「カムカム」安達もじりと堀之内礼二郎がNHKから独立 フリー映像監督と制作会社代表になって叶えたい夢は「関西を映像文化の拠点に」

  • 2025年5月3日
  • CREA WEB

「あらためて名作」との呼び声高い朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(NHK総合/2021年度後期)の再放送が4月29日、最終回を迎えた。

「カムカム」のほか、土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」(同/2020年)や朝ドラ「まんぷく」(同/2018年度後期)など、NHK大阪制作の名作ドラマや、阪神・淡路大震災から30年の2025年1月17日に公開された映画『港に灯がともる』を手がけた安達もじり監督と堀之内礼二郎プロデューサーが取材に応じた。

 堀之内Pは今年1月にNHKから独立し、『港に灯がともる』を生んだ制作会社「ミナトスタジオ」の代表に。安達監督は「カムカム」再放送最終回放送日翌日の4月末日でNHKを退職し、フリーの映像監督となった。2人が新たに挑むのは「神戸から世界へ」発信する映像作品。新天地への意気込みと、もの作りに対する思いを語ってもらった。

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ふたりがNHKから独立したのは


堀之内礼二郎氏(左)と安達もじり氏。

――NHK退職の理由は何だったのでしょうか。

堀之内礼二郎プロデューサー(以下、堀之内) 「心の傷を癒すということ」制作中の2019年頃、ずっとチームワークで一緒にやってきた仲間たちと「この先何年間、どういう作品を作っていくか、何を成し遂げていくか」みたいなことを話すタイミングがありました。そこで(安達)もじりさんが「関西を映像文化の拠点にする」というビジョンを示してくれたんです。

安達もじり監督(以下、安達) でっかい夢を語っただけなんですけど(笑)。

堀之内 漠然としたイメージではあったんですが、「関西でもの作りをする」というのが、僕にはすごくしっくりきたんですよね。

安達 でもそんなこと言うて、いきなりそうなるわけじゃないので、できることから1個1個やっていこうという思いで作品を作ってきました。いつかは外に出て、という思いと、NHK大阪に残ってできることもあるなという思いもあって。そんな中で、朝ドラ「べっぴんさん」(NHK総合/2016年度後期)にはじまり、「心の傷を癒すということ」など、この10年で神戸にまつわるいくつもの作品に携わる機会をいただいて。

 さらに「心の傷を癒すということ」から繋がったご縁で、震災から30年後の神戸の人々を描いた映画『港に灯がともる』を制作することになり、一度神戸に腰を据えて、神戸を題材にした作品に集中しようと思ったんです。自分なりに総合的に考えて、このタイミングでの独立となりました。

――堀之内さんのミナトスタジオは神戸が拠点で、安達さんも神戸に引っ越されるとか。

堀之内 ミナトスタジオの「ミナト」は神戸をイメージしています。もじりさんは先日部屋が決まったんですよね。

安達 自分が「そこに住んでいる人間」として何かを見つめて描く、ということを、1回とことんやってみたくて。

――堀之内さんは一足早く、今年の1月にNHKを退職されました。

堀之内 『港に灯がともる』は、僕ともじりさんがNHKの関連会社「NHKエンタープライズ」(以下NEP)に出向中だったので制作することができたんですが、映画が完成したあと、2人ともNHK大阪に戻ることになりました。NEPは民間企業ですが、公共放送であるNHKの職員のままでは、やはり十分な宣伝活動ができない。この映画を自分たちの責任で、ちゃんと届けていかなければならないということと、次に向かう足場を早めに作るためにも、僕は一足先にNHKを辞めました。プロデューサーは場を作るのが仕事なので。

――名コンビのおふたりがNHKを去られたとなると、朝ドラファンにとっては少なからずショックなのではないかと。

安達 いや、コンビにはしないでください(笑)。

堀之内 退職のタイミングを別に示し合わせたわけではないんです。今後の制作についても、合流することもあれば別々の作品をやることもある、というスタンスで。

――プロジェクトの拠点が大阪でもなく、京都でもなく、なぜ神戸だったのでしょうか。

神戸という土地が映像制作にぴったりな理由


神戸を拠点に新たな映像作品を制作していきたいと語る二人。

安達 港町であり、国際都市であり、世界中のいろんな地域にルーツを持つ人たちが住む街というところにまず惹かれました。皆さん、いい距離感で共に生きいてらっしゃるな、というのを肌で感じます。

堀之内 そう、距離感が心地いいんですよね。その優しい空気感みたいなものが映像にも映る気がします。海があり、港があり、山があり、独特な街並みがあり、とにかく映像的に魅力的な街なので、プロジェクトの拠点にするならぴったりだと思いました。

安達 ちょっと歩くだけで、いろんな表情があるんですよね。神戸という街にポイントを絞ることで、逆に普遍的な物語が作れるのではないか。それをとことん深掘りしたいと思いました。ひとまず、5年ぐらいは神戸で作り続けようかと。それがまた種となって、どんな花を咲かせていくかは、やってみないとわからないけれど。

堀之内 僕は九州の出身で、神戸にゆかりのない人間ですが、地元の皆さんがすごく温かく、「来るもの拒まず」でパッと受け入れてくださるんです。そういう間口の広さがとても素敵だなと思いますし、今の時代非常に大事なことなのではないかと感じます。そして皆さん「神戸愛」がとても強い。震災を乗り越えてきたという絆もあるんでしょうね。

安達 車を1〜2時間走らせれば大阪・京都にもロケに行けますし、どんなジャンルの作品でも撮れる。私も堀之内もそれぞれができることをプロジェクト単位で積み重ねていって、「気づいたら関西が盛り上がってました」みたいなことになっていたらいいなと。大阪・京都とも連携をとりつつ、いつか関西が香港や、釜山、ムンバイのような映像文化拠点になることを夢見ています。

――おふたりとも映画もドラマも両方やっていかれるんですか?

堀之内 そうですね。神戸を中心とした関西を拠点に作れる面白い題材があればなんでも。ひとつひとつはコンテンツだけれど、関西全体が映像作品を介したアトラクションみたいになっていけばいいなと。それを長く続けていくことで、関西を映像文化の拠点にするという夢を実現させていきたいです。

安達 私は今までできなかったことを全部やってみたいという気持ちです。映画・ドラマの他にもCMとかミュージックビデオとか、チャンスがあればなんでもやりたいです。

――民放地上波やNetflixなど配信の作品の可能性も?

安達 お話をいただけたなら、すごく光栄です。もちろん「神戸を舞台にした、こんな企画があります」という提案をしに、走り回りたいとも思ってます。どんなメディアにも共通して言えるのは「観てくださる人がいる」、あるいは「観てくださる人をゼロから呼んでくる」ということなので、その行為も含めて「作品を届ける」ということなのかなと。(つづきを読む:NHKでやってよかった番組は「のど自慢」と高校野球中継…「カムカム」「まんぷく」数々の名朝ドラを生み出した名コンビがNHKから独立し新天地へ)



ミナトスタジオとは

2023年に神戸で生まれた映像プロダクション。神戸を拠点としながら、関西の優れたクリエイターたちとともに、世界に通用する質の高い映像作品を創り出し、よりよい社会の実現を目指している。
同社は、NHK土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」の主人公の精神科医のモデルとなった安克昌氏の実弟である安成洋氏が設立した。劇場版の上映活動を続ける中で、映像作品が心に傷を抱える人々の苦しみを癒し、前に進む勇気を与え、感動を通じて人生を変える力を持っているということを実感したことがきっかけになった。その後、元NHKプロデューサーの堀之内礼二郎氏を共同代表に迎え、もっと優しい世の中になることを願いながら、作品作りや上映活動を続けている。
https://www.minato-studio.com

安達もじり(あだち・もじり)

演出家・映画監督。主な演出・監督作品は、映画『港に灯がともる』、NHK連続テレビ小説「カーネーション」「花子とアン」「べっぴんさん」「まんぷく」「カムカムエヴリバディ」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「夫婦善哉」「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞最優秀賞受賞)「探偵ロマンス」、ドラマスペシャル「大阪ラブ&ソウル この国で生きること」(第10回放送人グランプリ受賞)、夜ドラ「バニラな毎日」など。

堀之内礼二郎(ほりのうち・れいじろう)

1979年、宮崎県出身。NHKで様々な番組制作に携わる。2012年にロサンゼルスでハリウッド流プロデュース術を学んだ以降は、プロデューサーとしてドラマ作品を制作するように。2025年、NHKから独立してミナトスタジオへ。NHK在籍時の主なプロデュース作品に連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(第47回エランドール賞プロデューサー賞)「まんぷく」「べっぴんさん」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞ドラマ部門最優秀賞)など。NEP在籍時には映画『港に灯がともる』をプロデュースした。

文・撮影=佐野華英

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