「新しいことに挑戦したい」とつづ井さんが上京を決意?!
健康のためにトレーニングをしていたはずが女武闘家になってしまったり、東京の犬と触れ合いたくて悶絶したり、ひとり暮らしで衰えた表情筋を鍛え始めたり……つづ井さんが都会をエンジョイしまくる新シリーズ『とびだせ! つづ井さん』の刊行を記念して、新境地への意気込みや上京秘話をお聞きしました。
――待望の新シリーズ、第1巻刊行おめでとうございます。それにしても、地元にあんなに仲良しのお友達がいらっしゃるので、東京に出てくるのは迷いませんでしたか?
つづ井 「やったことのないことをやりたい」がモットーなので。それを求めて生きているので(笑)。でも、私に東京暮らしができるなんて思ってもいなかったです。いろんな条件がかみあって、たまたま状況が許して選択肢にのぼってきたみたいな。実家での老犬の看取りのあと、気持ちが落ち着いたところで「よし出るぞ」と決意しました。
――ひとり暮らし自体は初めてではないですもんね。
つづ井 前回のひとり暮らしのときは地元に帰りやすい土地でしたし、近くに住んでいる友人もいたので、そこまでさみしさはなかったです。でも東京に来たら、地元とか友人との物理的な距離もあって「これが本当のひとり暮らしか」と実感しましたね。
――住む場所はどうやって決めたのでしょうか。
つづ井 まったく土地勘がないので、担当編集さんに相談しまして。駅前はそんなににぎやかすぎず便利すぎず、でも外食できるご飯屋さんはそこそこあって……みたいな希望に沿っていくつか候補をあげていただいて、実際に駅のまわりを見て決めました。
――知らない土地で暮らすのは心細いと思いますが、それゆえの楽しさも伝わってきて「さすがはつづ井さん!」と膝を打っちゃいます。
つづ井 外に出ても知ってる人がだれもいないっていうのがまず新鮮です。今、めちゃくちゃアツいのがウォーキングのついでにゴミ拾いをすることなんですが。これが地元だったら、すぐご近所さんに「ゴミ拾いしとんの?」とか声をかけられちゃうんですよね。でも、東京ではだれも私を見ないし気にとめない。すごくいいんですよ。「これが東京だ!」なんて思いながら(笑)。
――なぜゴミ拾いを始めたんですか?
つづ井 今、完全に在宅の仕事なので、日光を浴びるために1日1回、1〜2時間外を歩くって決めてるんです。そのついでで始めたんですけど、ゴミを拾うと気持ちがよくて楽しくなってくる。ゲームみたいな感覚です。
――単純にたくさん拾えるとうれしい、みたいな?
つづ井 はい。私、ゲームとかでも、隠されてるアイテムを細かく全部拾うのが好きなんです。成果が目に見えるのがおもしろくて。ボランティア精神ではなくてゲーム感覚で、集めるのがおもしろくてやってる感じです。それが「東京だからできる!」みたいな……東京の良さを改めて感じてます。
――やっぱりすべてが独特です! つづ井さんがそういう気持ちでおもしろくゴミ拾いをしていると思うとマネしたくなってきます(笑)。
つづ井 あ、東京で勝手にゴミを拾っていいのかな、何かの法に触れたりしないのかなと思ったので一応調べました。大丈夫みたいでした。で、調べると地域で集まってゴミ拾いする団体もいっぱいあるんですね。私はひとりで好きな時間にやりたいので、ひとりでもくもくとやってますが(笑)。
――その一方で、「とびだせ! つづ井さん」では飲み屋で知らない人に話しかけるというエピソードも登場していますね。
つづ井 あれは私としては大きな一歩でした。30年自分とつきあってるけど、「自分ってこんなことするんや」という驚きもありました。やったことないことやってみようとは常々思ってるけど、でも、自分の予想を裏切って行動するってなかなかできないことが多くて。このときは体が勝手に動いた感じですかね。
――お店でなんとなく顔見知りになって、いつのまにか友達になっちゃうことってありますよね。
つづ井 私の地元ではないだろうなと思いますね。ひとりで飲みに行くのはもともと好きなんですけど、このあと自信をつけたというか経験値を積んだ気になって。お店で話しかけられてお友達ができたりするようになってきたので、東京ってすごいなと思ってます。
――ほかに東京で暮らしてみて驚いたことはありますか?
つづ井 当たり前のようですけど、テレビや雑誌で見たところにすぐ行ける便利さですね。東京ってそうなんだと頭でわかってはいたけど、実感をともなって改めて驚きました。今SNSで流れてきたおいしそうなご飯のお店にもバズってる場所にも、電車に乗ればすぐ行けるんだと……。
――コミティア(同人誌即売会)に行ったことも描かれてましたね。
つづ井 まさかその日の朝に思い立ってイベントに参加できるなんて! 東京っていろんなことのハードルが下がるんですよね。
――東京って催しが多いですからね。
つづ井 コンテンツにあふれていますよね。東京に住んで1年半が経ちますが、どの駅で降りてもキョロキョロしちゃう。地元の友達が東京に来て遊んだりするときもそうです。みんな、あんなお店もある、こんなお店もあるって大はしゃぎしちゃう。でも、山手線とかにランドセルをしょった子がひとりで乗ってたりするのを見ると「この子にとってはこれが原風景なんだ」って……そういう光景を見るとハッとしてしまいますね。
――そして、1巻のハイライトはやはり仲良し5人組による「大人の大はしゃぎ」でしょうか。写真館での撮影、野外遊びに体育館遊びと盛りだくさんで。どうやって計画しているんですか?
つづ井 近年それぞれ忙しくなってきていて、かなり前から計画しないと予定を合わせるのが難しいので、そこにやりたいことをキュキュッと詰めこんでいます。5人組での写真撮影はずっと前からやりたくて、4〜5年言い続けてたのがやっとかないました。
――出来栄えはもちろん、撮影現場での高揚感にワクワクしました!
つづ井 データのほかに成人式の写真みたいな大判のプリントもしてもらって。
――野外遊びと体育館遊びは、なかなか大人の女性がやらない遊びではないかと?
つづ井 気合いを入れてやりました! 体育館は貸切で人目がないので意外とハードル低いですよ。野外だと周囲にちっちゃい子たちもいるのでちょっと勇気がいりますけど。でも、遊び始めるといつも通り、のめりこんじゃうんですが(笑)。
――遊びのバリエーションの豊かさに感動するんですよね。体育館でもいろいろな種目にチャレンジしていて。また、バドミントンとかは2人いればできるんですけど「友達がやってるのを見る」のもおもしろいという感覚を思い出しました。
つづ井 そうそう。友達が見たことない動きしてるのを見るのも楽しいんですよ!
――これから5人組でやってみたいことは?
つづ井 みんなでパーソナルカラー診断をして、結果をもとにお互い似合う服や化粧品を見つくろい合う会をやりたいねって話してます。みんな大人になってきて、ファッションやメイクの好みがそれぞれ確立してきているので。「こういうの似合うよ」ってほめたり「そう思ってくれてたんだ、ありがとう」みたいに言い合うのは楽しいだろうなぁって。お友達にほめてもらえたらうれしいですよね。
――ひとりでできることも、仲良しからの感想込みだとまた別物のイベントになりますね。
つづ井 前の「つづ井さん」のシリーズでも描いた「リモート選手権」もすごく楽しかったのでまたやりたいです。実際に集まらなくてもできるし。
――前は仮装大会や夏祭りをリモートでやっていましたよね。リモートなのにそこまでやるかみたいな⁉︎
つづ井 逆にリモートだからこそそこまでできるってこともあるんですよね。自宅にいるから存分に準備できるし、持ち運びや着替えを気にしなくていいので。自宅ならではの競技として考えたいですね。
――どこを切っても「楽しい!」に満ちあふれているつづ井さんの絵日記、これからも楽しみにしています。
つづ井 「とびだせ! つづ井さん」というタイトルに見合うよう、自分の殻を破るというと大げさですが……新しい世界に挑戦してみるという感じのお話をいっぱい描いていきたいなと思います。
つづ井
元気で楽しそうな姿が評判を呼んでいる。作品に『まるごと 腐女子のつづ井さん』(文春文庫)『裸一貫! つづ井さん』『老犬とつづ井』(文藝春秋)。
文=粟生こずえ