
実母の過干渉に悩む40歳女性。結婚したときは「ようやく一人前」、その後は「子どもを産んでこそ女」。38歳でようやく妊娠、出産したら実母の嫌みはさらにエスカレートすることに。実母から逃れるために女性が決意した「驚きのルール」とは。
厚生労働省の人口動態統計によると、第一子の平均初産年齢は、2023年(令和5年)で31.0歳となっている。約30年前には27.5歳だったので、かなり上がっていることが分かる。晩婚化が進んでいるのだから当然なのだが、30代半ば以上で産む人たちも増えている。
■やっと子どもに恵まれて
34歳のときに結婚したが、なかなか子どもができなかったマリエさん(40歳)。3歳年上の夫は「互いに仕事が好きなんだし、子どもはいてもいなくてもいいんじゃない?」とのんきに構えていたが、マリエさんは内心、焦っていた。
「夫も私も1人っ子。義父母からは無言の圧を感じていたし、私の母などは『やっと娘が結婚したのに孫も抱けないなんて』と涙ぐむ始末。私自身、子どもを産むために結婚したわけじゃないと言いたかったけど、孫を期待する親の気持ちも理解できたから、苦しい日々は続きました」
夫に頼み込むようにして夫婦で検査を受けたが、二人とも健康体で問題なしだった。不妊治療も考えたがどうしても踏み込めず、もうあきらめようと思っていた38歳のとき、ようやく妊娠。
「うれしかったですね。ただ、私たち夫婦以上に喜んだのが実母でした。義父母は少し遠慮があったんでしょう。私の体をとても案じてくれました。でも実母は無遠慮だから、『高齢出産って問題ある赤ちゃんが生まれるんじゃないの?』って。失礼すぎですよね。
問題ある赤ちゃんって何よと思わず言い返しました。どんな子だって待ち望んだ子ですから、大事に育てる覚悟はできていた。でも母は『ただでさえ人1人育てるのは大変なんだから、ちゃんと丈夫な子を産みなさいよ』って。丈夫じゃなかったら、私のせいなのかと思いましたね。
それ以外にもひたすら先輩風を吹かしてくるから、『あなたの時代とはもう出産も子育ても変わってるの。よけいなことは言わないで』とくぎを刺しておきました」
■母のお節介に閉口
それでも母は絶えず、いろいろとお節介を焼いてくる。母の口うるささに閉口して、就職と同時に家を出て1人暮らしをしていたマリエさんだが、結婚したとたん母はやたらと連絡をしてくるようになった。
「私が結婚したとき、ようやく一人前になったねと言ったんですよ。うっとうしいなと思っていたら、今度は『子どもを産んでこそ女だからね』って。そういうことを言うから私は逃げたくなるんです」
母からの電話には出ないようにし、LINEの連絡も5回に1回くらいしか返事をしないでいた。それでも母はめげずに連絡をとろうとしてくる。
■子どもが生まれてからはなおうるさく
共働きを続けるために、生後8カ月で保育園に預けることにしたが、そのときも実母は「子どもがかわいそう」と言い続けた。
「これを逃したら、今度いつ保育園に入れるか分からないのと伝えたのに、まるで私が保育園に子どもを捨てるような言われ方をしました。いいかげんにしてと母を家から追い出したこともあります。それでも保育園のお迎えができなければ母に頼むしかない。それがなんだか悔しくてたまらなかった」
会社も配慮してくれ、なるべく残業のない部署に異動させてくれたのだが、それでもときには残業となることがある。夫の実家は遠方なので、実母に頼るしかない。
「母はもちろん頼ると喜んでやってくれる。さすがに自分の孫を傷つけるわけもないから、他人に頼むよりはやはり安心なんですよ。でもそのつど、嫌みを繰り出すから私が疲れちゃう」
つい先日も残業となったために母に迎えを頼んだ。急いで母のところに行くと、母にあきれたように「あんた、ひどい髪形ね。髪もバサバサだし。身の回りもかまわないと会社でどう思われるか……。その前にダンナさんに女として見られなくなるわよ」と説教された。
■昔の育児書のような母の言い分
「この年でどうしてそんな説教をされなければいけないのか分かりません。夫婦のことに口を出さないでと抗議したら、『あら、そうやって女を捨てたときに夫は浮気するものよ』ですって。夫にも失礼ですよね、びっくりしました」
母乳で育てろだとか、泣いたらとにかく抱っこし続けろだのと、母の言い分は昔の育児書のようだった。
「うちで夫が子どもをあやしていたら、『ダンナさんにそういうことをさせちゃダメよ』って。うちは二人で子どもを育てるの、お母さんだってよくお父さんが子育てしてくれなかったって文句言ってるじゃないと言い返したら、『私はお父さんを立ててたわよ』と。
自分の都合のいいように記憶を塗り替えるのは母の得意技なので、知らん顔することにしましたが、子どもが生まれてから母との関係は悪化の一途でした」
“母親”としての先輩だというのが母の主張だが、母の子育てが必ずしも理想的だったわけではない。そもそも口を開けば否定的な言葉しか出てこない母に、いい子育てができるはずもないのだから、保育園のお迎えだけやってくれればいい、口を出さないでとマリエさんは宣言した。
「じゃあ孫だと思わないことにする。アルバイト代を出してちょうだいと言い始めました。だから今年から払うことにしました。お迎えと子守代で1回3000円くらい。なるべく頼まないようにしているので、せいぜい月に3、4回で済んでいます。
実の娘からお金をとる母親ってどうよと思いますが、これで口を挟まないようになれば私も割り切ることができる」
夫は「親子関係、大丈夫?」と心配しているが、マリエさんにも意地がある。いつまでも一人前の人間だと認めない母への「せめてもの抵抗」なのだと苦笑した。
<参考>
・「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚生労働省)
▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
亀山 早苗(フリーライター)