホウズキイカは、深海でもっとも謎のベールに包まれた存在でした。これまでのところ、クジラの胃から見つかった断片や、漁師が海で見かけた瀕死(ひんし)の成体など、情報はめちゃくちゃ限られていたのです。
全長7mにもなるという伝説のイカした深海生物は、これまで近距離から撮影されたことがなかったのですが、ついにその姿を映像におさめたそうですよ!
記念すべきその瞬間は、3月9日に訪れました。シュミット海洋研究所の調査船「R/V Falkor (too)」で調査にあたっていた研究チームは、南大西洋のサウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島付近で、体長がまだ約30cmしかない、ダイオウホウズキイカの生きた幼体の撮影に成功。
研究者たちは、遠隔操作探査機(ROV)「SuBastian」を操作して、水深610m付近というこの種が本来生息している場所でこの赤ちゃんイカを発見したといいます。
その映像というのがこちら。
ちょっと『風の谷のナウシカ』に出てくる王蟲っぽい。
無脊椎動物のヘビー級チャンピオンであるダイオウホウズキイカ(学名: Mesonychoteuthis hamiltoni)が野生環境で確認されたのは、今回が史上初めてとのこと。
この種は、成体になると体重が450kgを超えるくらい巨大になることもあるのに、めったに姿を現わさないため、まるで幻かのように観察が困難なのだとか。
SuBastianのようなROVは、深海のイカを探すのにピッタリなのです。なんせ人間が潜って観察できない深さですから(もし行ったら秒でぺちゃんこになります)。
今回の発見は、「Ocean Census(オーシャン・センサス)」という深海の生物多様性をカタログ化するための世界的なプロジェクトの一環として行なわれました。
そして、奇遇にもダイオウホウズキイカの存在が正式に確認されてから100年目にあたる節目の年に、記念すべき再会を果たしたのです。
でも、話はこれで終わりじゃありません。ダイオウホウズキイカの姿を捉える1カ月ちょっと前の1月25日にも、Falkor号の調査チームは、南極海の南極大陸付近で史上初めてナンキョクスカシイカ(学名: Galiteuthis glacialis)を発見したそうです。
幽霊のような透明な体と、頭の上で2本の触腕を伸ばす動きが特徴として知られるこの種も、生きている姿が撮影されたことはなかったといいます。
数カ月の間に2種のイカの生きた姿を初めて撮影するなんて、かなり素晴らしい成果といえます。シュミット海洋研究所のチームにとっては、ダイオウホウズキイカだけでも十分すぎる収穫だったはずなのに、巨大氷山分離後に海底に現れた古代の生態系も調査したそう。大活躍ですね。
専門家のKat Bolstad氏とAaron Evans氏による映像の詳細なチェックを経て、発見されたイカがそれぞれ推定されていた種であることが認定されました。
彼らによると、ダイオウホウズキイカとナンキョクスカシイカの幼体は見た目が似ているらしいのですが、ダイオウホウズキイカの腕の中央にある小さなフック(かぎ状の突起。動画では伸ばしている触腕の光っている部分)が見分けるポイントなのだそうです。
どちらの幼体も透明な体と長い触腕を持っており、一見するとよく似た姿をしているものの、ダイオウホウズキイカだけが超巨大になるとのこと。目玉の大きさがバスケットボールサイズ、体重が最大500kgのイカってモンスターパニック映画に出てくるレベルじゃないですか。地球上でもっとも重い無脊椎動物といわれるのも納得です。これ以上デカいのがいたら怖いです。
Bolstad氏は、シュミット海洋研究所の声明で以下のように述べています。
本当にワクワクすると同時に、自然界のなかで人間がいかにちっぽけな存在かを知って謙虚な気持ちにもなります。彼らは人間が存在していることすら知らないのですから。
今回のお手柄は、なんといっても頭足類の研究を進めるために貢献してきたSuBastianです。このROVは、2020年にはトグロコウイカ(学名: Spirula spirula)、2024年にはダルマイカ(Promachoteuthis)を本来の生息域で初めて確認したそうです。おまけに未確認種も発見しており、特定を待っているとのこと。近いうちに新種の深海イカ発見がニュースになるかもしれませんね。
ダイオウホウズキイカのような巨大な深海生物は、そのサイズと同じくらい謎も大きかったりします。でも、小さな探査機とほんの少しの運が、姿を隠す天才であるイカにすら光を当て始めているのです。