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「飛行機ではスマホを機内モードに」って、もうやめてもよくない?

  • 2024年3月4日
  • Gizmodo Japan

「飛行機ではスマホを機内モードに」って、もうやめてもよくない?
Image: Shutterstock

日本は「飛行機では機内モードにする」のがルール。破るとおっかない罰金や刑が待ってます。

でも、世界を見回すと、欧州では2022年秋に機内でのスマホの通話やデータ通信の利用を許可する決議が下されてたりして、その感覚は古いのかな…とも感じてしまう今日このごろ。科学的にどうなのか? 科学的に問題がないなら、なぜ未だに禁止なのか?

その辺りの話を整理してみました!

機内モード禁止をやめたEUの場合

なぜ機内モードにしなきゃならないの?と聞くと、大体の人は「機内ナビゲーションシステム、管制塔との通信に、電波が干渉するから」という模範解答を返してきます。

しかし、現実には電波干渉で飛行機が落ちるようなことはまずありません。

現に欧州では禁止がいち早く解禁となり、「バイバイ、機内モード」と大々的に報じられてもいます。

EU内の飛行機では「機内モード」がいらなくなる 来年からEU諸国では「機内モード」さようなら〜。EUでは来年から上空でスマホでネット使用可能になり、なんなら通話まで可能になりそうみたいです。これまで乗客は料金を払って遅いwifiを使っていましたが、これからは航空会社が5Gを提供することになります。欧州委員会の決定した今回の新しい法令により、乗客は5Gでストリーミング動画や音楽、アプリ、通話まで可能になるそうです。「空の旅にネットワーク制限はな https://www.gizmodo.jp/2022/12/airplane-mode-uk-airlines-air-travel.html

このとき禁止をやめることと引き換えに、全航空機に設営が義務付けられたのが「ピコセル(picocell)」と呼ばれるもの。ピコセルは5G通信基地局で、巨大な電波塔がマクロセルなら、ピコセルは機内に積めるぐらいちっちゃなものです。電波の届く範囲は200m圏内。電波障害の心配はないんですね。

科学的根拠はあまりない

もっともピコセル自体は20年も前からある技術ですし、ピコセルを持ち出すまでもなく、科学的に見て「機内の電気系統にスマホの電波が干渉する」ことを裏付ける根拠は、あまり見つかってないのが現実です。

米連邦航空局(FAA) が2012年に行なった調査でも、携帯電話の使用が航行の妨げになったことを実証した事例は、ほぼ皆無でした。仮に証拠が示されていたとしても、その大半は事実考証に基づかないものだったり、古くて使い物にならないものだったりしたのです。

それでも禁止するのはなぜ?

では、なぜいまだに「電子機器の電源を切ってください」とアナウンスする航空会社があるのか?

本当の理由を調べていくと、アメリカの場合、ぶっちゃけみんな人混みに慣れていないので、耳元で通話とかされると居眠りどころじゃなくなって「機内ブチ切れモード(Air Rage)」になっちゃう。だから当局も未だに禁じているみたいなのです。

ストレスフルな空の旅。怒ると乗客、乗員に当たり散らして手が付けられなくなりますもんね。

特にコロナ後はコントロール不能な乗客がものすごく増えていて、よく「客が暴れて緊急着陸した」とか「搭乗口に引き返した」ってニュースが誌面を賑わせています。FAAのデータを見ても、2021〜2023年は迷惑行為の乗客がのべ1万人以上を記録しており、2018〜2020年の水準から約300%も増えているのがわかります。まあ、そういう流れもあって、未だに機内モードから足を洗えずにいるってなわけです。

勘違いの出元はどこ?

そもそも機内での携帯電話の使用を禁じたのは米連邦通信委員会(FCC)で、1991年のことでした。

禁じた理由は「地上との通信に障害を来たすから」。

でも、2005年には当の言い出しっぺであるFCCが「今はピコセルもあることだし、電波障害の問題はもうないよね」と国会で証言しちゃってるんですよね…。FAAのニコラス・サバティーニ長官もそれに同調するかのように、次のように証言しています。

「機内での800MHz帯域の携帯電話の使用を(FCCが)禁じたのは、陸地や地上ベースの電波網を保護するためだったが、1991年以降の携帯電話技術の進化によって、禁止の必要はもうなくなっているのかもしれない」

ただ、技術的には問題なくても、国民の心理は別問題。

8年後の2013年にFCCの新委員長に就任したトム・ウィーラー氏が、満を持して「機内での携帯の使用を許可します!」と言い出したときにはフルボッコに遭います。

みんな技術的な話はさておき、唯一最大の関心事は「話し声がうるさくて大げんかになる」というところでした。

ある議員は「『上空3万フィートでケージファイト』というリアリティTVのようなことになる」と猛反対。これにはやる気満々だったウィーラー委員長も、「自分だって耳元でペチャクチャしゃべられたら嫌だ」と同調し、「新しい技術で古いルールが通用しなくなったのなら、FCCは政府を航空会社と乗客の板ばさみから解放すべきだよね」と言うのが精一杯だったもようです。

空でブチ切れる客以外、特にこれと言った反対材料はなかったのですが、こうして国会や航空会社からの圧力に屈する形でFCCも禁止を続けて今に至るというわけです。

「スマホなんか認めたら空がカオスになる」という謂れのない恐怖で、こんなひと昔前のルールがズルズル残り続けてるという流れ。その意味では、「機内モード」は「空の安全」のためというより、政府が義務付けた「マナーモード」という言い方もできそうです。

染みついた恐怖と習慣は抜けない

Gizmodoではこれまでにも「Macだからウイルスない、は嘘」、「アプリ閉じると電池長持ち、は嘘」などの記事がありましたけど、今回の「機内モード」も「なんとなく説得力があるので、つい体が反応してしまって抜けない習慣」ですよね。

アメリカでは「空の安全」のためと、かなりのところまでやるので(検問でボトルの水を一気飲みしたり、靴を脱いで全身スキャンしたり)、機内モードに切り替えるぐらいのことはもう不便とも感じません。そういうのも大きいように感じます。

でも、よく頭を冷やしてみると、おかしな話ですよね。機内モードに切り替えたって、機内のWi-Fiは使えちゃうんだもん。その方が隣の人の迷惑にならないっていうのなら、機内モードだけ禁じる理由もわかるのだけど、別にスマホの回線でつなげたって、Wi-Fiでつなげたって、迷惑の度合いは一緒なわけで…。

最近はほぼすべての機内で有料のWi-Fiが利用できて、通話もネットもゲームも自由にできます。ピコセルの普及がもっと進めば、Wi-Fiが無料になることも考えられます。

そんな時代の流れなのに、機内モードがここまで必要と思われているのは、もしかしたら空を飛ぶことに対する恐怖の裏返しなのかもしれませんね。みんなでルールを守れば万事滞りなくいく。機内モードにしないと安全な空の旅は望めない。そう深層心理に刻み込まれているので、使わないと罪悪感を覚えてしまうんですよ。日本はいつまで続くんでしょうね、機内モード。

航空会社がウソついてる? 旅行客がAirTagを使って自分のロストバゲージを追跡 航空会社に荷物を紛失された女性が、AirTagを使って自分の荷物を追跡して無事取り戻す。 https://www.gizmodo.jp/2024/01/lost-baggage-tracking-with-airtag-1.html

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